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第4話 アカデミー襲撃

その日は初夏の、天気の良い暑い月曜日だった。


どの学年も朝から座学の授業であったが、1階の第8学年の教室には、リヒトがいなかった。

「欠席の連絡もないんだけどなー。あいつ、珍しくサボりかー?」

ツキシマがぼやいた、その時。



8時50分。



どおん、と、突如耳をつんざくような衝撃音と、猛烈な爆風が校舎全体を大きく揺らした。


「!!??」


アカデミー施設内の複数箇所で、同時に大規模な爆発が起きた。


ツキシマはユキ達に校庭に避難するよう指示し、自身は上階の爆発音がした方に向かった。


そこには、目を疑う光景が広がっていた。


第1学年の教室が、まるまる吹き飛ばされて抉れている。

そして、第1学年の生徒3名全員が、血だらけで倒れていた。そのそばで、第1学年の女性の担任教員が、呆然と立ち尽くしている。


「一体、何が…」


その時。

校内放送から、聞き覚えのある声が響いた。



『アカデミーの皆さん。我々【ゼロ】に従ってください。我々と一緒に、能力者による理想郷を作りましょう。』



「…リヒ、ト…?」


ツキシマは直ちに、放送室に向かった。


『アザイ校長を、我々に差し出してください。そうすれば、これ以上危害は加えません。指示に従わない場合は、残念ながら犠牲者が増えます。』


ゲンドウは、校長室でこの放送を聞いていた。チッ、と舌打ちをする。

「薄汚れた、テロリスト風情が…」



アカデミー内は大混乱に陥った。

これまでアカデミーそのものがテロの標的になったことはなく、未曾有の事態だった。

ゲンドウは、ただちに全教職員に緊急事態指令を発出し、国家テロ対策チームにも緊急コールにて応援を要請した。

被害状況の把握、被害者の救済、テロリストの捕縛。

しかし、そもそもアカデミーにはこれまでテロ対策が講じられておらず、全てが後手に回った。



避難した生徒達は、校庭の一角に集められた。

ミカゲが各学年の点呼をとる。ミカゲに師事するヒーラーの生徒たちは、臨時の医療部隊を組んで負傷者対応にあたった。もちろん、ミオリも。


校庭で放送を聞いていたユキは、青ざめた。

「リヒト…どうして…」

ユキは放送室に向かおうとするが、タケルが制する。

「だめだ。ユキはここにいろ。」

そこへ、サトルがタケルに声をかける。

「タケル。校長が俺達をお呼びだ。来い。」

「おじさん…」

「放送室には、ツキシマとサカマキが向かってる。俺たちは【ゼロ】のリーダー格の捕獲に向かう。」


タケルはユキに「待ってて。すぐに戻るから。」と告げて、サトルと共に走り去った。


1人取り残されたユキは、改めて周囲を見渡す。

爆発は、校舎の他、教職員棟と体育館、守衛室、寮でも起きたようだった。ただ、時間的に人的被害が大きかったのは校舎だった。第1学年の生徒達が担ぎ出されて、医療部隊が即座に治療に当たる。皆、意識がない。ミオリが泣きそうになりながら、生徒に必死に呼びかける。


「……っ、」


ユキは、堪らず放送室に向かって駆け出した。

(リヒトは、私の言うことなら聞いてくれるかもしれない。

こんなこと、やめさせなきゃ…!)




