146 行進は終わらない
同人女の異世界召喚、実は書籍化しています。
web版とはちょこちょこ違いがあるので是非購入して読んでみて下さい!
感想を書いていただけたらとても喜びます!
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ユリストさんのホールドを振り払ったダニエル女公爵は、二人の様子を見て何かを考えているのか、顎に手を当て、無意識に彼女達から視線を逸らす。
とりえあず、彼女の攻撃の手は止まった。その事実に、もうダニエル女公爵と敵対しなくても良いという安心感から盛大なため息が口から出て脱力した。その場に座り込む、なんてことは無かったが、今更ながら体が震えてきた。寒さのせいか、遅れてやってきた緊張や恐怖のせいか、それは分からない。忘れかけていた肩の違和感も、思い出したかのようにわずかに痛みを訴えてきた。
「いやー良かった良かった、ひとまず誤解は解けたということで――」
そう締めくくろうとしたのだが、閉口していたダニエル女公爵が再び口を開く。
「だが、それとこれとは話が別だ」
手にした氷の細剣の切っ先を、セレナに向ける。持っていた銃を取り落としそうになった。
「我が国の法に則り、宙族はすべからく排除せねばならん」
「話が違うじゃないですか!」
「何を言っている? 私は此奴を殺さんとは一度も言っていない」
「ウーンそれはそうですね!?」
確かに彼女の言う通りで、彼女は攻撃の手を止めただけで、セレナを見逃すなんて一言も言っていない。物語のように、誤解が解けて大団円、なんてそうそう上手いことは現実ではほぼありえないものだ。
とはいえ、先程までの身を裂くような殺気は感じられない。ただ、指指し棒の代わりに剣を使った、といった様子だ。
ぱっと見だと宣戦布告に見えたけど。剣を向けたってことは敵対の意思はあるっていうことでもあるけど。
「言うてほら、この子人に危害加えないですからね!? なんというか温情というかそういうアレソレでこう、ね!?」
「そそそ、そうですよぅ! 確かにそこら辺で普通に見かけるディープワンと比べたらちょっと怖さマシマシですけど、だからといって人族=敵! 攻撃! ってタイプの子じゃないですから! お慈悲を!」
「共存出来ずともせめて不干渉を貫くくらい出来ませんか!? なんかこう、公爵様の権力とか何かで!」
私とユリストさんがほぼ同時に詰め寄り、マシンガントークで訴える。
「確かに私は寛大な人族だ。人族に利があるならば慈悲の心で見逃すことも考えよう」
「それ本当にそう思って言ってます?」
「ほう? 目上の者に対し敬意の欠片も無い世迷言をほざく無礼者の声に耳を傾けられるこの私に、何が言いたいようだな」
「なんでもありません続けて下さいお優しき公爵閣下」
結局私も平均的な一般人だ。権力には弱いのであった。不敬罪だと言われる前に黙るしか選択肢は無いのである。
じゃあなんで真正面から敵対するような事しでかしたんだ、と言われたら……いや体が勝手に動いちゃったし……ちょっと感情的になりすぎてその辺知るかボケェってなっちゃってて……今のツッコミに関しては白々しすぎて条件反射で口を滑らしただけです。いや誰に言い訳しているんだ。冷静になった自分にか。
ユリストさんはまだ何か言いたげではあったが、私が権力に屈したのにつられたのか、あうあうと声にならない唸りを漏らしながらも言葉を続ける事は無かった。なんかおしゃべりハスキーみたいだ。
「ならば……ん?」
話を続けようとしたダニエル女公爵だったが、不意に視線を逸らす。ついつられて彼女が見ている先に視線を移すと、足下の覚束ない様子の、どこにでも居るような町人がレイシーの方に近づいていく様子が見えた。彼女自身は背後から近づいて来る町人に気が付いていないのか、不安げに氷の檻に閉じ込められている聖女を見上げている。
先程まではこの場に居なかった姿だ。音を聞きつけて、私が氷の壁に空けた穴から入って来たのだろうか。逃げ遅れた人なのだろうか?
