14th(13th) day.-10 TAIL ZWEI/釘、扉、鍵 - それでも運命は廻っている - /IT'S MY LIFE
G.T. 12:56
鋭い切っ先がジューダスの喉元へと吸い込まれる。
迷いのない一突き。隙のない踏み込み。それを、神槍の柄で軌道を逸らし、その衝突は火花を散らした。
すれ違いざまに、宗次郎の襟元を掴んだジューダスが、軽々と投げ飛ばす。
「いてて。乱暴だなぁ」
転がった宗次郎が素早く体勢を立て直し、再び刀を構える。その切っ先に、ジューダスの急所を捉えていることは間違いない。
互いが、ゆっくりと間合いを詰める。ジリジリと、隙のない動向に、けれど確実に狭まる空間が、次なる一手を捉えようと、鋭い殺気が交差した。
「―――ッ!」
先に動いたのは、再び宗次郎だった。今度は神槍を握るジューダスの腕。一撃で捉えきれぬと判断した剣筋は、最小の動きで迫りくる。
それを、ジューダスは器用に神槍の柄で絡め取り、左足が宗次郎の脇腹へと容赦なく蹴り飛ばした。
「・・・・・・」
沈黙するジューダスに対し、蹴りの痛みにゲホゲホと咳き込む宗次郎。その様子に、違和感を覚えているのは、私だけではなかった。
「坊主、どういうつもりだ・・・・・・?」
「ゲホッ、ゲホッ・・・・・・痛いなぁ。ヒドいじゃないか」
「ふざけているのか? それとも、―――」
足早に宗次郎の元に詰め寄ったジューダスが、脇腹を押さえて倒れ込む宗次郎の胸ぐらを掴んで無理やり起き上がらせる。
「ちょっと、ジューダス・・・・・・」
「坊主、お前、―――」
宗次郎の顔を睨みつけるジューダスに、飄々とした表情を崩さない宗次郎。私の違和感は、きっと間違っていない。
「なぜだ。なぜ刀を握る。お前、すでに帰転しているんだろう」
「・・・・・・ああ。バレちゃったか」
「質問に答えていないぞ。これでは、オレはお前に刃を向ける理由がない」
「理由ならあるよ。ボクはボクだ。表に立つのが誰であっても、人格がいくつあろうと、ボクであることは間違いない」
なら、―――今の宗次郎が私の助けようとしていた宗次郎であるのなら、わざわざ刃を振るう理由がわからない。
「互いが互いを否定していたように、今は尊重しているだけさ。ボクは倉山宗次郎、そして"銀の星"の『zero』だ。どちらもボクで、そのためだけに生まれた器だよ」
「お前、それをなぜ、アオイの前で言える・・・・・・!」
宗次郎の胸ぐらをつかんでいたジューダスは、手を離したかと思うと、遠慮のない拳で殴りつけた。
「ジューダス、やめて!」
思わず叫ぶ。けれど、ジューダスの顔は、怒りに任せたものであり、それでいて感情と理性の天秤で揺れていた。だからこそ、宗次郎の動きを待っている。
殴られたことで地面を転がった宗次郎だったが、切れた口を抑えながら、迷いのない眼で立ち上がった。
私と、ジューダスの前に立つその姿に、心が揺さぶられる。
―――覚悟が、崩されそうだ。
覚悟を決めて、私はこの戦いに足を踏み入れた。
失った多くのものを、けれど助けなければという意思で前に進んできた。友を失い、仲間を失い、別れの場すら失い、それでも覚悟を崩さぬよう進んできたのに、ようやくたどり着いた先で、目標が霞んでいく。
「ねぇちゃん。ボクはね、アレイスター―――ロキに無理やり『zero』に戻されて、すごく怖かった。心のなかにずっといた同居者だ、けれど、主導権を握ってからはずっとそれを抑えつけていた。だからこそ、『椅子』を奪われたときに、もう二度と表に出れないと思って怖かった」
「『zero』の影に隠れていても、意識はずっとあった。だから、お兄さんとロキの戦いも、使い魔との戦いも、ずっと見ていた。だからこそ、表に戻りたかった」
「けどね、使い魔の魔弾で魔炉が傷ついて、次第に動けなくなっていく『zero』を見ていて、何かが足りないって気付いた。『zero』からすれば、ずっと裏に押し込められていて、ようやく『椅子』に座れた。だからこそ、ボクには裏に行ってほしいって思ってる」
「一緒なんだ。ボクは、ボクたちはずっと同じことに怯えている。消えるかもしれない、存在を否定されている時間が恐ろしい。けれど、それをわかってくれる存在もいない。共有できない。一人ぼっちだ。それが、何よりも怖い」
「でもね、遠のいていく意識の中で、やっとわかった。怖いのは、否定しているからだ。ボクと『zero』はたしかに違う。同じ身体を持っても、違う人格で、もちろん性格も違う。だからこそ、否定していては進めない。そう気付いたときには、もう身体は動かなかった」
「本来なら、ボクたちはここで終わりさ。和解も調停もない、意志と反する形で終わらされた。でも、アレイスターの魔炉が、ボクたちを繋ぎ止めた。第二魔法の結晶が、今ではボクの中で鼓動している。だからこそ、戻ってこれた」
「だからこそ、ボクは『zero』を認めた。だからこそ、『椅子』に座れた」
「今は裏側で『zero』は怒っているけど、ボクはボクを見捨てない。だからこそ、ボクは『zero』が為すべきことを代行する」
強く紡いだ言葉。これが宗次郎の意思で、意地で、―――覚悟だ。
私が私の事情で宗次郎を助けようと奔走したように、彼は彼の事情で刀を握っている。だからこそ、私達の前に立ちはだかっている。
「『zero』を止めたければ、ボクを止めるんだ。じゃなければ、ボクは"銀の星"側だ」
静かに構えられた切っ先が、再びジューダスの急所を捉え、先程とは違う、より研ぎ澄まされた殺意に、表情を固めたジューダスが神槍を構えた。
「お前の言い分はわかった。認めよう。尊重しよう」
翻される穂先に魔力が籠もる。わずかに離れた距離を引き寄せるように、―――踏み込んだ先で再び刃同士が衝突した。
_go to "this ugly and beautiful world".