「おい、リヒト!!いるんだろ、開けろ!!」

放送室には鍵がかかっており、ツキシマはドンドンと扉を叩きながら中に呼びかけた。

そこへサカマキも到着する。

「リヒト…何故だ?どうして、こんなことを…!」

サカマキは、この状況が信じられなかった。手塩にかけて育てた弟子が、テロ行為に加担するなんて。

「お前もしかして、催眠術とかかけられてるんじゃねーか?今ならまだ間に合う、とりあえず出て来い!」

いつも気怠そうにしているツキシマが、ここまで必死に呼びかけるのは初めてだった。


「僕は、正気ですよ。」


中から、リヒトが返事をする。


ガチャリ、と扉が開く。


中の光景を見て、ツキシマとサカマキは息を呑む。

第2学年の女子生徒が1人、口に粘着テープを貼られて声が出ない状態で、ロープで手足を縛り上げられてリヒトに抱えられていた。


「先生達、さっきの放送、聞いてました?校長を出して下さい。さらに被害を出したいんですか?」

「リヒト…その子を離せ…。一体、どうしちまったんだよ…。」

ツキシマがリヒトにじりじりと詰め寄る。ツキシマの能力はサイコメトリーで、リヒトに触れて記憶を読み取ろうと考えていた。

リヒトは逃げもせず、ツキシマに右手を差し出した。

ツキシマがその手を握り、記憶を読み取る。


と、その瞬間。


リヒトがツキシマを飲み込むようにオーラのドームを出現させ、ツキシマの体はドーム内部の爆発により手足が吹き飛ばされた。

あっという間の出来事だった。

リヒトと人質の生徒は、無傷だった。


「…リ…ヒト…」

右腕と左足が切断されたツキシマが、息も絶え絶えに喘ぐ。

ツキシマは、リヒトの記憶を読み取ることに成功していた。なぜリヒトが【ゼロ】に加担したのか、最期の瞬間に、ツキシマは理解した。


しかしそのことを伝えることもできないまま、ツキシマは息絶えた。



「…………っ…」

サカマキは、言葉が出ない。


「サカマキ先生が教えてくれたんですよね。シールド内で、ディフェンダーは神様になれる、って。」


じり、とリヒトがサカマキに近づく。


「『爆撃手(ボマー)』が、シールド内で爆発を起こす技を、一緒に考えてくれたんですよ。」


ボマーとは文字通り、オーラで爆弾を生成する能力者だ。

今のアカデミー内にはボマーはいない。…【ゼロ】の内部にボマーがいて、リヒトに手解きをしたということなのか?

一体いつの間に、リヒトはそんなに深く【ゼロ】に入れ込んでいたのか。確かに、最近少し様子がおかしかった…


「サカマキ先生、いいんですか?いまそのボマーが、アカデミーのどこに潜んでるか分かりませんよ。…校長は出てくる気が、ないんですね?」

「リヒト…頼む。もうやめてくれ…」

ふっ、とリヒトが冷笑する。

「ツキシマ先生、殺しちゃいましたから。もう、戻れないんですよ。」


その時。

どおん、と、先程と同じような爆発音が響き渡る。


「……っ!?」


サカマキは慌てて窓から外を覗く。

校庭で爆発が起きたらしい。避難していた生徒達が悲鳴を上げて、蜘蛛の子を散らすように逃げていくのが見える。


「あーあ、ボマーさん、気が短いからな。…ユキには手を出すなって言ってあるから、大丈夫だと思うけど。」

リヒトがぼそりと呟くのを、サカマキは聞き漏らさなかった。

「リヒト…ユキちゃんが悲しむぞ…。もうやめるんだ…!」

リヒトは首を振る。


「大丈夫。ユキは僕のこと、最後にはちゃんと分かってくれる。」


その時、右手に抱えていた女子生徒が、リヒトから逃れようともがく。目の前でツキシマが殺されて、パニックに陥っているようだった。

「リヒト!その子を離せ!」

リヒトは首を傾げる。

「先生、僕そろそろ仲間のところに行かないといけないので、そこどいてくれます?」

「行かせるか…っ!!」


はぁ、とリヒトはため息をつく。


「じゃ、こうしましょう。先生、僕のシールドの中に、入ってきてもらえますか?そしたら、僕を信頼していると信じて、シールド内でこの子を受け渡します。

…大丈夫ですよ、師と仰ぐサカマキ先生のことを、爆破したりしませんから。」


サカマキは躊躇した。普段の訓練の様子から、リヒトの制御領域をサカマキの制御領域で上書きすることはできそうだった。最悪の場合を想定して、いつでも力を発動できるように構えながら、ならば…


「…分かった。今、その子を受け取りに行く。」


サカマキは一歩ずつ前進して、リヒトのドームに入る。構えていたが、爆発は起きない。

リヒトがサカマキに、抱えていた女子生徒を引き渡す。サカマキは瞬時に、女子生徒をドームの外に放り投げた。

サカマキは、人質を救出できたら、どっちにしろリヒトの制御領域を破るつもりでいた。

が。

サカマキの術が、発動しない。

「……!?」

「先生。ひどいなぁ。騙し討ちですか?

でもオーラ、出せないでしょ。

僕ね、爆発だけじゃなくて、シールド内で他の能力者の力を封じ込めるっていう技も、身につけたんですよ。」

サカマキが目を剥く。嘘だろ…それが本当なら、リヒトの実力はサカマキをとうに凌駕している。普段の訓練では、わざと力を抑えていたのか。…


「さよなら…先生。」





爆風がおさまり、リヒトがふと目を上げると、ユキが呆然と立ち尽くしていた。

サカマキがリヒトに殺されるところを、目の当たりにしてしまったようだった。

ユキは、床に転がるツキシマとサカマキを見る。


「………っ」


恐怖で立っていられなくなったユキは、両手で口を押さえて、その場にしゃがみ込んだ。


「ユキ…」

リヒトがユキに近づく。

「…こ、ないで…っ!」

ユキは怯えた表情で、じりじりと後ずさった。

「怖がらないで…これはユキのためなんだ。ねぇ、一緒に行こう。」

ユキは首を横に振る。


ふっ、とリヒトが息を漏らす。

「そう、…でも、僕は行くよ。

もう、後には戻れない。」


リヒトはユキの頬に右手で触れた。


「だけどね、ユキ。


僕は絶対に、君をまた迎えに来る。


僕達の魂は、いつでも一緒にある。」



リヒトはユキの額にキスをして、一瞬微笑むと、

踵を返して、走り去って行った。



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