6『アマリリス』
「ラファエル、カトリーヌ、サマンサ…、レイチェル…?」
「何を呟いているの? 過去に付き合った人の名前?」
アマリリスが訊くと、アヴィオールは心外だと言うような顔で答えた。
「君の名前だよ! まさか、昨日の約束は忘れてないよね?」
「覚えているけど…」
まさか本気にするとは思ってなかった。
と言ったら、怒るだろうか。
「えーと、回答権は一度だけだからね?」
「もちろん。それで十分だ。ただ、候補を呟くのは許してほしい」
「別に良いけど…?」
「余裕だね。それじゃあ、天使のように慈愛に満ちた君に一つ質問をしてもいいかな?」
「なに?」
「『アマリリス』は、君が選んだ?」
そう訊かれ、アマリリスは一瞬ドキリとした。
「…えぇ。私が自分で選んだわよ」
「そっか。綺麗だよね。俺も大好きだよ、アマリリス」
アヴィオールが目を細めて、アマリリスの顔を覗き込むように言った。
「…私はそんなに好きじゃないわ。香りがきついし…。色もあんまり…」
「……」
アマリリスは花の名前だ。
赤い花で挿し絵で見たときは気に入ったのだけど、実際に見ると真っ赤過ぎて何となく違うと思ってしまった。
「貸してもらった植物図鑑は古いものだったから、塗料が色褪せてたみたい」
「と言うことは、君が好きなのは、もっと赤茶…、渋みのある色かい? アンティークローズみたいな?」
「アンティークローズは知らないけど…。明るい色よりは落ち着いた色のほうが、好きだわ」
うんうん。と、なぜかアヴィオールは満足そうに頷いた。
「なるほど。君とこうして事務連絡以外の話が出来るのは、なかなかいいね」
参考にさせてもらおう。
そう呟いているが、なんの参考になるのだろうか?
「…もし、私といるのが嫌なら…」
アヴィオールとアマリリスが共に行動するのは、教会が決めた組み合わせというだけだ。そもそも任務なのだから、楽しい会話は必要ない。
それでも、アヴィオールは任務や会話に楽しさを求める人らしい。
私は、任務に楽しさは求めないから、他の人と組んだほうがいいのではないかしら?
魔獣の封印を担う者は他にもいるし、任務は何もそれだけではない。
教会に言えば、きっと配置を変えてもらえるだろう。
「まさか! 昨日も言ったけど、俺は君が良い。直ぐに君の名を呼んでみせるから、どうか待っていて」
「…?」
…別に、私は名前を呼んでほしいとは一言も言っていないけど…?
首を傾げるアマリリスが疑問を口にする前に、アヴィオールはそっと一通の手紙を渡した。
「さっき届いたと、シスターが持ってきてくれた。本部からだよ」
「わぁ!」
嬉々としてアマリリスは受け取った。
本部からなら、新しい任務が記されているはずだ。
「!」
「一枚のハンカチですら、素直に受け取ってくれない君をこんなに笑顔にさせるなんて…」
「なにか言った?」
「いいや、なんでもない。どうやら、新しい任務はやりがいがあるようだね?」
アマリリスは何度も読み返して、自分の勘違いではないかどうかを確かめた。
「えぇ。前から行ってみたかったところよ。魔獣の封印が多くされてきた森!」
「…封印石の森かい?」
封印石の森と呼ばれるところは王家が所有しているので、許可なく立ち入ることができなかった。
迷い込んだふりをして入り込んだら、直ぐに牢獄行きだろう。
だから、王都に近いところにありながら、アマリリスは一度も行ったことがない。
「しかも、封印が綻んでいるかもしれない石が三ヵ所もあるって!」
新しい魔獣の封印石の欠片を手に入れて直ぐに舞い込んだ任務がこれとは、なんて巡り合わせだろう。
「ちょっと見せて」
アヴィオールに教会の押印が押された紙を渡す。
「あぁ。うん。確かに、そう書いてあるね」
「アヴィオール。もう出られる?」
「封印石、三ヵ所って…。いや、今回は、時間がかかったほうが、チャンスはあるのか…」
さっきから、何か小声で言っているが、アマリリスの耳には全く届いていなかった。




