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第3話 闇堕ち

常に、頭の中の一部に、濃い霧がかかっていた。

訳も分からず孤児院の前に佇んでいた、あの日からずっと。

自分がどこで産まれて、どのようにこれまで育ってきたのか、何も思い出せない。

不安。心細さ。焦り。

心の中は、負の感情で埋め尽くされそうだった。


そんな時に、ユキに出会った。


ユキは、リヒトに対して、いつも屈託のない笑顔を向けた。

抜けているところもあって、隙の多いユキは、学校ではいじめっこの恰好の標的だった。

それなのに一方で、ユキは時折信じられない程強い意志を見せることがった。

リヒトがいじめの対象になったり、孤児院を馬鹿にするような発言をされた時、

ユキは躊躇うことなく、きっぱりと立ち向かって、抗議した。

その後に自身が不利に追い込まれることが分かっていても、ユキはまっすぐ自分の正義を貫いた。

(馬鹿なやつだ)

リヒトはそう思いながらも、危なっかしいユキから、目を離せなかった。


例えるなら、ユキはしみ一つない、真っ白な眩しいシーツのようだった。

誰かを陥れたり、騙したりすることがない。反対は、よくあるけど。

拠り所のないリヒトに、いつも正しい道を示してくれる存在。


いつしかユキへの信頼は憧れに変わり、ほどなく恋慕に変わっていった。



ゲンドウがユキとリヒトをスカウトしに孤児院に来た時、リヒトは嫌な予感がした。

ゲンドウはユキを、エンハンサーという非常に珍しい能力の持ち主だと言った。

正直、ユキをうさんくさいアカデミーなんかに行かせたくなかった。それが無理ならせめて、自分が一緒に行って、ユキを守らなければ。

リヒトは固く決意した。この先ユキの笑顔を奪う者から、絶対にユキを守り続けると。



アカデミーは、リヒトが想像していたよりは悪くない環境だった。

少なくとも、もともと2人が通っていた学校のように、素行の悪い上級生がしょっちゅうちょっかいを出してくる、というようなことはなかった。

リヒトは自身に不思議な力があることは薄々自覚していたが、アカデミーに来て初めて、その実態が理解できるようになった。個人指導教官のサカマキは温厚な教師で、何も知らないリヒトに1から丁寧に手ほどきをした。リヒトはもともと頭の回転も速く、砂漠に水が吸い込まれていくかのように、サカマキの教えを次々と吸収していった。


しかし、リヒトには気に入らないことがあった。同学年の、タケルの存在だ。

将来を嘱望されたエリートで、首席アタッカーという理由で、ユキとしょっちゅう合同訓練を行っている。そして訓練の後、いつもユキは医務室で休まなければならないほど、疲弊させられていた。

(ユキは、お前を強くするための道具じゃない。)

リヒトは苛立った。


寮が完全に男女別なのと、個人訓練も別々だったので、リヒトがユキと話せるのは週2日の座学の授業の時だけだった。孤児院にいた時よりも、距離ができてしまったように感じた。

しかしユキの方はリヒトとの接触が少なくなっても気にしていないらしく、ミオリやタケルと楽しそうに話している姿を見かけると、リヒトの胸はざわついた。



*****

防御者(ディフェンダー)っていう呼び名は、あくまで便宜上のものなんだよ。」

ある日の訓練で、サカマキはリヒトに言った。

「ディフェンダーの能力の本質は、『自分の周囲の空間に、自分の”制御領域”を作り出す』ってことなんだ。」

「…制御、領域?」

「そう。例えば、リヒトが防御シールドを発動すると、外からの攻撃を跳ね返すよね。あれは、そのシールド内に防御の”制御領域”を作り出しているんだ。制御領域の最もオーソドックスな使い方が防御シールドだから、ディフェンダーって呼ばれてるんだけど…実は制御領域内では、防御だけではなく攻撃もできる。潜在的には、攻撃者(アタッカー)でもあるんだ。」

