第6話 ディールナイト狂想曲 3/5
「翔虎。お客さん? あら? 直ちゃん、こんにちは」
「おばさま、こんにちは」
道場に入ってきた翔虎の母は、直と挨拶を交わし、
「そちらは?」
と、亮次に目を向けた。
翔虎が言いあぐねていると、直が、
「ああ、この人は……こちら、翔虎と私の友人の、叢雲亮次さんです」
「ムラクモさん? そうでしたか、いつも翔虎がお世話になって」
翔虎の母親は腰を折って深々と頭を下げた。それを見た亮次は慌てて、
「いえいえ、こちらこそ翔虎くんには世話になりっぱなしで……」
と、同じように深く腰を折る。
「えーと……三年生ですか? ずいぶん大人っぽいから。あ、でも表に停まってたオレンジの車……」
「あ、はい、いえ、私はですね……」
「大学生なんです」
言い淀む亮次の代わりに、直がそう言って、
「大学の学生さんで、東都学園文芸部のOBなんです」
「そうなんですか。それはそれは。この子」
と、母親は翔虎に目をやり、
「推理作家になるのが夢なんですよ。どうか指導してあげて下さい」
「母さん、そんなこと今言わなくても――」
「これからお昼ですけど、直ちゃんと、えーと……あ、ムラクモさんも食べていかれます?」
「いえ、私はこれで……」
亮次は辞する意味のことを口にして、道場の出入り口に向かい、
「それじゃ、翔虎くん、直くん、また」
と言い残し道場を出た。
「僕、見送ってくる」
「私も」
と、翔虎と直もその後を追っていった。
「大学生か。咄嗟によくそういうこと思いついて喋れるね。すごいよ直は」
「何? 調子のいいやつみたいな意味?」
「そ、そんなんじゃなくてさ……」
「いや、助かったよ直くん」
狭い翔虎の家は、道場を出てすぐに玄関まで辿り着く。三人は表の駐車スペースに停めてある亮次のオレンジ色のSUVを前に話し込んでいた。
「咄嗟にって言うなら、翔虎もじゃない」
「何が?」
「昨日のストレイヤーをやっつけた時の、敵の腕を錬換して脱出したあれよ。起死回生の一撃だったじゃない」
「ああ」
亮次も感心して、
「あれは見事だったな。錬換をあんなふうに使うなんて。やっぱり翔虎くんは戦いのセンスがあるよ」
「でも、そんな乱発はできませんね」
と、翔虎は、
「錬換にもエネルギーがかかるなら。それに、一時的にストレイヤーの体を失わせることはできるけど、連中はすぐに再生しちゃう」
「そうだな。しかし、戦術のひとつには変わらない。さっきも言ったが、翔虎くんの命のほうが大事だからな。こんなこと言うまでもないことだが」
「授業中とかに抜け出すのストレスだから、今日とか明日みたいな休日にストレイヤーが出てくれたらいいんだけどな」
翔虎はそう言って組んだ両手を上にあげて、大きく伸びをした。
「ストレイヤーが出たほうがいいなんて、不謹慎じゃない?」
直の突っ込みに翔虎は、
「でも、ストレイヤーは自然災害みたいな、起きないに越したことはない、っていうものじゃない。確実に存在して、いずれ全部と戦わなきゃいけないんだ……」
「うん、そうだね……」
直も翔虎の言葉に納得したようだった。
翔虎は掌に指で計算するような仕草で、
「トランプのマーク四つ掛ける十三……五十二。今、七つの装備を持ってるから、五十二引く七で……四十五。あと四十五体と戦わなきゃいけない」
「結構な数だね……あんな戦いを、あと四十五回……」
直は沈んだような表情を見せた。
「暗くなるなよ直。……ねえ、亮次さん」
翔虎は話し相手を亮次に変え、
「すべてのストレイヤーを倒したら、どうなるんですか?」
「どうなるって……平和が戻る。そういうことじゃないかな」
「うーん、違くてさ、ストレイヤーを全部倒すってことは、ディールナイトの装備が全部揃うってことですよね」
「ああ、そういうことだな」
「どうするんですか?」
「どうする、とは?」
「戦う相手がいなくなって、すべての装備が揃って最強になったディールナイトは、それからどうしたらいいんですか?」
「それは……」
亮次は難しい顔をして言い淀んだ。
「そもそも……」
と直が、
「ディールナイトって何なんですか? 誰が、いつ、どんな目的でこんなものを作ったんですか?」
「……わからないんだ」
亮次は二人と視線を合わせないように目を逸らして呟き、
「私はもう行くよ。やることはたくさんあるからね」
そう言って運転席に乗り込むと、
「ご両親によろしく。二人ともゆっくり休んでくれよ。何かあったら呼び出させてもらうけど。それじゃ、直くん、翔虎くん」
ウインドを開けて二人に手を振りながら、亮次は車を出し走り去った。
「……おかしな人だね」
「うん、悪い人じゃないんだけど、ないんだろうけど……」
そう言いながら直と翔虎は、車が角を曲がり見えなくなるまで手を振っていた。
「翔虎、直ちゃん、お昼出来たわよ」
玄関のドアが開き、翔虎の母親が顔を出して声を掛けた。
「はーい、今行きます」
直がその声に答えると、母親は「居間に用意してるからね」と言い残して、顔を引っ込めドアを閉めた。




