150 興奮した相手に大声は厳禁
同人女の異世界召喚、実は書籍化しています。
web版とはちょこちょこ違いがあるので是非購入して読んでみて下さい!
感想を書いていただけたらとても喜びます!
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止まぬ聖女の攻撃を魔剣から発する閃光で的確に相殺しながらも、アルレインは静かに、落ち着いた声色で聖女に話しかける。
剣を持っていない方の手は耳たぶ辺りを触っており、よく見れば、そこにはイヤーカフが装着されている。僅かに魔剣とは違う光が漏れており、恐らく風属性の魔石を使ったアーティファクトか何かだろうと窺える。アレで聖女に声を届けているのだろう。
「攻撃を止めろ。それ以上の攻撃はお前の品位を落とすだけだ」
「うるさいうるさいうるさいッ! モブは黙ってなさいよ!!」
聖女はアルレインを見て、忌々しげに「モブ」と吐き捨てる。
その一言で、彼女が前作について何も知らないのだと私は悟った。
「ああもうっ! どうして思い通りにいかないのよ!!」
ヒステリックに叫びすぎたのか、やや掠れているキンキン声で聖女は不満をぶちまける。
アルレインはそれを感情の無い目でじっと見据えており、あえて口を挟むようなことはしなかった。一方で、少し前から何とか彼女の暴走を止めようとしていたレイシーは聖女に「お、落ち着いて!」と呼びかけるが、聖女の耳に届いていないのか、あるいは聞こえてはいるものの自分にとって聞き心地の良い言葉しか脳まで届かないのか、完全に無視されている。
誰にも言葉を遮られない……というよりは、誰にも自分を止められないことを良い事に、聖女は続ける。
「私が主人公なのに……せっかくゲームの世界に異世界転生したってのに……! 普通、私の都合の良い展開になるはずでしょ!?」
うわぁ。令嬢モノでよく見かける乙女ゲーヒロインに転生して調子に乗った結果ざまぁされるタイプの悪役そのものやんけ。
と思ったが、迂闊にそんな事を口に出して聞かれでもしたら、間違いなくキレ散らかして手が付けられなくなるだろう。キュッとお口にチャックをしておく。
そんな事を思っている間も聖女は叫び続けている。不満のマシンガンかよ。
そんな言動しているから、令嬢モノのお約束通り、何をやっても裏目に出て上手くいかないし別の登場人物に邪魔されてるんだぞ。身の振り方を考えないと落ちぶれコース真っ逆さまだぞ。
まだ若いとはいえある程度の年齢なんだから周りをちゃんと見な……。
たまたま数秒の間が空いただけか、それとも不満のマシンガンのリロードに入ったのか、そのタイミングでアルレインは相変わらず感情を感じない淡々とした言葉をかけた。
「自分の思い通りにいかなくて苛つく気持ちは分かる」
「苛つくどころの話じゃないわよ! また宙族が出るって言ってたからわざわざこんなシケた場所まで来たのに! せっかく良い所を見せようとしたのに、変なオバサンに邪魔されるし! 私はなんにも悪い事してないのにぃ……どうして上手くいかないのよぉ……!」
散々不満をぶちまけたかと思ったら、何かが怒り以外のスイッチを押したのか、今度は泣き出してしまった。えぐえぐと泣きじゃくる姿は、そこだけ見れば可愛らしくも同情心を煽るものだった。
いや何で泣き始めた!? 分からん分からん分からん! なんも理解出来ん! 彼女の思考回路や感情に一切の共感が出来んよ!? 情緒不安定ってレベルじゃない! 怖い!
