147 混迷を極める
同人女の異世界召喚、実は書籍化しています。
web版とはちょこちょこ違いがあるので是非購入して読んでみて下さい!
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一方的にだが、見知った顔までもが死んだ魚のような、しかしどこかギラついた狂気めいて見える目でこちらを見据えているのを視界に入れてしまい、背筋に冷水を浴びせられたようなゾッとする感覚に陥る。無意識にはくはくと口を動かし声にならない声で何かを言おうとしていたらしく、ダニエル女公爵から「遺言は後にしろ」と言われてようやくお口にチャックをする。口内が妙に乾き、舌が口内にべったりと張り付く感覚がした。
「裏切り者には、死を」
一人が口を開く。ディープワン達の言語では無い。この国で使われている標準語で、人族が使う言葉だった。
その一人の呟きが呼び水となり、その言葉が波紋のように広がり口々に呟き始める。
「裏切り者には死を」
「裏切り者には死を」
「裏切り者には死を」
「裏切り者には死を」
「裏切り者には死を」
「裏切り者には死を」
ディープワン達の言語も入り交じり、押し寄せる波の音のような、しかし決定的におぞましい合唱が始まる。
彼らの眼中に私達は写っていない。見据えているのは、セレナただ一人だ。
「……その人魚が魚人共と敵対しているのは、少なくとも本当のようだな」
納得したようにダニエル女公爵が呟く。どこまでも冷静なその声に、雰囲気に飲まれ固まっていた私は、睡眠から叩き起されたように再び思考を取り戻す。
ダニエル女公爵がちらりとセレナを見やる。セレナはびくりと一度肩を震わせてから、威嚇するように体色を赤紫っぽく変える。また彼女と敵対するのかと思ったのだろうか。しかし、本当にただ一瞥しただけだったからか、すぐに周囲のディーブワン達へ視線を移した。
「その人魚を奴らにくれてやれば、このスタンピードも収まるのやもしれんな」
「くれてやりたくないんですけど!?」
「くれてやりませんよ!?」
「話は最後まで聞け、駄犬共め」
条件反射的に私とユリストさんが口を出したが、話の邪魔をするなをぴしゃりと言われてしまい、再び閉口せざるを得なかった。
「だが、騒ぎに乗じて明確な害意を持ち人的資源たる国民に害を成した、ひいては我ら人族に敵対行為を行ったのは、魚人共の方。そもそも話が通じん奴らには、暴力という共通言語で理解してもらう方が早かろう。対話の余地がある人魚は後回しだ」
「そう言って下さると信じてましたよ神様仏様公爵様!」
「貴様の手首は間接人形よりよく回るのだな」
掌ドリルだって言いたいんですね、分かります。
でもこちとら社会人だからね、状況に応じて嘘八百だろうが掌ドリルだろうがするよね。
気がつくと、いつの間にか不穏な合唱に違う言葉が混じり始めていた。セレナを宥めるヘレンの声も微かに聞こえたが、ディープワンやその混血達の声に混じってしまい、何と声をかけているのかまでは分からなかった。
「主の言葉に背いた罰を」
「その血肉と死を以て贖罪を」
「主の導きを邪魔するヒトと半魔、そして宇宙人にも、等しき処断を」
半魔、という言葉に疑問が浮かぶ。
人間の私とその他人族をひとまとめに「ヒト」と呼称するのは分かる。宇宙人も、まあ十中八九ヘーゼルの事だろうと理解できる。
しかし半魔――悪魔と人族の混血――に関しては、一体誰のことを指しているのか分からなかった。
しかし、疑問を解消する暇はない。
「まずは厄介な、宇宙人から排除しろ」
彼らの攻撃の矛先が、ヘーゼルに決まったのだから。
まずい、と思うより先に、プキュッ! とヘーゼルの獣声が耳に届く。
私が視線を向けた時には既に、セレナの頭の上でちょこんと座っていたはずのヘーゼルの体がぐらりと傾いていた。ヘーゼルはそのままぺちゃりとセレナの掌の上、ヘレンの目の前に落ちる。ふわふわまん丸だったはずのヘーゼルの体は、何故か妙にぺちゃんこに見えた。
「……ふわふわちゃん?」
何が起こったのか分からない、といった様子でヘレンが声をかける。
普段なら猫のような鳴き声で返事をしそうなものだが、何故かこの時だけは、彼は返事をしない。
――それだけで、何が起こったのか全て分かってしまった。
「今すぐ治療して!」
声を張り上げる。思ったより、頭の中は冷静だった。
私の声に驚いたセレナは、それでもすぐにヘーゼルの治療を開始する。
確かに好きにはなれない奴だったかもしれないけれど、ある程度の時間一緒に過ごしていたのだ。愛着はある。それに、その知識量や最上位レベルの防御スペルから、少なからず、いや、かなり頼りにしていた。
そんな愛着の湧いた相手が……恐らく、殺されて、取り乱さないわけが無い。