そう思って声をかけようとした、その時だ。
緩慢な動きで振り上げたその手に、肉切り包丁のような刃物を持っていたのが見えたのは。
ぎょろりとした死んだ魚のような目のある顔が魚面で、どことなくディープワンに似た顔立ちであることに気が付いたのは。
「アカーーーーーン!!」
私より早く反応したモズが俊敏な動きで魚面の腕を切り落とし、私はワンテンポ遅れてレイシーの元に駆け寄りその身を抱き寄せる。
私の奇声と唐突な行動に目を白黒させていたレイシーは、何が起こったのか理解するべく周囲を見回した結果、丁度モズが魚面の首を刎ねた瞬間を目撃してしまい、悲鳴を上げて私に抱きついた。胃がギュウッと絞られるような痛みに苛まれた気がしたが気のせいという事にした。
「お前お前お前何やってんだお前魚面ァーッ!? レイシー大丈夫!?」
「だ、だ、だいじょばない……!」
「よぉっし怪我無いみたいだしメンタルダメージだけなら実質無傷だ! 大丈夫大丈夫モーマンタイ!」
半分自分にそう言い聞かせるように大丈夫だと言い、レイシーの背中をポンポンと叩く。
自分が襲われていたと気付いているのかいないのか分からないが、少なくともレイシーは、自分の目の前で躊躇無く人型生物を屠ったモズに恐怖を抱いたらしい。モズがくるりと振り向くと、ヒッ! と小さく悲鳴を上げてより強く私にしがみついた。胃からギリギリ音がする気がする。
先程私達とやり合っている時とはうって変わり、ゆったりと余裕を感じられる所作でダニエル女公爵が歩み寄ってくる。そして地面に転がった生首を、ぎょろりと動き自身に向いた瞼の無い目玉を一瞥すると、納得がいったように呟いた。
「ただの気狂いかと思ったが、なるほど。混ざり者か」
クトゥルフ神話にある程度明るく、ディープワン、魚面というキーワードから関連性をすぐに思い出し対応出来た私はともかく、私達よりも早く魚面の存在に気が付いていたはずのダニエル女公爵が手を出さなかったのは、相手が一般市民の可能性を捨てきれなかったからだろう。確かに、ぱっと見では肌もちょっと色黒ってだけの普通の肌色でぬめりも鱗も無いし、顔つきが魚面というだけでそれ以外は普通の人間に見える。
隷属の刻印は、命令が無い限り自ら他者に危害を加える事は出来ないはずだが、その「他者」は純粋な人族限定らしい。だって、宙族との混血であるこの魚面は、アッサリと首を落とされてしまったのだから。
しかし、いくら人族判定に入らない混血とはいえ、ぱっと見普通の人間に見える存在を躊躇無く殺せるモズに、今更ながらちょっと恐怖を覚えた。
……ちょっと気持ち悪くなってきた。ご遺体からは目を逸らしておこう。
しかし、そうして目を逸らした先には、複数人の町人と――ディープワンが、居た。私が氷の壁に空けた穴から、ぞろぞろと何人も入ってきていた。
「とっ、トワさぁん!」
ユリストさんの悲鳴に近い声に振り向くと、セレナの体色が警戒色に変わっていて、海の波間から何体ものディープワンの頭部が覗き、何体かは上陸しているのが見えた。ヒュッ、と私の胸に頭を埋めているレイシーが息を飲むのが聞こえた。
「えーーーーっ……と……あの、これ……もしかしなくても……」
「囲まれたな」
「ですよねー!!」
何の危機感も持っていなさそうなダニエル女公爵の返答に正直イラついてしまったが、彼女にとって、この程度ピンチでも何でもないのかもしれない。
じりじりと後ずさり、ユリストさんやセレナ、ヘレン達の元に戻る。その間もディープワン達の数は増えていく。魚面の町人の中には、どこかで見た事があるような少女の――ARK TALE内で登場した、本来セレナと友達になっていた子の姿もあった。年若い程人と変わらぬ姿に近いが、その子はどこからどう見ても、光を失った目以外は普通の女の子の姿をしていた。
ご清覧いただきありがとうございました!
先週は日付を間違えていた+用事が重なっていたため一週お休みになっちゃいました。申し訳ございません。
書きながら「ちょっとタワーディフェンスっぽいな?」と思ったのは内緒。
個人的にはタワーディフェンス系は苦手な部類です。マルチタスクが苦手なので腕はお察しな感じ。
タワーディフェンスが得意な人ってマルチタスクも得意なイメージがあります。
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