151 二次元において洗脳系能力は最強
同人女の異世界召喚、実は書籍化しています。
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ディープワンの殲滅は確かに完了している事実をようやく受け止めたらしい聖女は、それでもまだ自身の脳内で思い描いていた計画通りにいかなかったためか、こだわりを捨てきれずに「でも」と複雑そうに顔を歪める。
あと一押しが必要だろうか。どうやらアルレインもそう思ったらしく、再び彼女の思考に誘導をかける。
「ともあれ、聖女。お前のちょっとしたやらかしは、俺達しか知らない事実。ここは寛大な心を以て、一般人である俺達を見逃してはくれないだろうか」
「だけど私、そこのおばさんに」
「大変申し訳ありません攻撃されるかと思って反射的に手が出てしまいました!! 重ね重ねお詫び申し上げますゥ!!」
聖女の意識の矛先が私に向いた瞬間、プライドだの何だのを全てかなぐり捨てて、水に飛び込むカエルが如く地面にダイブし土下座をする。
この際、事態が収まるなら何でも良い。事実だってどうでも良い。公式発言でチートを示唆されているダニエル女公爵が苦戦する相手に、クソ真面目に真正面から突っかかる方が阿呆だ。
余計な事は言わずに、しかし簡潔に、聖女から何かしらとやかく言われる前に、声を張り上げて微塵も感じていない謝罪の意を偽造した。
一瞬アルレインが「えぇ……こいつマジかよ……」みたいな視線を向けてきた気がするが、気のせいということにしておく。ユリストさんの方からも似たような視線を感じたが、気のせいったら気のせいなのだ。
「多少残った奴らは、迷惑料代わりに俺達の方で片付けておこう」
「後処理はお任せください聖女様美少女様! いやぁ巻き込まれそうでつい条件反射でやっちゃったとはいえ、こーんな麗しいお方に手を上げるなんて! 宙族達のせいで一時的に気が狂っていたのでしょうな! なんであんなことをしたんだか! 贖罪の為にも! 是非! 何卒! 後処理の名誉をお与えください!」
思ってもいない適当ゴマすりだったが、聖女からしたらそれで満足だったらしい。少しの沈黙の後、「仕方ないわね!」と自尊心が満たされたような明るい声色で返事をした。
こっちの自尊心はズタボロだよ。
「私は慈悲深い聖女だもの、今回は許しましょう」
「ははーっ! ありがたき幸せ!」
顔を上げると、最初に現れた時のようなドヤ顔になった聖女が、多分セルフ発動しているだろう後光を背に、私達を見下していた。
なんだろう、全然神々しく見えない。単にビカビカ眩しいスポットライトに照らされているようにしか見えなかった。ただスペルで発動しているだけの光源だからだろうか。それとも、尊大な言動のせいかもしれない。あるいは、単に彼女に対する悪印象が原因か。
再度、周囲を見渡す。いつの間にか日が傾き始めていて、照らす陽光はオレンジがかった色をしていた。
モズは未だに警戒を解かず刀に手をかけたままで、最早攻撃は飛んで来ないと確信したユリストさんとレイシーが腰を抜かしてその場に座り込んでいる。氷の椅子に座ったダニエル女公爵は酷く疲れた様子で成り行きを見守っているように見えるが、その視線はモズと同じように警戒心に満ちていた。ヘレンは少し落ち着いてきたようだが未だに泣きじゃくっていて、それをおろおろしながらもセレナが慰めようと必死になっている。
そして、ゴーレム達。最早戦意を失っているとはいえ、まだディープワンが残っているというのに、気付いたらその全てが稼働を停止してしんと静まり返っている。そんなに早く魔石の魔力が尽きたのかと思ったが、コアの輝きは失っていない。もう安全だと思ったレイシーが止めたのだろう。
一応まだ動かしておいて、とレイシーに言おうかと思った時だった。
「あ、でも……それだけはちゃんと片付けておかなくちゃ」
思い出したように、聖女が指先をついと動かす。単に何かに指先を動かしたようにも見えたその動作は、弾かれたようにアルレインが動いたのを認識した瞬間、聖女がスペルを発動したのだと理解した。
