第二夜
また夢の幕間のひとときです。貴方は昨夜のことを夢日記に付けましたね。ほんの一文ですけど。『言葉だけの変な夢を見た気がする』ですか。憶えているとは意外でした。ほとんど独り語りのつもりだったんですけどね。というか貴方の意識下に話し掛けているつもりでした。
ところで昨日も外出しませんでしたね。そろそろ買い置きの食べ物だけでは、栄養不足になりますよ。運動不足にもなってます。もう身体のあちこちの細胞から、注意信号が届いているんですよ。何だか貴方はこの身体を、わざと衰弱させているみたいだ。言葉として構成されるかされない微妙な意識下にある考えまでは、ここには届かないので解りませんが。
昼なのに部屋を真っ暗にして、瞑想にふけってる場合ではないです。感覚を遮断する実験って考えていますが、その程度ではとても遮断したことにはならないでしょう。五感を完全にシャットダウンさせなければ。人為的に作り出すのは、不可能ではありませんが非常にむずかしいです。そもそも肉体の感覚を一時的に捨て去ったとして、どうするつもりですか。意識だけになって、ふわふわと空中に浮いて、どこに逃げて行ったか分からない奥さんでも追い掛けるんですかね。
まじめに考えましょうよ。これからのことを。
貴方は、この身体の行動を決定する存在なんですよ。貴方がこうしようと決めた事は、おおむね従います。それも全力で。今までだって、たとえばひどい二日酔いの朝。アルコール漬けになって、まだ休息したがっている諸々の器官に強烈な命令をここから出して、会社に出勤したじゃありませんか。
無謀なマラソン大会に参加した時もそう。三十キロを超えたあたりから限界を超えている四肢の筋肉をむりやり動かし、苦痛で気絶しかけているところを、ここで特別に生成した麻薬で貴方を浮かれさせてサポートをし、何とかゴールまで導いたんですよ。
忠実とまでは云わないけれど、まあまあ良くできたしもべだと思いませんか。
正確には数えられませんが、六十兆個とも云われている身体細胞はみんな生きていて、同居しているんです。一個一個与えられた場所で力を尽くして、この身体を支えています。貴方には、この細胞たちの努力に報いる責任が有るんですよ。
……今夜は、このぐらいにしておきますか。ではまた夢をどうぞ。懐かしい故郷の空を飛んでる内容にでもしますかね。




