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序節 ― 救える命

 目の前で、ひとつの命が消えようとしている。


 呼吸は浅く、胸の鼓動は弱い。もう長くはないと、誰の目にも分かる。


 けれど、助ける方法があるのなら。


 息を戻せる。

 止まりかけた心臓を、もう一度動かせる。

 閉じようとする瞼に、明日の朝の光を見せられる。


 そのとき、差し伸べた手を責めることなど、誰にできるだろう。


 むしろ難しいのは、その逆だった。


 救えると知りながら、手を離すこと。

 まだ命を繋げると知りながら、それをしないこと。


 苦しんでいるから。

 もう終わりたいと願っているから。

 その命が、以前とは違う形になってしまうから。


 そんな理由で、助けられる命を見送ることなど――本当にできるのだろうか。


 私にも、長いあいだ分からなかった。


 命があることと、その命が何を望んでいるかは、同じではない。


 その違いを知るには、私はあまりにも多くの命を見すぎた。


 そして、あまりにも長く。


 助けられるなら、

 助ければよい。


 私は、

 長いあいだそう思っていた。

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