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【書籍化しました】同人女の異世界召喚【好評発売中】  作者: 裏山かぼす
第二章 気づきの冬

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149 希望の光

同人女の異世界召喚、実は書籍化しています。

web版とはちょこちょこ違いがあるので是非購入して読んでみて下さい!

感想を書いていただけたらとても喜びます!

https://sutekibooks.com/items/book018-2/

 きゃあっ、とヘレンの悲鳴が聞こえ、そちらに注意が向く。振り向いた時には既にセレナがお返しをしてくれたようだが、それよりも何よりも、海側のディープワン達の攻撃が防ぎきれていなかったという事実に肝が冷える。

 ゴーレム達は水の上を歩けないため、攻撃対象であるディープワンのところまで移動できず、陸地に留まったまま棒立ちする羽目になっていたのだ。これでは壁にはなっても攻撃は出来ない。


 慌てて詰まってたゴーレムに先程自分も使ってた水蜘蛛の刻印を付けて進軍させ、セレナとヘレンの元に駆け寄る。


「ごめん大丈夫だった!?」

「わ、私は大丈夫です、少し水がかかっただけですから。でも、ふわふわちゃんが……治らなくて……!」


 ヘレンは赤黒く染まったミルクティー色の毛皮を抱え、はらはらと涙を流しながら治癒のスペルをかけ続けている。しかしその毛皮は身動ぎ一つせず沈黙している。

 意図的に目を逸らしていた光景に耐えきれず、視界に入れないよう視線を逸らす。今は考えてはいけない。今はヘーゼルに気を取られている場合じゃない、と再び思考の隅に追いやって、何とか言葉を絞り出した。


「もういいよ」

「ですが……!」


 私が二度目の制止をかける前に、セレナが触手で毛皮を取り上げてしまう。あっ、と小さく声を漏らしたヘレンだったが、最早無駄なことなのだと分かっていたのだろう。それ以上毛皮を取り戻そうとはせず、声を上げて泣き出してしまった。

 こんな戦場真っ只中でドンパチやっている最中に泣くんじゃないという気持ちと、泣きたいのはこっちだという思いをグーで殴って黙らせて、私は彼女から背を向けた。後のことは、セレナに任せよう。


 ふと、ダニエル女公爵の髪が目に入る。薄青では無い。以前ゼリオン剤を服用した際の副作用が出た時のように、真っ白に見えた。

 否、錯覚ではない。一瞬、光の加減かなにかだと思ったのだが、明らかに毛先の色がグラデーションがかかったように抜け落ちている。ゼリオン剤の副作用の時はほんの十数秒程度の一時的なものであったが、今は違う。じわじわと侵食するように、毛先の方から白が薄青を食らっていた。

 その髪が高威力のスペルがぶつかり合う衝撃波で、毛先がまるで線香の灰のようにぼろりと崩れ、そのまま塵となって消える。


「何をしている、手を打ったのならさっさとこっちを手伝わんか!」


 呆気にとられてしまった私にイラついたダニエル女公爵が怒声を浴びせるも、その言葉は耳から耳へ通り過ぎる。


 この世界では、髪に魔力が宿る。これはARK TALEの公式設定であり、現実ではケラチンを主成分とする体毛だが、この世界の人類に限っては、その人が有する魔力が結晶化したものが頭髪として生えてくる。言わば、人族にとって最も身近な魔石と言えるだろう。優れた術師には髪を伸ばし、そこに普段から魔力を貯めている人も多い。

 そして妖精種は、最も得意とする属性の色が髪色に現れる。


 嫌でも理解してしまう。いくら公式チートキャラでも、チートみたい(・・・)に強いだけであって、その力は有限であるのだと。

 にわかに絶望の足音が聞こえてくる。それを振り払うように、無理矢理声を張った。


「魔力使いすぎですダニエル様!」

「あの癇癪玉を黙らせるのに出し惜しみをしていたら、こっちが黙らされることになるだろうな!」

「魔石代わりに私の魔力使ってもらったら何かこう、上手いこと何とかなりません!?」

「全てが終わったら尊い犠牲に黙祷を捧げるとしよう!」

「スミマセンやっぱ別の方法無いですかね!?」

「あったらこんな苦労はしていない!」

「でーすよねぇ!」


 レイシーの説得も虚しく、一切の言葉が響いていないのかヒステリックな罵詈雑言と思しき聖女の声と共に攻撃はますます激しくなる。スペルの精度こそダニエル女公爵には劣るが、無尽蔵に思える魔力から繰り出される止めどない攻撃は、終わりの無い地獄のようだ。


