39/49
序節 ― 救える命
目の前で、ひとつの命が消えようとしている。
呼吸は浅く、胸の鼓動は弱い。もう長くはないと、誰の目にも分かる。
けれど、助ける方法があるのなら。
息を戻せる。
止まりかけた心臓を、もう一度動かせる。
閉じようとする瞼に、明日の朝の光を見せられる。
そのとき、差し伸べた手を責めることなど、誰にできるだろう。
むしろ難しいのは、その逆だった。
救えると知りながら、手を離すこと。
まだ命を繋げると知りながら、それをしないこと。
苦しんでいるから。
もう終わりたいと願っているから。
その命が、以前とは違う形になってしまうから。
そんな理由で、助けられる命を見送ることなど――本当にできるのだろうか。
私にも、長いあいだ分からなかった。
命があることと、その命が何を望んでいるかは、同じではない。
その違いを知るには、私はあまりにも多くの命を見すぎた。
そして、あまりにも長く。
助けられるなら、
助ければよい。
私は、
長いあいだそう思っていた。




