満月
温泉宿の夜はまだ少し肌寒かった
佳奈は縁側に出て、ずっと景色を眺めていた
満月に照らされた桜が仄白く浮かび上がっている
幻想的で美しい光景は佳奈の心も身体を鎮めてくれた
凌
「佳奈?寒くないの?」
部屋の中からそれを見ていた凌が声をかけた
佳奈
「うん、大丈夫だよ…」
はぁ…小さくため息をつきながら
凌は立ちあがり…
縁側にいる佳奈を背中から抱きしめた
佳奈
「あったかい♡」
凌
「でしょ?佳奈、湯冷めするからそろそろ寝よう?」
佳奈
「…うん」
布団に入ると、昼間の疲れか
凌は「おやすみ♡」というなり
すぐに寝てしまった
佳奈
「……凌?もうねたの?
そっち、行っていい?」
凌
「………」
ほんとは…聞こえてるよね?
わかってる
疲れてるよね…
でも、それ以外にも…
理由があること、私わかってる…
。
。
。
ガチャっ
寝室のドアが開く音がして
佳奈は目を覚ました…
目からは涙がこぼれていた
(夢か………)
(懐かしい……遠い昔のよう)
凌
「佳奈…やっぱり今日、今話そう」
「ごめん…佳奈
あの女の人は…
取引先の人で…今一緒に仕事をしてる人だ…」
佳奈は横になったまま、凌の話を黙ってきいた
「…仕事の話をするうちに
仲良くなって…たまに飲みに行くようになった…」
佳奈
「取引先の飲み会って、その人だったんだね…」
凌
「ごめん…」
何度も重ねられる『ごめん』の言葉が
余計に佳奈の心を打ち付けた…
佳奈
「……で?何が言いたいの……」
凌はゆっくりと息を整え…
「離婚して欲しい…」
そう一言、つぶやいた…




