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第19話 あなたと、生きていくために

ハルオミは、ハッと目を覚ました。


「…タケル、くん…」


時計を見る。朝5時だ。

ユキはまだ、寝てるだろう。


でも、今すぐに行かせなければ…


ハルオミは急いでベッドを抜け出して、ユキの家へ向かった。



ハルオミの能力は、予知能力だった。

ただし、予知のコントロールはほぼ不可能で、何の脈絡も前触れもなく突然、予知夢を見る。


最近ではほとんど、予知夢を見ることはなかった。

だけど、だけど今、見た夢は。まさか。

不吉な予感に、ハルオミの胸が高鳴る。



ドンドンと、ユキの家のドアを叩く。

夜明け前の突然のハルオミの来訪に、ユキは驚いてドアを開ける。

「ハルオミ、さん?どうしたんですか…?」

「ユキさん、落ち着いて聞いて。…タケルくんが、危ない、かもしれない。予知夢で、見たんだ。」

「……!!」

「今すぐ、車に乗って。…サチちゃんも一緒に。」

ユキがサチを起こしに行っている間に、ハルオミはタケルに電話をかけた。しかし、コール音が鳴り続けるばかりで、留守電にもつながらない。


ハルオミは、自分の予知夢が外れることを、心から祈った。




*****

重症を負ったタケルが運び込まれたのは、能力者専門の高度医療機関だった。

通常の医療介入だけでは救命不可と判断されて、直ちに治癒者(ヒーラー)部隊が招集された。ミカゲとミオリも駆けつけた。


救急外来で、変わり果てたタケルの姿に、ミオリは絶句する。


「タケ、ル…!?うそでしょ、だめだよ、っ」


血圧が低い。脈拍がどんどん、弱まっていく。

アラーム音が鳴り止まない。


「ねぇ、タケルッ!!ユキを、迎えにいくんでしょ…!?しんじゃ、だめだよ!!!」

「ミオリ!!集中しなさい!!!」

ミカゲが、珍しく声を荒げる。


「…内臓の損傷が激しい。体内で出血が続いてるんだわ。」


ミカゲは何とか出血点を探ろうと意識を研ぎ澄ませるが、出血部位が多過ぎて、治癒が追いつかない。


「輸血を、もっと入れて!!点滴ももう1本!!

ミオリ!あなたは脾静脈の損傷を!私は肝臓の破裂部位を塞ぐから…っ、」


その時。




ピーーーーー




心電図モニターが、心停止を告げた。




一瞬息を呑んだ後、直ちに医療チームによる胸骨圧迫が開始される。


「タケル!!ねぇ、だめだってっ!!!何やってんの、ばか!!!戻ってきてよっ!!!」


ミオリは呼びかけながら治癒を続けるが、

体内の損傷部位の治癒には、莫大なエネルギーを要する。

ミオリはおろか、ミカゲも、力の限界が近づいていた。



もう、助からないかもしれない。

誰もがそう思い始めた、その時。




「タケル?」




ミオリが振り向くと、ユキが立っていた。



「……!!!ユ、キ…っ、」


ミオリは、涙でぐしゃぐしゃになりながら叫んだ。


「ごめん、なさい。…っ、私の力が、足りなくて、

…タケルを、助けられない……!!」



ユキが、そっとミオリとミカゲの後ろに近づき、タケルを覗き込む。



(ああ、タケル。頑張ったんだね。……)




大丈夫。

あなたのことは、私が絶対に助ける。

だって、約束したでしょう。

迎えに、来てくれるって。



だから、今度は私が、頑張る番。




ユキは、左手の薬指から指輪を抜いた。

指輪が音を立てて、床に転がる。




ミオリとミカゲは、目を見開いてユキを見る。




「先生、ミオリ。

私の力を、全部あげるから。

…タケルを助けて。」




ユキが、ミオリとミカゲの背中に触れる。

途端に、2人のオーラが増幅する。




2人同時のブーストは、初めてだった。

当然、エネルギーの消耗も激しい。

ユキは意識を失いそうになりながら、何とか耐え続けた。




私の、ありったけを、あなたに。

あなたと、生きていくために。




4分、5分、6分、…

ブースト時間はとっくに限界を超えている。



意識が遠のきそうになるたびに、ユキはタケルとの思い出を呼び起こした。


ユキにまっすぐ向ける、優しい眼差し。

少し照れたような、はにかんだ笑顔。

タケルにもらった、たくさんの愛。


いま、私が意識を手放したら、もう2度とあの笑顔に会えなくなる。


ユキは自らを奮い立たせて、執念で意識を保ち続けた。






そして。







ピッ…、ピッ…、ピッ…






タケルの心臓が、もう一度動き出す音を聞いて、






ユキはとうとう、意識を手放した。




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