リヒトは、首を傾げた。

「言葉で説明しても、難しいかな…。ちょっと見てて。」

サカマキは橙色のオーラを放出させ、自身の周囲3m程にドーム状のシールドを張った。

「リヒト。この中に、入ってきてごらん。」

サカマキに言われて、リヒトがシールド内に足を踏み入れる。

と、

ドーム内に突然何本ものくないが出現し、リヒトめがけて次々と飛んできた。

リヒトは咄嗟にシールドから脱出する。

「分かった?シールドの中の人を守るだけじゃなくて、攻撃することもできるってこと。

ただし難点は、敵が自分にある程度近くないと、攻撃できない点だ。そういう訳で、攻撃のパターンは通常のアタッカーよりは制限される。ただし…」


「敵が複数人いる場合は、同時に攻撃できるメリットがある。」


リヒトが先回りして言った。

「さっすがリヒト、冴えてるね。その通り。」

サカマキはにっこりした。


「よく訓練すれば、シールド内でディフェンダーは神様になれる。防御でも、攻撃でも。」



*****

ユキとタケルがつき合い始めた、と聞いた時、リヒトは自分の気持ちを胸の中に閉じ込めて、固く鍵をかけることにした。

タケルがユキを道具扱いしている訳ではないことは、タケルの態度からすぐに分かった。ユキをとても大切にしていることも。

そしてユキの方も、タケルを優しいまなざしで見つめていることが、よくあった。リヒトには一度も向けてくれたことがないような、熱い視線で。


(ユキが幸せなら、それでいい。)


リヒトは自分に言い聞かせた。

ただし、もしタケルがユキを泣かせるようなことがあれば…その時は容赦しない。

これからも、ユキを守り続けるのは変わらない。


リヒトが、ユキに限界を超えてブーストを強制した上級生をボコボコにした事件は、アカデミー中の生徒にあっという間に広まった。もともと親しい友人がいなかったリヒトだが、この事件をきっかけに、さらに周囲から距離を置かれるようになった。



リヒトは、アカデミーの中で、徐々に孤立を深めていった。



*****

それは、第8学年に進級したばかりの頃だった。

リヒトのもとに、差出人のない1通の封書が届いた。


『あなたの出自について知っている者です。一度お会いして、お話したい。』


リヒトは戸惑った。


自分の出自について?


リヒトは好奇心に抗えず、指定された日時に指定された場所へ行った。

そこで待っていた男の運転する車に乗り、さらに別の場所へ移動する。

見知らぬ男についていくなど、普通に考えれば無謀すぎる危険な行動だが、この頃にはリヒトの実力はサカマキに匹敵する程に成長しており、多少のことであれば何とかなると考えていた。


車が停車した場所は、廃墟ビルの前だった。

促されて、地下への階段を降りる。周囲の老朽化した施設からは場違いな最新システムのセキュリティを抜けた先に、黒い上下のスウェットを着てサングラスをかけた男が、足を組んで座っていた。歳は、30代くらいだろうか。長髪を無造作に、後ろで束ねている。


「リヒトくん、だね?」


「…あんたは、誰なんだ。」

警戒しながらリヒトが尋ねると、くっくっ、と男が笑う。

「いいねぇ。猫が毛を逆立てているみたいだ。

私はカナモト。反乱組織【ゼロ】のリーダーだよ。」

「…【ゼロ】?」

「リヒトくん。私達はアカデミー内部にも情報網を持っていてね。君が訓練に励んで、どんどん強くなっていく様子を、ずっと見守ってきたんだ。…頑張ったね。」


思いもよらない言葉に、リヒトはたじろぐ。


「…何なんだ、あんたたちは…」


カナモトは目を細めた。

「リヒトくん。あの孤児院に預けられる前の記憶で、何か覚えていることはあるかな?」

「…ない。何も、覚えていない。」

「そうか。やっぱり、私の術は完璧過ぎたな。」

「……何だと?」


「君の記憶を隠蔽したのは、私なんだよ。」


リヒトは耳を疑った。この男が、僕の記憶を隠蔽した?

