145 ようやく届いた
同人女の異世界召喚、実は書籍化しています。
web版とはちょこちょこ違いがあるので是非購入して読んでみて下さい!
感想を書いていただけたらとても喜びます!
https://sutekibooks.com/items/book018-2/
ようやく埠頭へと降り立った私達は、即座にダニエル女公爵の後ろにある氷の壁を【分離】で開く。そこにはやはり、ヘレンがぐったりと横たわっていた。
セレナは彼女の姿を見るや否や、明らかに安堵した様子で、声の出ないはずの喉をひゅうと鳴らす。彼女が喋れたのなら、きっとヘレンの名を呼んでいたか、良かった、と言っていただろう。
イカの胴体のようなセレナの下半身は、陸上で移動するには向いていない。私を掴んでいた触手を離して、左腕と触手だけの力で這いずって彼女の元に向かおうとする。
それを見逃すダニエル女公爵ではない。まだふらついているが、詠唱も手振りも一切無しに氷のスペルを発動する。ダニエル女公爵の足下から巨大な逆さつらら生え、扇状に広がり襲いかかる。セレナはヘーゼルの防壁のおかげで、私はモズが気付いて大きく形成される前に斬り払ってくれたおかげで、攻撃を食らうことはなかった。ただ、セレナは行く手を阻まれてしまい、私はバランスを崩して足止めを食らった。
「貴様、自分が何をしているのか分かっているのか!?」
「当たり前ですよ! どっかの公爵様がもうちょっと人の話聞いてくれる人だったらこんなことしてなヒィ!? あっぶねえ掠った!」
続けざまに発射される氷薔薇の矢を、モズが的確に切り払う。しかし半分になった氷薔薇の矢が土手っ腹に向かってきて、身を捩って紙一重で躱したものの、危うく本日二回目の串刺しを受ける所だった。
モズがぐっと足を踏み込み、身体強化と刻印で強化された脚力で一気に距離を詰める。その突進の勢いのままに刀を振るい、真剣の刃がダニエル女公爵に襲いかかり――。
「待てモズ!」
流石に怪我をさせるのはまずいと制止の声を上げたが、硬いもの同士がぶつかった甲高い音に私の声はかき消された。
ダニエル女公爵の手には、ほんの数秒前には無かったはずの、薄青の氷で作られた細身の剣が握られていた。余程魔力が込められているのか、モズの斬撃を真正面から受け止めたはずなのに、氷で、且つ装飾まで繊細で精巧に作られているというのに、ヒビすら入っていなかった。
詠唱も無しに、瞬時に相当魔力の込められた美しい細剣を生成するなんて、実力の底が見えない末恐ろしさを感じた。
が、私の口から出たのは。
「スペルで作った氷の剣なんて、そんな厨二心がくすぐられる格好良い隠し球とかずるいぞ!」
そんなオタクとしての感想であった。脳内の冷静な部分が「今言うことそれか?」とセルフツッコミをした。
「今言うことそれですか!?」
ダニエル女公爵の後ろであわあわとパニクっていたユリストさんも、私のセルフツッコミと全く同じツッコミを入れた。
「丁度良い、ユリストさんちょっと聖女の方見張ってて!」
「えっ、ええっ!?」
「ついでにレイシーのことよろしく!」
「よろしくって言われても、どうしろと!?」
モズの剣撃を軽くいなしながらだというのに、ダニエル女公爵は正確にスペルを発動する。それを【分離】で消しながら、ユリストさんに聖女の見張りを頼む。一応現状足止めには成功しているものの、聖女はチート能力疑惑がある。いつ突破されてもおかしくないのだ。
そうやって私とモズがダニエル女公爵の相手をしている隙に、セレナは逆さつららを薙ぎ、破片や残った氷のトゲで小さな擦り傷や切り傷が出来て青い血が滲むのも構わず這いずり、ようやく、ヘレンの元に辿り着く。
ダニエル女公爵が舌打ちをしてそちらに向かおうとするが、ここでユリストさんが急に「待ってください!」と叫び、ダニエル女公爵を後ろから抱きついてその動きを封じた。ダニエル女公爵は、まさかユリストさんが動くとは思っていなかったのか、少し驚いている様子だ。
