↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第6章 I'm (not) ready.

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
91/102

14th(13th) day.-9 TAIL ZWEI/釘、扉、鍵 - 渇いた叫び - /ZERO


G.T. 12:44


「―――ジューダス、離して! お願い、ジーンが!」

「っ―――」


 ジューダスの苦悶の声が届く。


 ジーンの言葉を聞いたジューダスによって戦場から離脱させられた。


 あの場にいれば、危険だと。地獄の業火が吹き荒れる、魔獣へと堕ちたノーウェンスによって、周囲を『地獄』そのものに変貌させようとしている、あの場所から離れるように懇願された。


 わかっている。あの場に残るよりも、私とジューダスだけでも離れることが得策だと。


 わかっている。あの場に残るのは、ジーンこそが適任で、あそこでノーウェンスを止めなければ、きっとこの結界内全てが『地獄化』していまうのだと。


 わかっている。わかっているけれど、あの場にジーンを残してしまうことが、なにを意味することくらい、私でもわかっている。だからこそ、―――


「ジーンを置いていかないで! ねえ、ジューダスってばッ!!」


 ジューダスの駆ける速度が低下する。担いでいた私を地面に降ろし、膝をついたまま頭を垂れていた。


 それは、十分な距離を取れたからか。私の言葉を聞き入れてくれたからか。それとも、すでに、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それも、ジューダスの表情を見れば、私にだって十分判断できる。


「・・・・・・すまない、アオイ」


 わかっている。ジューダスの判断は正しい。


 ジーンの言葉を聞くならば、ジューダスの判断は至極合理的であり、迷っている余裕なんて無く、この距離まで一息で離脱することこそが、ジーンの意志を受け継ぐということ。




 けれど、私達は、あの場で多くのものを失ってしまった。




 ジーンだけではない。戦いの余波で、アルスの最後の魔力弾も消失した。


 戦力という面だけではない。私の中に僅かにあった、なにかのつながりが切れている。


 それは、きっと私とジーンの繋がりだったようにも思える。


 ジューダスが言っていた、私が夏喜の形見として持っていた赤い宝石を依り代にしてジーンを呼び出したのだと。


 なら、ジーンとは、呼び出される前から一緒にいる。




 ―――姉であり、妹であり、良き友でした。




 その言葉は、ずっと私と一緒にいたからこそ。ずっと一緒だったからこそ、気付けなかった。


 僅かな違和感。そのつながりが切れたということは、彼女がいないということを押し付けるように教えてくれる。


「ジューダス、・・・・・・ジーンは―――」


 ジューダスの表情は曇ったまま。私がなにを口にしようと、この事実が覆ることは、おそらく無い。奇跡が起こることもないだろう。


 手繰り寄せようとも、もうつかめない細い糸。消滅してしまった絆が、私の―――私とジューダスの中で(わだかま)りとなる。


 頬を濡らす、零れる涙が地面へと落ちた。息を殺しても、大粒の涙は枯れず、静かに、けれど確実に溢れ出てくる。


///


G.T. 12:39


 空気すら震わせる、暑苦しい圧によって微睡みの淵から覚醒する。


 知らない天井に、見知らぬ部屋。いや、部屋と呼ぶにはいささか趣のない、無機質な石造りの空間で、石棺のように寝心地の悪い場所に眠らされていた事実に気付き、鈍い頭痛に意識を巻き戻されつつ頭を起こした。


 乾燥した冷たい空気に、感じたことのない異様な魔力が満ちている。それが、自分の身体から発せられていることに気付くのに、そう時間はかからなかった。


「これ、アレイスターのだ」


 嫌でも気付く。心臓の鼓動に混ざる、異質な存在。自身の感覚では、つい数時間前まで帯同していた幻想騎士(レムナント)がいたはずなのに、その彼も近くにはいない。


 けれど、自分の心臓と同期している魔炉の存在により、その経緯は想像がつく。方法はわからずとも、損傷したものを修復するために、移植されたのだと。


「それにしても、どこだここ」


 石造りの暗い部屋を見渡す。遠くから何やら争っている音が聞こえ、この世のものとは思えない異界のプレッシャーにより、より困惑する。


 自身の置かれている状況を整理しようとしたときに、知っている気配に気付く。足早にこちらに近付いてきたが、途中で止まったようだ。




 ―――ボクに代われ。いい加減に、ボクを代えしてくれ。




 頭の中の雑音をミュートにする。今、自分がすべきことを為そう。(zero)としての存在を全うし、進むべき先へ―――


///


G.T. 12:50


「やあ、ねぇちゃん。久しぶり」


 暗闇の先から、聞き覚えのある声がした。確かな足取りで、探し求めていた弟が、あの日の夜と同じ様子で歩み寄る。


「宗次郎・・・・・・」

「ところでここはどこかな。まあ所在なんて大した問題ではないけど、アレイスターの隠れ家で寝ていたはずなのに、気付いたら硬い石の上で寝かされて目覚めが悪いんだよね」


 宗次郎自身、あの日の夜からの経過がわかっていない様子で、けれど狼狽すること無く、飄々(ひょうひょう)とその事実だけを受け入れていた。


 その姿は、どこか眩しく、羨ましく、今の私には、妬ましく思えるほど。宗次郎の明るさが、今の私にはすごく暴力的に感じる。


「坊主。オレたちには余裕がない。だからこそ、簡潔に聞くぞ。今のお前は、どっちだ?」

「どっちもクソもないよ。ボクはボクだ。初めからね。ただ、あなたやねぇちゃんが受け入れやすくするなら、ボクはあの日のままさ」

「わかった。なら、オレたちのすることは一つだ。帰るぞ、一緒に」


 そういったジューダスの表情は、すでに戦いへ赴くものへと変わっている。


 ジーンとの別れすら置き去りにされ、悲しむ余裕すらない。だからこそ、彼は自分の感情を誤魔化すために、神槍を握ろうとしている。


「話が早いね、幻想騎士のお兄さん。えっと、アレイスターはイスカリオテって云ってたっけ。裏切りの使徒さん、あなたはボクに勝てるのかな?」


 宗次郎の手に、淀みなく、偽りなく、誤魔化しのない殺意が凝集する。象られていく魔力の結晶、―――"魔灯剣エクスキューショナーソード"が、一本の刀として具現化する。


「お前、ただの魔力の塊を、物質化させたのか・・・・・・」


 あの日とは違った宗次郎の殺意の形に、ジューダスが固唾を呑む。


 明らかに、様子が違う。姿形は宗次郎でも、性格は『zero』として存在している弟だが、その能力が以前とは変貌している。


()()()()()()()()()かな。まさか、刀になるなんて驚いた。でも、ボクはボクだよ。それだけは、変わらない」


 刀身が次第に輝きだし、その光が収まる頃には、その切っ先が金色へと変貌していた。


 その姿は、あのアレイスター=クロウリーの持つ短剣のようでもあり、"(Argen)(teum A)(strum)"の当主が持つ呪槍(ロンギヌス)のようでもある。


「さあ、ボクを連れて帰りたかったら、服従させてみなよ。屈服させてみなよ。そうでなければ、ここで斬り伏せるよ!」




 守護者と助けるべき者がもつ刃が、暗い部屋の中で火花を散らした。




_go to "it's my life".


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。