なぜ。どうやって。なんのために。疑問が次から次へと湧き上がってくる。


「戸惑っているようだね。…ねぇリヒトくん、君が望むなら、記憶をそっくりそのまま戻すこともできるんだよ。」

カナモトが、コツ、コツ、と一歩ずつリヒトに近づいてくる。


「…嘘だ。そんな術、聞いたことがない。」

「そう。じゃあ、百聞は一見に如かず、だね。」

カナモトはリヒトの目をじっと見つめながら、右手を頭の上に載せる。


と。


「………っ!!?」


ぶわ、と一気に、思念の洪水がリヒトの頭の中に雪崩れ込んできた。


「……っ、ぐ……!」


頭が割れるように痛い。眩暈がして、立っていられなくなる。

情報量が多すぎて、脳内で処理しきれなかったリヒトは、そのまま意識を失った。



目を覚ました時、リヒトは孤児院に預けられるまでの記憶を、鮮明に取り戻していた。

幼少期ずっと暮らしていた地下アジトの、うす暗くて埃っぽい部屋。

今は、ありありと思い出すことができる。



昔話をしようか、と、独り言のようにカナモトは呟いた。



リヒトの父親は、もともとはアカデミー出身の特殊公務員だった。

父親の能力は予知能力の一種だったが、その対象が爆弾や地雷の位置の把握に限られており、その代わりその精度はほぼ100%であった。したがって、他国の戦場に派遣されて爆弾や地雷処理班として働くことも多かった。

ある時、当時のニホン国と同盟関係にある国の要請を受けて、リヒトの父親は戦場の地雷処理班として派遣された。そこで、1人の女性に出会った。

敵国の反政府組織に属する、20歳そこそこの女性だった。小麦色の肌と、赤みがかった髪の毛。きらきらと光る、琥珀色の瞳。戦争孤児だった彼女は、生きていくために反政府運動に身を投じていた。

緊迫する戦地で、ふとしたきっかけで出会った2人は、運命の糸に絡めとられるが如く、恋に落ちた。

リヒトの父親は、あらゆる手を尽くして(少しばかり強引な手も使った)、愛する女性を自分の国に亡命させることに成功した。リヒトの母親は事実上、母国の反政府組織からは除名となり、2人は身を潜めるように一緒に暮らし始めた。ささやかな暮らしだったが、2人は十分幸せであった。


しかし、国の中枢は、リヒトの父親の動きを全て把握していた。


リヒトの父親の能力は比較的珍しい類で、実際重宝されていた。能力そのものが役に立ったのはもちろんのこと、国家間の外交や取引の手段としても、利用価値が高かった。

しかし一方で、当時の国家中枢の幹部達は、不穏な動きを見せる特殊国家公務員をなんの躊躇いもなく”粛清”した。能力は諸刃の剣で、役に立つ能力ほど、敵側に寝返った際に打撃が大きい。

リヒトの父親も例外ではなかった。


敵国のスパイをニホン国に亡命させた罪で、リヒトの父親は事前の通知もなく弁明の余地も与えられず、ある日突然職務中に拘束され、そのまま”粛清部隊”に抹殺された。

あっという間のできごとで、同僚もなぜリヒトの父親が突然消えたのか、誰も知らなかった。彼らには後日、リヒトの父親は体調不良でしばらく仕事を休んで休養することになった、とだけ伝えられた。



「……粛清、部隊?」

「リヒトくんは知らないだろうね。この国はこれまで、能力者を簡単に”使い捨て“してきたんだよ。情報秘匿の名目の下、非能力者のように裁判を受ける権利も与えられていない。当然、アカデミーで習う歴史の教科書には、そんなこと記されていないけどね。