余程強く抱きついているのか、ダニエル女公爵の顔がユリストさんのおっきいたわわにむにゅり埋まって苦しそうだ。こんな時だけど、こう、男性向けでよく見る感じのやつだなって思ってしまってちょっと気まずかった。
「この駄犬め、貴様も狂ったか!?」
「推しカプには狂っています! 今良い所なので見守ってて下さいお願いしますぅ!」
紺青の体に浮かぶ白い星のような小さい斑点が、まるでちかちかと瞬くようにわずかに収縮する。気絶したままのヘレンを覗き込んで、安心したように目を細め、まるで涙を堪えているかのように少しだけ俯いた。
ややあってガラス細工を扱うように左腕でそうっとヘレンを持ち上げると、幼子がお気に入りのぬいぐるみにそうするように、優しく頬ずりをして、湿ったコーラルピンクの髪にキスをする。
その姿に、攻撃の意志が無いことは明白だ。
「ん……あ、れ……私、は……」
セレナが触れる刺激で目を覚ましたのか、ヘレンがゆっくりと体を起こす。
体に付着するぬるりとした粘液や生臭く磯臭い海産物の臭い、そして肌に触れる人とは違う体温と吸盤の感触に、そこに居る存在に気が付いたようだった。
「……セレナ?」
盲目の彼女が他者と目を合わせる事は難しい。顔を上げたヘレンはややずれた方向に向かって声をかけたが、セレナは嬉しそうに触手で彼女の体を何度も撫でた。
「気を失っていた間、あなたが守ってくれたのですね。ありがとうございます。私が気を失っている間に怪我はしていませんか? 痛いところがあったらすぐに言って下さいね?」
二人の間には、この状況には場違いと言えるだろう穏やかな空気が流れている。まるで、日が沈みゆく浜辺で語らっているかのようだ。
そんな二人の姿を見てぴたりと動きを止めたダニエル女公爵は、あり得ないものを見たと言わんばかりに目を見開き、凝視する。
「本当に……宙族と対話していると言うのか……?」
「だから言ったじゃないですか」
自分のことでもないのに、ユリストさんがドヤ顔でそう良い、ふんす! と鼻を鳴らした。
「……? そこに誰かいらっしゃるのですか?」
ヘレンのそんな問いかけに誰よりも早く答えたのは、ダニエル女公爵だった。
いや、返事をしたというより、会話が成立する状態になった彼女に確認したいことを質問した、と言うべきか。彼女の中にある疑問を確かめずにはいられない、といった様子だった。
「シスター。貴様はそれから攫われたのではないのか?」
「そんな、とんでもない! セレナはそんな子じゃありません!」
「ディープワンを引き連れ、港を襲撃した事はどう説明する」
「それは誤解です! むしろこの子は、沢山のディープワンから攻撃されていたんですから!」
「ちなみに、目撃者兼救助に入ってボロッカスにやられたのが私とモズとルイちゃんとラガルです。多分岬の教会にも何人か目撃者が居るかもですね」
補足を入れると、ヘレンとセレナに釘付けになっていたダニエル女公爵の視線が、一瞬だけ私の方に向く。
「その敗残兵のような姿はそれが理由か」
「ぐうの音も出ねえ……」
酷い言われようだが、今の私の格好を考えると何も言えなかった。あっちこっちボロボロの血まみれだからね……。
セレナの触手が、ヘレンの手に触れる。どうやら触手話で何かを伝えているようだ。
「この子が言うには、私を安全な場所に避難させるために逃げようとしたみたいですが、ディープワンによってここに追いつめられたみたいで……えっ? そこの人が私を攫った?」
「ごめんだけどセレナ、人族から見たらね、人魚が人を抱えて泳いでたらね、人攫いだって勘違いするんだよ……だから人族側からしたら、攫われそうになってる人を救助した扱いなんだよ……」
私の発言に、セレナは幼い子供がそうするように、ぷう、と頬を膨らませる。
そんな表情出来たんですね!? 可愛いが!?
ご清覧いただきありがとうございました!
そろそろ冬編で一番書きたいシーンが書けそうでワクワクしております。
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