第一夜
これは夢の幕間のひとときです。夜明け近くの絢爛たる夢の前に、言葉だけでできた殺風景な代物を、貴方にお届けしようというわけです。
どうして突然、そんな気になったか。貴方は最近、夢に関わり過ぎているからです。夢日記なるものをつけ始めたようですが、やめといた方がいいです。まあ、あまりうまくは行ってないようですが。疲れるでしょう。眠っている間も緊張していないと書けないわけですから。ストレスもあるでしょう。買ったばかりの革製のノートが、もどかしさで早くもくしゃくしゃになってますよね。
まあ夢は、その日に起きた出来事を整理しているとよく云われているようですが、そんなもんじゃないです。結果的には、そうなるかもしれませんが、それが目的じゃあない。そんなたいしたものでは、ありませんから。夢を記録して何かに役立てようなんて、くだらないですよ。
その話はさておき、貴方はここのところずっと部屋に引きこもってばかりですね。良くないです。刺激が少な過ぎます。整理しなければならないその日の出来事なんて無いに等しいじゃありませんか。
……散歩にでも出掛けてみてはいかがでしょう。うんざりした強い陽射しはとうに去り、遊歩道に金木犀のやわらかな香りが漂っているころです。心地よい風に吹かれれば気分が変わるかも知れません。夢の材料として欲しいところなのですよ。この季節の景観は。
ひょっとして、他人の目が気になりますか。だいじょうぶ。貴方に注目している人は、おそらくいません。あの悲しい出来事があって、この夏に失職した、今や無精ひげだらけの、しょぼくれたおじさんなんて、どっちかというと避けて通りたいくらいですから。それについ先ごろ、このアパートに引っ越ししてきたばかりですし。そんなに人の目には触れてないでしょう。
とりあえず、これで失礼しますか。では今夜最後の夢をどうぞ。貴方の外出を促すために、豚バラの串焼きが旨い、駅前のアーケードの居酒屋にでも行く内容にしますか。話の始まりは。