今は以前よりは”彼ら”が直接手を下す場面は少なくなった。だけど今でも、危険と見なされた能力者は、()()()()()()()が秘密裏に処理している。」

「アザイ家…」

「そう。君のご学友様のお家だよ。」

タケルだ。

「それで…どうなったの。」

カナモトはニヤッと笑みを浮かべて、話を続けた。


「君の父親が一緒に暮らしていた女性も、もちろん粛清対象だった。

ただ、その女性は部隊に捉えられる前に、この国の反政府組織に助け出されていた。

それがここ、【ゼロ】だ。」

「…【ゼロ】…」

「その時既に、その女性のお腹には君が宿っていた。【ゼロ】のアジトに身を隠しながら、君を出産したんだ。

私は君の母親とは年齢が近くて、よく話をしたんだけどね。愛する男を殺された恨みの炎を、常にぐつぐつと燃やしていた。

やがて、全てに絶望したんだろうね。赤ん坊の君をおいて、自死した。」


「……っ、」


「私は、独りぼっちになった君の、父親代わりのような存在だったんだよ。当時はまだリーダー補佐だったけど、君の衣食住の世話もした。それで気づいたんだ。君は”能力者”だって。それも、あいつらにとって利用価値の高い、ディフェンダー。

…そこで、私はある作戦を思いついたんだ。」

「…それが、僕をアカデミーに送り込むことだったのか。」

カナモトはニコリと笑う。

「察しがいいね。さすがだ。記憶を残しておくと、あいつらが警戒するだろうと思ってね。実際、何の警戒もされずに、君はアカデミーに編入できた。」

カナモトは息を継ぐ。

「リヒトくん。【ゼロ】は歴史ある反政府組織で、この国の歴史の裏では何度も国家転覆を狙ってきた。我々の究極の目標は、『能力者による国家統治』だ。なぜ力を持たない非能力者の連中が、力を持つ有能な能力者をコマのように扱い、搾取し、うまい汁を吸うのか。君の父親のように、文字通り使い捨てにされる者までいる。…私は、あいつらの傲慢さが、許せないんだよ。」

「……」

リヒトは、声が出ない。

「ただ、我々の組織には今、内通者が足りてなくてね。君には、アカデミー内部の状況を、君が知らないうちに我々に伝えてもらっていたんだ。君は、とてもとても役に立ったよ。」

「…ふざけんな…そんなの、僕には関係ない…っ!」

リヒトが絞り出すように叫んだ。

カナモトは、慈愛に満ちた表情でリヒトを眺める。


「リヒトくん。君には、大切な人がいるね。…孤児院からずっと一緒の、貴重な貴重なエンハンサーのガールフレンド。」


リヒトがはっと顔を上げて、カナモトを睨んだ。カナモトは手を振る。

「ああ、違う違う。彼女をどうにかしようなんて、思ってないよ。

…ただ、彼女、アザイ家の次期当主と、仲がいいんだって?

さっきも言ったけど、アザイ家の人間っていうのは、基本的に信用してはならない。しかも彼女は、国家間のバランスを崩しうる、危うい存在だ。

…ちょっとしたきっかけで、君の大切な彼女は、彼に切り捨てられる可能性がある。」


リヒトの表情が急速に青ざめていくのを、カナモトは見逃さない。


「ねぇ。許せないよね。君のお父さんみたいに、ユキちゃんも粛清されることになったら。何も悪いことしてないのに。どんな酷い目に合わされるか、想像しただけで腸が煮えくり返る。…だから、私達と一緒に、彼女を守ろうよ。君にしかできない。」


リヒトは言葉を失った。カナモトが机の引き出しから何かを取り出して、リヒトに手渡す。


「これは、君が持っているべき物だから、渡しておこう。

君のお父さんの手記と、君のお母さんの、遺書だ。」



*****

組織の人間の運転する車でアカデミーまで送られたリヒトだが、カナモトの話が衝撃過ぎて、帰路の記憶がほとんどなかった。

あまりにも多すぎる情報量を、整理する必要があった。


自分は、自分でも知らないうちに、スパイとしてアカデミーに潜入させられていた。

自分の父親は、当局によって粛清された。

母親は絶望して、自分をおいて自死した。

…そしてタケルが、いつかユキを、同じ目に合わせるかもしれない。


その日の深夜。寮の自室で、同室の先輩の寝息を聞きながら、リヒトは父親の手記と母親の遺書を読んだ。

父親の手記には、母親と出会い、2人の幸せだった日々、母親の妊娠が分かった時の喜び、これからの生活に胸を膨らませている様子が、ありありと記録されていた。しかしその手記は、ある日突然途絶えていた。