聖女が泣き出したおかげか、攻撃は止み、しばらく聞いていなかった気がする波と潮風の音がようやく聞こえ始めた。しかしどこかキーンと耳鳴りのような音がしているような気がする。
あれだけスペルでドンパチやっていたんだ、あちこちからの爆音で耳が少しやられてしまったのだろう。
「災難だったな。誰にでも何も上手くいかない日はある」
「知ったような口聞かないでよ! ポッと出のモブのくせに!」
「それは悪かった。しかし、張り切って準備した物事が台無しにされるのは辛かっただろう。それは赤の他人である俺にも理解出来る」
「う……うう……うええええ~ん!」
ぜ、全肯定アルレインbotだ……。
ただし、世の中には二種類の全肯定がある。相手の気持ちに寄り添い同調する全肯定と、話を聞いているフリをしてその実適当に聞き流しているだけの全肯定だ。
そしてアルの全肯定は、後者だ。
だって、ただえさえハイライトが無い目が死んでるんだもの。絶対言葉通りの事を思ってなんていない、むしろ「ご機嫌取りクッソ面倒臭ぇ」って内心毒吐いてる顔だよアレ。
しかしすごい。落ち着けと諭すでもなく、ある程度の共感を見せつつもどんなお悩み相談でも使えそうな汎用性の高いワードで流して、マトモに相手をしているように見せかけておいて適当に流して上手いこと手綱を握ってる……。
しかも一貫して感情的にならず落ち着いた対応だ。犬と同じで、興奮している相手に感情的に対応すると逆効果になるからだろう。
私だったら途中で「うるせ~~~~~知らね~~~~~!! ウダウダネチネチとやかましいんじゃい!」って言っちゃうわ。
「とはいえ、お前の言う目的は無事果たされた。最早ここに用は無いはずだ」
「な、何をどう見ればそうなるのよ!」
「この場をよく見てみろ。お前の目的であった、ディープワンの殲滅は無事果たされている」
そう促されて、聖女は初めて人の言葉を聞き入れ、改めて私達を、否、私達の周囲を見渡す。
あれだけ居たディープワンは、その殆どが倒れていた。海に居たはずのディープワン達も力なく浮かび、荒波で拡散されて尚海面を赤黒く染める染料になり果てている。時々力なく動く個体が居ても、最早戦闘能力は無いだろうと見るだけで分かる。
聖女の顔に浮かんでいた、狂気的な何かに取り憑かれたような表情に、ようやく人間っぽさを感じた。
ここで、私はふと、ある事に気が付いた。
この場に居る人達に足りなかったのは交渉力……! 相手をただ一方的に宥めすかしたり反骨精神や天邪鬼な気質で反抗するんじゃなくて、虚無の心で暴言のサンドバッグになって相手が落ち着いた頃を見計らってから声をかける、単に心が強いのとはまた別の精神的忍耐力だ!
言わばカスタマーサポートのオペレーター! あんなの正気の人間が担当したら確実に精神を病むだろうと個人的に思っているし、実際現在進行形でオペレーター業をしている方が居たら絶対に苦労しているだろうにしっかり自分の仕事をこなしているプロ意識に尊敬しか感じない、あの方々が有するものと同じスキルだ! 本当いつもお疲れ様です!
思い返せば、私含めて皆刃向かったり、パニックで何も出来なかったりしていた。血の気が多いかヘタレすぎるか極端な人員しか居ねえ! 自分が前者だという点も含めて頭を抱えた。
冷静な……つもりだったんだけどなぁ……! 思い返すと全然冷静じゃなかったね……!
「そ……れは、そうだけど!」
「多少のトラブルは、現場に居た俺達が黙っていれば誰も気が付かない。遠目から見れば、お前はただ、港に集まっていたディープワン達に攻撃していただけにしか見えなかったからな」
「貴様、勝手に話を進め――いや」
勝手に聖女の所業を見逃すことを前提にした会話に、ダニエル女公爵は口をはさみかける。しかし何かを思いついたのか、すぐに訂正する。
「私は少々疲れた、後のことは貴様に任せよう」
「……感謝する」
「後でネッカーマの屋敷に来い」
そう言うと、ダニエル女公爵は指を鳴らして氷の椅子を作ると、淑女らしさの欠片も見せずどかりと座って足を組み、盛大なため息をついた。クッション部分に雪を積もらせていたからか、座り心地は悪く無さそうだ。
彼女の言葉は、色々と話を聞かせてもらうから逃げずに顔を出せ、という意味なのだろう。アルレインは返事こそしなかったものの、非常に面倒臭そうに、しかしダニエル女公爵とは対照的に小さくため息をついた。
ご清覧いただきありがとうございました!
先週はがっつりお昼寝してしまい投稿しそびれてしまいました。お許しを……。
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