「……斬っか?」


 ぽつりと、モズが問う。その視線は珍しく私に向いておらず、じっと聖女を睨み付けていた。

 彼を縛る隷属の刻印を一時的に【分離】で切り取ってしまえば、あとは一言私が「やれ」と言うだけで、彼は命を賭してでも成し遂げてくれるに違いない。それは現状取れる選択肢の中で、最も手っ取り早く事態を収拾出来る手段だろう。

 だがそれは殺人教唆であり、年端もいかない子供に殺人を犯せと命令するのと同義だ。ディープワンはほぼモンスターみたいなものだったからと自分の良心をねじ伏せることも出来たが、チート以外はただの人である聖女を殺させるのは、生温い現代日本で育った私には無理だった。もし躊躇無く殺せたとしても、他人が聞いたらこんな戦場に連れ出しといて何を言っているんだと思われるかもしれないが、子供にそんなことはさせられない。


「……それは最終手段な……!」

「この腑抜けが!」


 どうしても取れなかった選択肢を後回しにした結果、ダニエル女公爵から即座に罵倒が飛んで来たが、それくらいで済むのならそれでいい。現実問題、状況は一切良くないが。


 不安が無視できない程に積もってきた、その時だった。

 ――聞き覚えのある、若い男の声が聞こえた。


「輝け天枢、死を司る七つの星」


 私にとっては聞き覚えしかない声で詠唱を言い終えると同時に、外套のフードを目深に被った青年が空から降り立つ。見覚えしかない、しかし初めて見る古ぼけたモスグリーンの外套は、溢れた眩い魔力に吹き上げられて、ドラゴンの翼のように広がった。

 青年がその手に握る、象牙色に似た極光を放つ剣を掲げる。


「穿て七星剣!」


 厨二臭さを感じる、しかしこの世界では相当古くはあるものの歴としたスペルの詠唱を言い切った瞬間、剣から放たれた七つの白い閃光が直線を描き、ディープワン達を、聖女の放った光の剣を次々に穿つ。着弾点からまた新たな七つの閃光が生まれ、更なる標的へと伝播し、ゴーレム達より早く着実に、そしてダニエル女公爵と比べて圧倒的な物量で、この戦況を一変させた。


 一際強い潮風が外套を煽る。彼が目深に被っていたフードがめくれ、その下に隠れていたモズと同じ黒髪が露になり、濁ってはいるが空色より濃く鮮やかな天色をしていたであろう瞳が日の下に晒される。


 魔剣アイヴォリア。この世にたった一つしか存在しない、極光たる()の尾から鋳造された魔剣。千年に一度訪れる、世界の試練という、この世界における人類史破滅の危機を回避した証拠であり、世界存続のためのシステムである世界の試練を狂わせたバグそのもの。

 そしてその魔剣に取り憑かれ、たった一人で、ただの人の精神では耐えられるはずもない重荷を背負う羽目になった青年。本来なら、その出番は300年程後になるはずの人。


 ――前作ラスボスの、アルレイン・クロノスその人が、私の目の前に立っていた。


「な……」


 なんで、と呟いたつもりだったが、ほぼほぼ掠れて聞こえなかった。

 代わりに、彼が一言呟く。


「そうか、こう(・・)なったのか」


 それは、多分この場では私以外には意味が分からない呟きだ。

 彼は星詠みと呼ばれるスペルの使い手で、一種の未来予知が出来る。ただしそれは無数に存在する可能性を一つだけ覗き見る程度のもので、回数を重ねればある程度の確率やパターンは出せるものの、必ずしも絶対ではない。

 こう(・・)なった、ということは、きっと彼の見た中にあったパターンの状況に陥っているのだろう。それがどんなものかは、私にも分からないけれど。

 ただ、一つ言えることがある。それは、彼ならこの状況をどうにか出来る方法を知っている可能性が高いということだ。というか、どうにかするために来たはずだ。


「アル! この状況、何とか出来る!?」


 初対面の人、それも魔剣持ちの相手の名前を知っていた上に躊躇無く質問する私に、ダニエル女公爵がぎょっとして目を剥く。彼はそんなダニエル女公爵には視線すら向けず、初めて会うはずの相手が自分の名前を知っていた上に愛称で呼んだことにも気を取られず、ただ一言、返事をする。


「そのために来た」


 頼もしすぎる返答に、前作のオタクでもある私は一人、湧き上がる興奮のまま歓声を上げた。

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