143 チートにはチートをぶつけんだよ!
同人女の異世界召喚、実は書籍化しています。
web版とはちょこちょこ違いがあるので是非購入して読んでみて下さい!
感想を書いていただけたらとても喜びます!
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八つ当たり気味に聖女を睨み付けたと同時に花火とは言い難い巨大な爆炎が彼女を襲った瞬間、あれだけ熱かった体が一気に冷えた。
あまりにも唐突な大爆発に数秒脳が停止するも、幸いにもすぐに再起動する。渦巻いていた怒りが一度停止したためか、少し冷静になれた。気が付けば、海に落ちてずぶ濡れだったはずの体や服は乾いていた。
冷静になってすぐに、「あ、これ私がやったんか」と理解する。少なくとも、あの聖女のスペルに匹敵する規模の爆炎をノーモーションで出せる人なんて、前作ならまだしも、ARK TALEに登場するキャラクターには存在しないはずだ。万が一居たとしても、そのキャラクター達はバラットに居ないはずだし、居たとしても、聖女と敵対する理由が無い。
スペルだとか魔力だとか、そういうものは頭に血が上っていたため感覚なんて全く覚えていないけれど、私には分かる。私は世の中の勘違い系最強ジャンルの主人公とは違って察しが良いんだ。
そして察しが良いということは、曲がりなりにもアルバーテル教会及びパラディーソ王国から聖女認定を受けた人物に攻撃を加えたということが、どういうことなのかも理解してしまうということでもあり。
「な、内乱罪ーッ!?」
「内乱罪が適応されなかったとしても、あの威力のスペルだと、傷害罪じゃなくて殺人未遂罪になるかな?」
「分かってるから事実を突きつけんな!」
即死罪レベルの犯罪をやらかしたという事実に、ようやく念願のスペルを自力で使えたという事実なんて脳からすっぽ抜けてしまった。
しかし、これ移動どうしようなんてあれこれ考える暇なんて、彼女は与えてくれなかった。
ダニエル・ローズブレイド。妖精というより悪魔と言った方がしっくりくる彼女が、こんな大きな隙を見逃すはずが無かった。
「ヌ゛ワ゛ーーーーー!?」
氷で出来た茨の矢が襲いかかる。それも十本や二十本ではない、止めどなくダニエル女公爵が打ち出してきたのだ。それも、私に向かって。
宙族への庇い立てに加え、嫌っているとはいえ仮にも国や協会から認められた聖女への攻撃。そんな行為を目の前で見せられたら、貴族として、国民として、私を国の敵と認定するのは当然だ。特にあのダニエル女公爵だ。必要ならば平民にでも寵愛を施すが、不必要なら即座に切り捨てる性格なのは、原作ゲームと実際の付き合いから容易に想像出来る。理解は出来るけど分かりたくない!
聖女の攻撃を防いだのがヘーゼルのスペルであり、先行したため防壁の範囲外に居るだろうと判断したダニエル女公爵は、きっと確実に仕留めるためにまずは私から狙ったのだろう。この短い間に的確な判断をするなんて、流石は公式チート疑惑のある人物。こんな状況じゃなければ大変頼もしかったはずだ。
敵対すると厄介極まりないどころか驚異でしかないのは言うまでもない。間一髪防壁内に滑り込んでいなければ、今頃ハリネズミと化していたに違いない。
「待っ、ちょっ待っ、申し訳ありませんがちょっと攻撃を中止していただけませんか今のただの暴発なんです明確な攻撃の意思はありませんでしたぁーッ!!」
ギリギリ防壁内に逃げ込んだためか、はたまた私の悲痛な叫びが届いたのか、攻撃が止む。多分前者だろう。氷薔薇の矢が防壁の硬さに負けて砕け散る音のせいでかき消されてるだろうし。聞こえてたとしてもダニエル女公爵のことだし。
ちらりと見ると、ユリストさんがダニエル女公爵に慌てて駆け寄って、オーバーなボディランゲージを交えながら何かを伝えている。
うっかり視界に入ってしまったレイシーはというと、モズの服を掴んで引っ張り、逃げようとしているようだが、刻印の影響で耐え難い苦痛に苛まれているはずのモズが根性で私の元に来ようとしていて、逆に引きずられていた。ひ、貧弱……いやゲーム内でも貧弱だったわあいつ……。
「……ん? わぁ、凄い」
不意に、ヘーゼルの呟きが耳に入る。何がどうした、と聞く前に、呟いた本獣によって理由が明かされた。
「防壁にヒビが入っているね」
その言葉を聞いた私は、反射的に逃げようとしていた足を止めた。