母親の遺書は、とても短かった。それは、母国語ではない言語を、一生懸命学んだのであろう、たどたどしい筆跡だった。


『あのひとを、ころしたやつらを、ぜったいに、ゆるさない。』


母親の、悲痛な叫びが聞こえてくるようだった。


リヒトは、一晩中、穴が開く程その文字を見つめ続けた。



翌日、教室でリヒトの目の下の隈を目ざとく見つけたミオリが、声をかけてきた。

「リヒト、大丈夫?なんか、具合悪そう…」

「…大丈夫。」

ぶっきらぼうに突っぱねるリヒトに、ミオリはそれ以上話しかけられなかった。

そこへ、ユキとタケルが一緒に入ってきた。

「あ、ユキ、タケル、おっはよー」

「おはよ、ミオリ。」

ユキが挨拶を返して、リヒトの隣の席に着く。

にっこりとリヒトに笑いかける。

「リヒトも、おはよ。」

「………」

リヒトは、カナモトの言葉を思い出す。


『ちょっとしたきっかけで、君の大切な彼女は、彼に切り捨てられる可能性がある。』


まさか。そんなはずはない。

タケルはユキのことを、傍目にも分かる程、とても大切にしている。


『アザイ家の人間っていうのは、基本的に信用してはならない。』


リヒトは、ゲンドウ校長の顔を思い浮かべた。

人当たりが良さそうに見せて、腹の中ではぐつぐつと黒い感情を燻ぶらせていることに、リヒトは気づいていた。


リヒトはタケルの横顔を見た。

タケルも、いつか校長のようになるのかもしれない。

そしたら…


「リヒト?どうしたの?」

ユキがリヒトの顔を、心配そうに覗き込む。

リヒトは首を振る。

「いや…何でもない。」



カナモトの話を、リヒトは誰にも打ち明けることができなかった。



その日から、リヒトは毎晩、悪夢を見るようになった。

夢の中で、決まってタケルが、ユキを惨殺する。惨殺の手段は、毎回違った。刃物でめった刺しにする時もあれば、絞首の時もあった。

リヒトはただその光景を見つめるだけで、声が出ない。ユキを助けることができない。

はっと飛び起きると、いつも全身汗でびっしょりだった。


リヒトの目の下の隈は、連日の寝不足でどんどん濃くなっていき、徐々に現実と虚構の区別が曖昧になっていった。

いつも顔色が悪いリヒトをユキとミオリが心配するが、リヒトは何も答えない。

見かねたツキシマとサカマキも声をかけるが、何を聞いても取りつく島もなく、2人で顔を見合わせて肩をすくめた。



*****

「リヒトくん。」

ある日、訓練が終わってリヒトが寮に帰ろうとしていたところ、背後から声をかけられた。

カナモトだった。

「あんた…何でここに…。」

ふっ、とカナモトが冷笑を浮かべる。

「ちょっと、下見にね。それと、リヒトくんの返事も聞きたかったし。」

「返事…」

「私達の理念に、賛同してくれるね?」

リヒトは、答えられなかった。

「すぐに拒否しないんだね。…もう、君の中で、答えは出ているんだろう。」

「……僕は……」

「ね、君には、君のお父さんとお母さんの血が流れているんだよ。君の顔を見る前に無残に殺された君のお父さんの無念と、君のお母さんの絶望。…そしてまた、君の大切な人が奪われようとしているんだ。何を迷う必要が?」


毎晩毎晩、繰り返し見せつけられる、タケルがユキを惨殺するシーン。

リヒトは、もう何が現実か、分からなくなっていた。


「リヒトくん。私達は、君を【ゼロ】の幹部候補に迎えたいんだ。…君の力で、能力者達による、理想の世界を作ろう。大切な、ユキさんのためにも。」



カナモトがリヒトに手を延ばす。




リヒトは、何かに取り憑かれるように、その手を取った。



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