144 経験の差
同人女の異世界召喚、実は書籍化しています。
web版とはちょこちょこ違いがあるので是非購入して読んでみて下さい!
感想を書いていただけたらとても喜びます!
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耳鳴りのような甲高い音がする程に高められた魔力によって作られた氷の破城槌は、私の掛け声とほぼ同時に、何の予兆も、音すらも無く、最初からそこに存在していなかったかのように消え失せる。
ダニエル女公爵は驚愕した様子だったが、すぐさま切り替えて出の早いスペルを無詠唱で繰り出してくる。
それと同時に、最早私との言葉の応酬は不要と断じたのか、何とか必死に止めようとしてくれていたユリストさんを地面から刺し生やした荊の壁で突き放す。よくあるバトル漫画のように、戦闘の最中に何かを話したり、語りかけてくる事は無い。ただ粛々と敵を排除するつもりのようだった。
氷薔薇の矢は本物の矢のように静かに、しかし実際の矢とは違い一定の速度で風を切り、私達を貫かんと襲ってくる。
だが、銃弾よりは早くない。音速にも満たない速度のそれを捉えるのは、とうの昔に引退して衰えているとはいえ、ある程度音ゲーをやりこんでいた私にとっては、動体視力でギリギリどうにか出来るものだった。
権能の【分離】で、飛来する氷薔薇の矢をひたすら消す、消す、消す。一つ一つ選択して消すのではなく、選択ツールでまとめて囲って消去するようなイメージで世界から切り離す。
同じ威力のスペルで相殺している訳ではないから、攻撃の余波は無い。防御している訳ではないから、流れ弾があちこちに飛ぶ心配も無い。
しかしダニエル女公爵も、ただただ闇雲に攻撃を仕掛けるだけではない。基本的に物理的な現状を引き起こす事に長けている氷属性では突破口が掴めないと察すると、すぐに次の手に移った。
氷属性が使えるということは、この世界においては水と風、二種類のスペルも使えるという証左である。
本来の海流に逆らい生み出された大波が立ちはだかり、迫ってくる。私とヘーゼルをセレナから流してしまおうという魂胆だろうか。否、水を操る点においては、水棲であるセレナに敵うはずが無い。
セレナは体色をちかちかと明滅させると、ぐぐっと視界が急上昇する。ちらりと下を見れば、彼女が操っているであろうビッグウェーブの頂点に私達は居た。某ポの字のノリで「波乗りだ!」なんて言ったが、まさか本当にそんな感じの技を使って、更にサーフィンのように波の上を滑るような状況になるだなんて思っていなくて、自分でもおかしいとは思うがちょっと笑ってしまった。脳内麻薬がドッパドパな状態なのだろうか。
セレナはダニエル女公爵が作り出したスペルの大波に、自身が操るビッグウェーブをぶつける。その直前に余波に巻き込まれないようにか、セレナは宙に身を踊らせた。
「おっと」
ヘーゼルの呟きと同時に、防壁が反応して青く輝く。
何事かと思う前に、下から吹き上げる強風に思わず目を瞑った。
一瞬、ヨダカとやり合った時のような風の刃に防壁が反応したのかと思ったが、すぐに違ったと思い知らされる。
落ちないのだ。体が強風によって押し上げられ、無限スカイダイビング状態になっていたのである。体全体でバランスを取り風の抵抗を利用して動こうにも横風に煽られ、おそらく中心点だろう辺りに押し戻されてしまう。
私達は、完全に空中で身動きが取れなくなってしまった。まんまと誘い込まれたのだ。
「そんなの有りィ!?」
「有りだからこんなことになっているんじゃないかい?」
「それはそう! これどうにかして弾けない!?」
「弾いてるよ。今は風しか感じないだろうけど、防壁の外はミキサー状態だからね。良くてダルマ、悪くて挽き肉とつみれになっていたと思うよ」
「自称でもありがとう神様ヘーゼル様助かりました!!」
形の無い、目に見えない風の檻と表現するのが近いだろうか。びゅうびゅうと風音を鳴らし周囲を駆け巡る風は強く、私達を重力に従わせまいと押し上げ、しかしX軸にもY軸にも移動させまいと弧を描くように渦を巻く。
