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リトラと夜の幻想曲  作者: 本居 素直
第一章 湖上の花園
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宝探し


「で、お前は此処に何しに来たんだ?」


「何か面白い話はないかと思ってね。俺、そういうのは自分の目で確かめないと気が済まない質なんだ」


「だったら観光案内所にでも行けば良いだろう」


「それじゃあ面白くないよ。あ、酸っぱい」


 皿に盛り付けられた酸っぱいりんごを齧りながら、彼は続ける。


「ここだけの話ってやつが知りたいんだ。たとえば、最近話題になってる伝説の具現化とかね」


「あぁ、あったな。どこかの村の泉に精霊が現れたとか何とか。すぐに消えちまったらしいが」


「金の斧は確かにあったみたいだけどね」


「その村に行ったのか?」


「うん、何の変哲もない穏やかな農村だったよ。もう精霊はいなかったし、金の斧は新居と牛数頭に変わってたけどね。村人みんなで分け合ったみたい」


「分け合った? いやまあ、後でバレて、村人全員に憎まれるよりはマシかもな。しかし、金の斧とはまたなんとも……」


「嘘くさい、だろ? でも、金の斧は村人全員が見たと言ってるんだ。ただ、泉の精とやらに会ったのは一人だけで、あまりのことに記憶が混乱してるって言ってたよ」


「まあ、そんなもんだろうなぁ」


 金の斧など持っていても役には立たないし、売り払って金にするのは当然の判断だ。農村の新居、牛数頭、その程度ならば、まだまだ金は残っているだろう。それはともかく、そこの村人全員が言うのなら、伝説の具現化、伝説の再来の噂は事実なのだろう。非常に嘘くさい話ではあるが。


「で、そっちは何かないの?」


「そう言われてもなあ……」


 面白い話か、と考えてはみるものの、それらしい話はない。彼が今知っていることと言えば、〈上〉に住んでいる金持ちがデカい宝石を手に入れただとか、その程度のものだった。すぐそこで目を輝かせている手癖の悪い子供が求めているのは、そういう〈旨い話〉ではないだろう。未知や不思議、冒険と発見、おそらくはそういう類のものだ。


 店主は何かないかと辺りの悪党を見渡すと、一人の女が目に留まった。少し日に焼けたような褐色の肌をした女で、ふわりと垂れた髪には美しい羽根飾りを付けてある。露出の多さが目を惹くが、妖艶というよりは若く健康的な美しさだった。引き締まった腕、豊かな胸、すっきりとした腹、そうやって視線を下げていくと、腰に差した針のような短剣が異彩を放っている。歳は二十かそこら、もしかするともっと若いかもしれない。どこからどう見ても美女であることには違いなかった。その怪しさを除けば。


「あの女は……あぁ、そうだ、思い出した。一つあるぞ、お前が興味を持ちそうな話が」


 その言葉に期待してぐっと身を乗り出した青年を見て、店主はにやりと口元を歪めた。


「昨晩、えらく取り乱した様子で女がやって来た。初めて見る顔だったよ。仲間とはぐれたか何かで、此処の連中に声をかけて回ってた。誰も相手にしなかったがな。そういうやり口かと思ったんだろうさ」


「それで、彼女は何て言ってたんだい?」


「湖に古城が現れたんだとさ。で、そこに入った仲間とはぐれた。助けたいから手を貸して欲しい。こんな風だったな。しかし、この辺りに湖があるなんて聞いたことがない。まあ、俺が知らないだけかもしれんがな」


「そんなに素敵な話があるなら、もっと早く言ってくれよ。と言うか、そんな話をよく忘れられるね? つい昨日のことなんでしょ?」


「大方、伝説を語って騙そうとしてるんだと思ってな。それ以上は気に留めなかったんだ。大体、あんな〈如何にも〉な怪しい女に付いて行く奴なんていやしない。お前みたいに素敵な話だなんて到底思えんよ」


「でも、その如何にもな彼女は今日も来てるんだろ? 二日続けて、悪党のなけなしの善意に期待してさ」


「どうやらそうみたいだな。そういう風に見せているのかも分からないが、今のところはまだ誰も釣られちゃいないようだ」


 喧々囂々たる悪党の社交場。その片隅で、その女は一人、青ざめた顔で座っている。その姿を認めた青年は財布を一つ置いて席を立った。


「ごちそうさま。楽しい話をありがとう」


「お、おい待て、名前は?」


「リトラ」


「よし、いいか、リトラ、良く聞け。俺ならあの女には関わらない。何が真実かなんて分からないが、あの女が〈違う〉のは雰囲気で分かる。何かとんでもない面倒事に巻き込まれるに決まってる」


「だから行くのさ!」


 店主の忠告は彼を喜ばせただけだった。欲しかった玩具を手に入れた子供のような、これ以上の幸せはないと信じている笑顔、これ以上は何を言っても届かないだろう。


(忠告はした。俺はもう知らん。ったく、あの小僧は一体何を考えてるんだ。何に巻き込まれるにしても、高い勉強代程度で済めば良いんだが……)


 知らんとは言いつつもリトラの身を案ずる店主であったが、当のリトラは胸を躍らせ、人ごみの間を縫うようにして件の女が座る席に向かったのだった。


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