No.1『ヒガン・シンス』
「あなた…」
「よくやったなマリー!!俺たちの愛の結晶だよ…」
目の前では泣いてる男性
自分は何をしていたのか…そうだ、もう嫌になって海沿いの崖から…
「もう、あなたったら泣きすぎよ!どっちが赤ちゃんか分からないわ!」
この会話…どこかで聞いたことがあるような…
脳からその記憶を取り出すべく、体の全てのエネルギーを脳に使うようなイメージをした。
イメージしてる時点で脳に無駄な働きをさせているのでは?というツッコミも聞こえてこなくもないが…うるさい
「あぁ、ごめんよマリー、でもきっとこの神からの贈り物であるこの娘は…きっとマリーみたいに美しい女性になるに違いないよ!」
マリーという名前にも聞き覚えがある、遠い昔…どこかであっているのか?
いや、そんなわけない…どう考えても初対面だ。
それにここはどこだ?病院なのか?
崖から転落したあと、俺はどうなったんだ…
謎が増えるばかりであった。
「あぁ、私の愛しの娘…」
そういうとマリーという名で呼ばれていた女が俺の髪撫でていた。悪い気はしないが、なんか気恥しい。
それに、この人俺の事娘って言ったぞ。
この人は俺の親ではない。俺にはもう居ないけど、親が居たんだ。大好きな親が居たんだ。
だから俺はこの人の子供ではない。
「あぅ…あぁーわぁうぁ」
…自分なりに声を出そうとしたが、これが人と会話することを拒んだ者の末路なのだろうか?
それにしてもこんなに言語が話せなくなることある!?
「手を動かしてるぞ!マリー…ほんとに…ほんとに生きてるんだな…俺たちの娘…」
俺はその名を聞いて、会話に感じていたデジャブがなんなのかを知ることになる。
「ヒガン……ヒガン・シンス…」
ヒガン・シンス…忘れるはずが無いだろう。
お父さんと最初で最後にやったゲーム…俺が1番好きなゲームの…フラワーリング・クロニカルの…
裏ボスの村人の名前であった。
フラワーリング・クロニカル…国内売上もそこそこで知る人ぞ知る隠れ神ゲーとして扱われていた。
しかし裏ボスの設定や発見までの時間の長さによって一躍話題を集めた。
しかし、話題に上がった頃には製造は中止、大手の会社にゲーム会社は吸収されてしまっていたのだ。
つまりはゲームそのものの入手難易度が非常に高い。
そして、裏ボスそのものの難易度がものすごく高く、そこに行くまでに所要する時間も多く必要とした。
挫折するプレイヤーも少なくない。オフラインゲーム屈指の難易度のため、裏ボス討伐者は両手で数え切れるほどしか居なく、クリア後はプレイ動画撮影禁止だったので、ネットには動画が回らなかった。
そのため、どのようなラストになったかは、未クリア勢の適当な考察や、虚言が数多く存在し、ほとんどがデマであると思われ、見向きもされなくなっていった。
俺は幼稚園や保育所には行っていない。
父親が在宅ワークで面倒を見てもらう必要がなかったからだ。
だからこそ昼も夜もこのゲームに熱中し、夜は父親と一緒にアドバイスを貰いながら協力した。
そして、裏ボスを倒すことができた。
そのエンディングは決してハッピーエンドと言えるものではなく、ややバッドエンドよりのビターエンドであった。
胸に残るあのモヤモヤとした感じを忘れられず…今でもずっと覚えてる。
今自分が転生した者の末路を…
「ヒガン…あなたはお父さんみたいに、力強い子に育ってくれるかしら…」
俺は、この人たちがどうなるのか知っている。
死ぬのだ、母親はヒガンの目の前で殺されるのだ。
「ははっ、もしかしたら母さんみたいに、知的な魔法使いになったりしてな!?」
父親は、罪を擦り付けられ、最愛の人を殺したという冤罪で処刑されるのだ。
ヒガンは無力さに絶望し、世界にも失望して…
それがこのヒガンという少女の物語なのだ。
…そんなの絶対に嫌だ。
ゲームプレイ中にこうなれば良かったのにって妄想してた、そんなハッピーエンドを絶対に迎えてみせる!
運命に抗って、絶対に勝ってみせる。
無力じゃなくて、力強くなるために努力すればいい。
無知じゃなくて、賢くなるために学べばいい。
俺は…私は今日からヒガン・シンスなのだ。