自身を取り巻く風を【分離】で切り取ろうとしてみたものの、私の認識の問題か、それともダニエル女公爵が消された先から風ミキサーの檻を再構築しているのか、上手くいかなかった。
何とか、何とか突破する方法は、と焦りでパニックになりそうになった、その時。
――声無き咆哮。
流石に心の準備も無く、且つ密着状態で食らうと意識がぐらついたが、どことなくあの浜辺で聴いた時よりは控えめだ。その証拠に、宙族アレルギー耐性が低そうなレイシーが気絶すらせず腰を抜かす程度で済んでいる。
とはいえ、ダニエル女公爵を怯ませる程度の威力はあった。私達を捉えていた風の渦がふっと消え去り、重力に
従って落ちていく。
「ヘーゼル、調整頼む!」
「着地地点は?」
「当然、ヘレンのとこ!」
ヘーゼルは防壁を解除し、私達を捕らえていた風の檻とは違う、柔らかなそよ風のようなスペルで落下スピードと位置を調整する。
ちらりとモズの様子を確認する。セレナが手加減してくれたおかげか、はたまた二度目だからか、多少硬直していたようだったが、私と目が合うと空を蹴って駆け出した。その後ろで、空気を踏み翼も無いのに階段を登るが如く走り出したモズを、まるで狐に化かされた人のように目を丸くして凝視しているレイシーが見えた。
「遅くなった、モズ大丈夫!? 一人で突っ走ってごめん!」
「へいき」
「元気ならよろしい!」
駆け寄ってきたモズは少し顔色が悪かったが、軽やかな足取りで空中歩行していたのを見るに、自己申告の通りピンピンしているようだ。
隷属の刻印による苦痛は私にはわからないが、結構な時間離れていて、その間ずっと責め苦を受け続けていたようなものだと考えても、ここまでケロッとしてるのは何というか、ちょっと気力が強靭すぎやしませんかね。今の状況だとありがたい事だけど。
ダニエル女公爵が態勢を立て直す前に何とかするべくモズに指示を出そうとするが、その言葉に被せるように「ねえちゃん」と空を見上げる。
トワさん、ディープワンの時で学んでるから分かるんだ。これは危険を知らせてる時の「ねえちゃん」だ!
聖女を見上げると、空にずらりと整列する光の剣が目に入る。かなり距離があるというのに、やはりどうしてかハッキリと見えてしまう聖女の顔は、忌々しいという言葉では片付けられない程の憎悪で歪んでいた。
「何してくれんのよ!」
そんな聖女とは思えない台詞と共に、天に掲げ光の剣を制御していた手を勢いよく振り下ろす。
光の剣が一斉に切っ先を私達に向け、動く。ヘーゼルは着地補助をしてくれているので防壁は使えないが、ダニエル女公爵とやりあったばかりの私にとって、あの光の剣は量こそ比べものにならない程多いものの、酷く緩慢な動きに見えた。
目で追える。ならば、私だけで対処可能だ。
「こっちの台詞だ!」
目につく範囲の光の剣を【分離】で切り取る。ダニエル女公爵との応酬を見ていなかったのか、光の剣が音も無くパッと消えてしまった瞬間を目の当たりにした聖女は、「えっ!? 嘘、何で!?」と混乱していた。
ダニエル女公爵に比べて戦闘経験が浅いのと、今までチート性能で一方的に蹂躙する戦い方しかしていなかったせいか、自分のスペルが無効化されたという事実に相当強いショックを受けたらしい。瞬時に頭を切り替えるなんて芸当は出来ないようだった。
その隙に先程切り取った氷の破城槌を、聖女を囲うように【複製】で出現させてから、その場に【固定】する。相当魔力が込められた逸品だ、流石の聖女でもこの檻はそうそう簡単に脱出されない……と願いたい。
「そこで頭冷やしてな!」
ダニエル女公爵だけで手一杯だってのに、同時に聖女を相手になんてしてられない。時間稼ぎをさせてもらう。
ご清覧いただきありがとうございました!
混戦状態って書くの難しいです。もうちょっとこうなんか上手い事描写出来ると思うんだけどな〜、と不完全燃焼な感じなので、時間がある時にちょこちょこ直したいですね。
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2026/01/25 追記
体調不良により今週の更新はお休みです。お腹痛い……心当たりしかない……。
次回更新は2/1(日)です。