ただ、一周回って、そんなに現実味を感じていないだけだ。まさかあのヘーゼルがこうも簡単に死ぬわけがないでしょ、と。頭さえ平気なら【記憶】領域から健康体だった時の自分をロールバック出来るって前に言ってたし、と。ワンチャン駄目でも、ゲーム内で回復のエキスパートだったヘレンが居るんだし何とかなるでしょ、と。
いや、多分現実から目を背けて、言い訳に言い訳を重ねているだけだ。
でも今はそれでいい。ちゃんと理解するのは後で構わない。
今はそんな事に時間を割いている状況じゃないのだから。
絶望したようなユリストさんの表情が視界に入ったが、すぐに目を逸らして見なかったことにした。
「なるほど。あの呪文も例に漏れず、魔術は防げんか」
そんなダニエル女公爵の呟きを聞き流しつつ、鑑定眼持ち故に恐らく一番索敵能力が高いだろうモズに問う。
「術者は!」
「あっち」
モズがセレナの背後、ディープワンのひしめく海の方を指さす。どの個体かは分からないけれど、多分、群れの最後列辺りだろうと目星をつける。簡単には手を出せない位置だ。
ダニエル女公爵の周囲に風が渦巻く。耳鳴りのような甲高い音が鳴る。
相当大規模か、かなりの魔力を込めたスペルを使うのだろう。彼女が動いてから行動するべきだ。巻き込まれたくなければ。
はやる気を抑え、代わりに握った銃を強く握りしめる。
「ユリストさんはセレナ達と一緒に居て!」
「あ……は、はいっ!」
「モズ、術者を攻撃してほしいけど、公爵様が動いてからな! 巻き込まれるから!」
「おん」
「ね、ねえ! あのちっこいの、まさか死――」
「ごめんちょっと黙ってて!」
「でも」
「黙ってろ!!」
私も余裕が無いのだろう。レイシーの言葉を遮りたかっただけなのだが、言ってから自分でも驚く程語気の強い言葉を言い放ってしまった。その罪悪感からか、彼女に離れてくれと伝えてしがみつく腕を振り払おうとしていたはずだったが、出来なかった。
「おい、飛花人」
「なんすか!」
「私があれの足止めをする。貴様は魚人共を何とかしろ」
「あぇ!?」
空を見るダニエル女公爵から言い渡された予想外の指示に声が裏返る。
あれって何、それに対処するとしても逆じゃないの!? と聞き返したかったが、そうもいかなかった。
空から、氷の割れる音がした。
それと同時に、無数の光の剣と氷薔薇の矢が激しい音を立てて衝突する。
デタラメな物量の光の剣は周囲のディープワンと混血を巻き込んで切り裂き、貫き、一方的に蹂躙し、彼等の登場により頭からすっぽ抜けていた聖女の存在を、その力の片鱗を嫌でも思い出させた。
「バッカお前レイシー居んのに攻撃してくるとかマジふっざけ、ああもうそれより状況を見やがれってんだ! 仮にも聖女なら逆ギレより先にやる事があるだろうが! それどころじゃないの見て分からんかボケナスーッ! 優先順位も考えられんのかこの×××××! ×××××!! ×××××かよ×××××がよぉ!! ×××××の方がよっぽどマシだぞ×××××、×××××、×××××ーッ!!」
あまりにも混沌とした状況に、堪忍袋の緒じゃない何かがプツリと切れ、堰き止めていた水が氾濫するかの如き罵倒のマシンガンが飛び出す。差別用語、放送禁止用語、何でもござれな悪口のオンパレードだ。
聖女本人には届かないだろうけれど、言わなければ気が済まなかった。
ユリストさんやレイシーからすごい目で見られていたような気がするが、気の所為ということにしておく。
しかし幸いにも、と言えるかどうかは分からないが、彼女の攻撃が私達に向いている以上、近くに寄ればディープワン達もただじゃいられない。周囲に散らばるバラバラ死体の仲間入りをするだけなのだから。
彼らが近づけない今のうちに何とかしなければ……というか、何とかしろ、とダニエル女公爵は言っているのだ。
「あーもう! 何か打開策、何かいい方法は……!」
その時、トワに電流走る。
アイディアが突如湧いて出たと同時に、そんなナレーションが脳内に響いた。
ばっとレイシーを見る。今にも失禁どころか気絶しそうな彼女はやはり可愛く、そしてタチの悪いレイシー推しから受けた、嫌がらせという名の訴えれば一発で犯罪になる行為の数々をフラッシュバックさせた。
だが、今はそんなトラウマに参ってる場合じゃない。この場を切り抜けるには、彼女の力が――いや、私と彼女の力が必要なのだ。
ご清覧いただきありがとうございました!
さすがにモロに酷い悪口を書くのはちょっとな、と思い想像の余地がある程度にしました。
×××××は文字数通りじゃないのでお好みの言葉で変換してください(?)
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※2026/02/28 お知らせ
急ですが明日の更新はお休みとなります。
というのも、祖父のお迎えが来そうな感じで小説書いてる状況じゃねえ! というわけなので……。
色々落ち着いた後の日曜日に更新します。多分来週か再来週かも?
更新を楽しみにお待ちください。