私がアルレインの影を追って振り返るのと、ヘレン達の居る方向から甲高い音が聞こえたのは、ほぼ同時だった。
しっかりとこの目で捕らえた訳では無い。が、四散する暗紫色の蔦のようなものと、アルレインの魔剣を振るった後のような体勢。
闇属性のスペルで、セレナに攻撃を仕掛けたのだ。
セレナは慌ててヘレンを連れて逃げようとするが、陸の上に上がった人魚の巨体では酷く鈍重な動きしか出来ない。突如セレナが動き出したためか、ヘレンが慌てたように彼女に声をかけるものの、返事をするよりこの場からの逃走を優先しているのか、セレナは触手の一本でヘレンを優しく撫でるに留めていた。
すんでの所ででアルレインに止められたのが不服だったのか、折角上がった機嫌が再び下がってしまった聖女が、低い声で問う。
「邪魔する気?」
「こいつに敵意は無い」
「いいじゃない、その人魚がこのスタンピードの原因なんだから」
「何故そう言い切る」
「だって、普通に考えてそうじゃない。人魚はディープワンの親玉みたいなものだし、第一、夏イベのラスボスはそいつだったし」
「ユ、ユイカ……?」
困惑した様子のレイシーが聖女の名を呼ぶ。「違うよ、だってさっきディープワン達が『裏切り者』って言ってたよ」と言いたそうにしているが、言葉にはならない。
「そうでしょ? 私は予言の聖女。私の言う事に間違いなんて無いんだから」
その言葉を聞いた途端、「まあ、確かに彼女の言う通りかもしれない」なんて思考が脳裏に過る。
スタンピードの原因はセレナに間違いない。実際のところ、ディープワン達はセレナを追って来たのだから。
だから極論を言ってしまえば……セレナのせいだと、言えてしまうのだ。
「理由がどうであれ、そいつが原因な事には変わりないでしょ? じゃあ原因であるそいつは――」
聖女の意見に追随するべく口を開こうとして――そうする前に、ぱちんっ、と目の前でモズが拍手を打った。
その瞬間、どこか夢心地のように薄ぼんやりとしていた意識がハッキリと覚醒し、同時にほんの数秒前まで脳内にあった異常な思考に、そう思い至った自分に動揺する。
私は今、何を考えていた?
「ねえちゃん、あの熊のおんちゃんと同じになっちょった」
さらりと発言したモズの言葉に、はたと気付く。
実際に体験して分かった。彼女に心酔する人が居るのは、彼女のカリスマ性だとか権力だとか、そんな理由じゃ断じてない。
……精神汚染。そう呼ぶべき能力が原因だ。
彼女の使う精神汚染は予備動作も無しに発動し、且つシームレスに彼女にとって都合の良い思考へと強制的に塗り替えられてしまう。しかも、それに違和感を抱けない。
悪役令嬢ものによく出てくる悪役女がよく使う魅了なんて可愛いものだ。アレは基本的に、術者に抱いた好意を増幅するものなのだから。
洗脳なんて、そんなチャチなもんじゃない。本当に嫌だと思う事は拒否出来るし、例え創作物における都合の良い洗脳だったとしても、本人の意志と極端に違う行動をさせると違和感を覚えたり、洗脳が解けるきっかけになってしまうのだから。
彼女の精神汚染は、好意なんぞ一切無くっても、まるで違和感を覚えずに彼女に同調するようになってしまう。普段の自分であれば明らかにおかしい思考に思い至ったとしても、ほんの僅かですらおかしいと思わないのだ。
そういえば、と彼女と初めて対面した時の事を思い出す。妙に彼女に同情的な印象を抱いていた記憶がある。とはいっても、言動のせいで悪い印象と反復横跳びしていたが……それでも「若いのに大変だなぁ」なんて惻隠の情を、言い換えてしまえば好意的だからこそ抱く感情を抱いていたのだ。
もしかしたら常日頃から精神汚染能力を発動しているのだろうか。いや、あの時はモズが何のアクションも取らなかった。
……流石に、考えすぎだと思いたい。
ご清覧いただきありがとうございました!
先週は具合が悪くてダウンしていました。
この時期の気圧変動は本当に地獄です。つらいよぉ……。
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