7 一流
「ローズ、アシュリー、イリス、カレン、アトリ、ソフィア、コーデリア…」
「アヴィオール、流石に外では声に出さないほうがいいと思う…」
女性の名前を呟く神父は、怪しさ満点だろう。
「あぁ、そうだね。もし訊かれたら、赤ん坊の名付けを頼まれている、とでも誤魔化そう」
涼しい顔で告げられる。
…この人は、他の職業のほうが向いているのでは。
具体的な職種を思い浮かべようとして、それ以上考えることを頭が拒否した。
「うーん。そうか、名付けの本とかも参考になるかな…」
そう言いながらも、どんどんと女性の名前が書かれていく。
真っ白な紙に最新式のペンで書くことだろうか。
「あぁ、そうだ。アマリリス。これから行くところだけど」
「なに?」
「管理者の名前はなんて書いてあった?」
アマリリスは折りたたんだ紙を広げる。
「アシュリー・ラウドルップとあるわ」
「まだ、家名は名乗れるのか…」
「ラウドルップって、あの?」
ガタコトと揺れる馬車の中、アマリリスは聞いた。
「そう。アシュリー・ラウドルップはラウドルップ公爵の令嬢にして、罪人」
「…封印石を壊したと聞いた」
ふわりとアヴィオールが微笑む。
「いたずらに封印石を破損し、そのまま放置した罪、だね。覚悟を持って封印石に挑む君とは全然違う」
「…」
アマリリスは王都での魔獣討伐騒ぎを新聞や噂話でしか知らない。アヴィオールはそれを察したようで、メモ帳を閉じると胸ポケットにしまった。
「君も知っているだろう? 十ヶ月ほど前の、魔獣復活騒ぎ」
「えぇ。封印石が壊され一頭の魔獣が王都近くに現れた。騎士団が討伐したのだけど、その際に他の封印石を傷付けてしまった。そのためさらに三頭の魔獣を倒さなければならなくなったと」
王都近くでの魔獣騒ぎだ。
政治を行う中心地で、王や貴族を含め人も多く住む。
そんな中での戦いは難しいものだっただろう。
「君がいれば、直ぐに倒せたかな?」
「冗談はやめて。私は封印が解けて、まだ、ぼんやりとした形の時にとどめを打っているの。完全に復活したら、一瞬で吹き飛ばされてお仕舞いよ」
アマリリスは、魔術についてはかなりの訓練を重ねたが、狩りや戦闘の訓練はしていない。
出来るのは、止まっている標的に当てるだけだ。
もしも封印が解けて時間が経った魔獣に出くわしたら、ひとたまりもない。
「魔獣は強いうえに賢い。私なんかが敵うわけない」
「良かった。出来ることと出来ないことの見極めが出来るのは、一流の証拠だ」
「…」
どうやら、アヴィオールに試されていたらしい。
「そんな無鉄砲に見えてたの?」
「ごめん。君は、賢く勇敢な女性だ」
「私は別に…」
言いかけたとき、馬車がゆっくりと止まった。
「あぁ。ついたかな」
「ここ?」
アマリリスは窓の外を見た。
木の柵で境界線を示した先には、いくつもの小さな家が点在している。
「違うよ。ここは封印の森に一番近い村。この先に王立騎士団の訓練施設があって、森はそのさき」
「随分遠いところで降りるようだけど…」
「今回は時間がかかりそうな任務だから、まずは、村人に挨拶が必要だろう? その後に騎士団の建物に立ち寄って、今回の説明を」
「分かったわ」
「封印の森は危険な森だから、外部の人間に敏感なんだ。だから…」
馭者が扉を開けた。
馬車の音を聞き付けたらしい、村人たちの姿が遠くに見えた。
先に降りたアヴィオールがアマリリスに手を伸ばす。
「お手をどうぞ。シスター」
「ありがとう。アヴィオール様」
アマリリスは淑やかな笑顔を作った。
その笑顔を見てアヴィオールは呟く。
「…まさか、アフロディーテ? それともヴィーナスか。セラフィナ…アンジェリカ…」




