14th(13th) day.-9 TAIL ZWEI/釘、扉、鍵 - 渇いた叫び - /ZERO
G.T. 12:44
「―――ジューダス、離して! お願い、ジーンが!」
「っ―――」
ジューダスの苦悶の声が届く。
ジーンの言葉を聞いたジューダスによって戦場から離脱させられた。
あの場にいれば、危険だと。地獄の業火が吹き荒れる、魔獣へと堕ちたノーウェンスによって、周囲を『地獄』そのものに変貌させようとしている、あの場所から離れるように懇願された。
わかっている。あの場に残るよりも、私とジューダスだけでも離れることが得策だと。
わかっている。あの場に残るのは、ジーンこそが適任で、あそこでノーウェンスを止めなければ、きっとこの結界内全てが『地獄化』していまうのだと。
わかっている。わかっているけれど、あの場にジーンを残してしまうことが、なにを意味することくらい、私でもわかっている。だからこそ、―――
「ジーンを置いていかないで! ねえ、ジューダスってばッ!!」
ジューダスの駆ける速度が低下する。担いでいた私を地面に降ろし、膝をついたまま頭を垂れていた。
それは、十分な距離を取れたからか。私の言葉を聞き入れてくれたからか。それとも、すでに、あのプレッシャーが止んでいるからか。
それも、ジューダスの表情を見れば、私にだって十分判断できる。
「・・・・・・すまない、アオイ」
わかっている。ジューダスの判断は正しい。
ジーンの言葉を聞くならば、ジューダスの判断は至極合理的であり、迷っている余裕なんて無く、この距離まで一息で離脱することこそが、ジーンの意志を受け継ぐということ。
けれど、私達は、あの場で多くのものを失ってしまった。
ジーンだけではない。戦いの余波で、アルスの最後の魔力弾も消失した。
戦力という面だけではない。私の中に僅かにあった、なにかのつながりが切れている。
それは、きっと私とジーンの繋がりだったようにも思える。
ジューダスが言っていた、私が夏喜の形見として持っていた赤い宝石を依り代にしてジーンを呼び出したのだと。
なら、ジーンとは、呼び出される前から一緒にいる。
―――姉であり、妹であり、良き友でした。
その言葉は、ずっと私と一緒にいたからこそ。ずっと一緒だったからこそ、気付けなかった。
僅かな違和感。そのつながりが切れたということは、彼女がいないということを押し付けるように教えてくれる。
「ジューダス、・・・・・・ジーンは―――」
ジューダスの表情は曇ったまま。私がなにを口にしようと、この事実が覆ることは、おそらく無い。奇跡が起こることもないだろう。
手繰り寄せようとも、もうつかめない細い糸。消滅してしまった絆が、私の―――私とジューダスの中で蟠りとなる。
頬を濡らす、零れる涙が地面へと落ちた。息を殺しても、大粒の涙は枯れず、静かに、けれど確実に溢れ出てくる。
///
G.T. 12:39
空気すら震わせる、暑苦しい圧によって微睡みの淵から覚醒する。
知らない天井に、見知らぬ部屋。いや、部屋と呼ぶにはいささか趣のない、無機質な石造りの空間で、石棺のように寝心地の悪い場所に眠らされていた事実に気付き、鈍い頭痛に意識を巻き戻されつつ頭を起こした。
乾燥した冷たい空気に、感じたことのない異様な魔力が満ちている。それが、自分の身体から発せられていることに気付くのに、そう時間はかからなかった。
「これ、アレイスターのだ」
嫌でも気付く。心臓の鼓動に混ざる、異質な存在。自身の感覚では、つい数時間前まで帯同していた幻想騎士がいたはずなのに、その彼も近くにはいない。
けれど、自分の心臓と同期している魔炉の存在により、その経緯は想像がつく。方法はわからずとも、損傷したものを修復するために、移植されたのだと。
「それにしても、どこだここ」
石造りの暗い部屋を見渡す。遠くから何やら争っている音が聞こえ、この世のものとは思えない異界のプレッシャーにより、より困惑する。
自身の置かれている状況を整理しようとしたときに、知っている気配に気付く。足早にこちらに近付いてきたが、途中で止まったようだ。
―――ボクに代われ。いい加減に、ボクを代えしてくれ。
頭の中の雑音をミュートにする。今、自分がすべきことを為そう。鍵としての存在を全うし、進むべき先へ―――
///
G.T. 12:50
「やあ、ねぇちゃん。久しぶり」
暗闇の先から、聞き覚えのある声がした。確かな足取りで、探し求めていた弟が、あの日の夜と同じ様子で歩み寄る。
「宗次郎・・・・・・」
「ところでここはどこかな。まあ所在なんて大した問題ではないけど、アレイスターの隠れ家で寝ていたはずなのに、気付いたら硬い石の上で寝かされて目覚めが悪いんだよね」
宗次郎自身、あの日の夜からの経過がわかっていない様子で、けれど狼狽すること無く、飄々とその事実だけを受け入れていた。
その姿は、どこか眩しく、羨ましく、今の私には、妬ましく思えるほど。宗次郎の明るさが、今の私にはすごく暴力的に感じる。
「坊主。オレたちには余裕がない。だからこそ、簡潔に聞くぞ。今のお前は、どっちだ?」
「どっちもクソもないよ。ボクはボクだ。初めからね。ただ、あなたやねぇちゃんが受け入れやすくするなら、ボクはあの日のままさ」
「わかった。なら、オレたちのすることは一つだ。帰るぞ、一緒に」
そういったジューダスの表情は、すでに戦いへ赴くものへと変わっている。
ジーンとの別れすら置き去りにされ、悲しむ余裕すらない。だからこそ、彼は自分の感情を誤魔化すために、神槍を握ろうとしている。
「話が早いね、幻想騎士のお兄さん。えっと、アレイスターはイスカリオテって云ってたっけ。裏切りの使徒さん、あなたはボクに勝てるのかな?」
宗次郎の手に、淀みなく、偽りなく、誤魔化しのない殺意が凝集する。象られていく魔力の結晶、―――"魔灯剣"が、一本の刀として具現化する。
「お前、ただの魔力の塊を、物質化させたのか・・・・・・」
あの日とは違った宗次郎の殺意の形に、ジューダスが固唾を呑む。
明らかに、様子が違う。姿形は宗次郎でも、性格は『zero』として存在している弟だが、その能力が以前とは変貌している。
「アレイスターの影響かな。まさか、刀になるなんて驚いた。でも、ボクはボクだよ。それだけは、変わらない」
刀身が次第に輝きだし、その光が収まる頃には、その切っ先が金色へと変貌していた。
その姿は、あのアレイスター=クロウリーの持つ短剣のようでもあり、"銀の星"の当主が持つ呪槍のようでもある。
「さあ、ボクを連れて帰りたかったら、服従させてみなよ。屈服させてみなよ。そうでなければ、ここで斬り伏せるよ!」
守護者と助けるべき者がもつ刃が、暗い部屋の中で火花を散らした。
_go to "it's my life".




