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序節 ― 森には、人より先に名前がある
森には、人より先に名前がある。
人が道を引き、境を決め、獣や草木に名を与えるよりもずっと昔から、そこでは命が生まれ、死に、形を変えてきた。
空へ逃げるために、羽を持った。
深い水へ潜るために、鱗を得た。
食われぬために牙を伸ばし、乾いた土地を離れて水辺へ移った。高い光を求めて木へ登り、逃げることをやめた命は、その場所へ根を張った。
どれも、変わりたかったわけではない。
変わらなければ、生き残れなかっただけだ。
森はそれを病とは呼ばない。
昨日とは違う姿で朝を迎えた命に、戻れとも言わない。
けれど人間は、不思議なほど最初の形を覚えていたがる。
自分が最初に知った顔を。
最初に抱いた身体を。
最初に呼んだ声を。
それを「元の姿」と呼び、そこから離れてしまった命を見ると、戻さなければならないと思う。
たとえ、その命がもう、別の姿で息をしていても。
たとえ、その身体が、新しい生き方を覚え始めていても。
あの少年も、そう呼ばれていた。
変わってしまった子、と。