いやいやまさか嘘でしょ、と否定したがる自分の心を殴り倒し、固まってしまった首をギギギと無理矢理動かして現実を直視する。
彼の言う通り、小さくはあるものの、よく見ると最強の盾だと思っていた防壁にはいくつもの小さなヒビが入っていた。
無意識に、ヒュッ、と息を飲む。今日一背筋が冷たくなった。
「……ちなみにそれはどっちの攻撃のせい?」
「ダニエル・ローズブレイドの方だね。一発あたりのモルド圧が聖女とは桁違いだ。恐らく長期間の研鑽による熟練した技術によるものだろう。一朝一夕では到底真似出来ない芸当だよ」
「要するに?」
「防壁を破壊される前にこまめに張り直さないといけないかな。まあ、あの程度の威力ならすぐには壊れないさ」
「壊れる可能性があるってことやんけぇ!」
はい。ダニエル女公爵、チート性能確定です。
過去にモズがこの防壁を突破したのは、言わば縫い目に針の穴を通す所業をやってのけたからであって、真正面から力技で破壊した訳では無い。それも、鑑定眼があってこそ出来る、裏技みたいなものだ。
しかし、ダニエル女公爵は力技で正々堂々真正面から突破しかねない。
ヘーゼルが言っていたモルドというのは、イコール魔力のことだ。ざっくばらんに言えば、先程のスペル攻撃は、あの繊細な薔薇の花と細っこい茨の見た目に反して、滅茶苦茶魔力が込められていたという訳だ。
スペルによる攻撃は魔力を込める、言い換えれば魔力を圧縮すればする程、消費魔力が大きくなる代わりに着弾した際の破壊力が増すとか何とか。ゲーム内で他のキャラが言ってた。RPGゲームでよくあるブーストや威力強化みたいなものだ。
ヘーゼル曰く、聖女の攻撃より余程単発火力が高いらしいそれを、何十発も撃っておいて悠々としている。
……これ本気のスペル食らったら防壁破られるんじゃね?
「お前一応自称神じゃないの!? この防壁チートちゃうんかい!」
「仕方ないだろう? どんな攻撃も通さない盾なんて存在しない。何事にも限度というものがあるんだ。けれど、実現しうる最高硬度には変わりないよ」
「その最高硬度の防壁にヒビ入ってるんですけど!!」
つい足を止めて自称神の毛玉畜生に文句を言っていたが、セレナが慌てたように海面を揺らす。ワンテンポ遅れて、ヘーゼルも何かに気づいたらしく、あっ、と小さく声を漏らした。
まさかね? と現実逃避しかけながらも再び視線を港に向けると、さっきとは比べ物にならない圧を感じる氷薔薇の矢――もはや破城槌と呼ぶべきか――が数本、ずらりと並んで浮かんでいた。
標準は当然、我々だ。
普段はカップリング談義でしか機能しない直感が囁く。
あれはヤバい、と。
「だ、大丈夫だよな? アレ防げるよな?」
「あれだけのモルド圧の呪文を受けたら、流石に破壊されるか対消滅が起きるだろうね」
「ダメじゃん!!」
「ここまでやれるヒトはそうそう見かけないね」
「そうそう見かけてたまるかーッ!」
ユリストさんの制止は一切の効果無し。モズは動けない状況。レイシーは論外。
しかも上空には聖女が控えている。ようやく煙が晴れて無事を確認出来たが、今は攻撃された事にショックを受けているのか、それとも怒りに震えているのか静止したままだが、いつ動き出すか分からない。
何か、何か防ぐか凌ぐ方法は――。
その時、はたと気がつく。
私にはもっと直接的に、且つ簡単にあのスペルを防ぐ手段があるじゃないか、と。
「ヘーゼルは聖女警戒、ダニエル女公爵の攻撃は私が何とかする! 行けっセレナ! 波乗りだ!」
唐突な指示にセレナは少し困惑している様子だったが、私の無責任な「大丈夫何とかするから! ヘレンと会いたくないんか!?」という言葉を聞くと、意を決したのか、残っている触手の一本で私を引っ掴むと、ジェットスキーのような勢いで泳ぎ始めた。
並走するつもりだったが、まさかの触手で持ち上げられるとは思っておらず、心の準備も無いままに冷たくぬめる触手を体に巻き付けられて凡そ生物学上女とは思えない悲鳴を上げてしまったが、すぐに気を取り直す。
溜め技は――。
「切り取り!」
撃たせる前に、潰すべし。
毎回そうなのですが、今回は一際タイトルで悩みました。
仮タイトルは「持ち物候補はパワフルハーブ」でした。はい、ポの字ネタです。
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