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7/13

無人港クレーンと荷札のない積荷

砂海の向こうに見えていた海は、近づくほど海じゃなくなった。


水はない。

あるのは、干上がった海底みたいにひび割れた大地と、その上へ無数の鉄骨を突き立てた巨大クレーン群だけだ。


岸壁は残っている。

係留柱も、照明塔も、コンテナヤードも残っている。

なのに肝心の海だけが消え、港そのものが空を相手に荷役を続けている。


「景色はかなり好きだな」

俺が言うと、ユウトは即座に返した。


「感想がずれてる」

「神ゲーの表側じゃまず見ないからな」

「そこは同意するけどよ」


砂海城門を越えた先、半ば埋もれた検問所のゲートが一つだけ生きていた。

現行世界のものじゃない。

黄色い警告灯と、古いバーコード読取機が付いた、工業用の無骨な入場ゲート。


《残響知覚》を重ねると、そこに別の文字が浮かぶ。


第六バース搬入口。


「港湾系か」

「また知ってるゲームか?」

「知ってる。《ドライドック・ナイトシフター》」

「名前の時点でもう嫌だな」

「夜間の無人港で荷役するゲームだ」

「説明だけなら地味だな」

「実際も地味だった。そのかわり物理演算が最悪だった」

「お前が好きそう」


正解だ。


《ドライドック・ナイトシフター》は、夜の港でコンテナを仕分けし、クレーンや搬送ラインを使って出港便へ積み込むVR作業ゲーだった。

売りは“本格的な荷役体験”。

現実は“本格的に壊れた荷役体験”だ。


吊り荷の慣性がカメラ視点で変わる。

ラベル判定がテクスチャではなく別フラグで存在する。

搬送ラインの予約と実際のコンテナ位置がたびたび食い違う。

配信映えはしないが、検証し始めると底なしに面白いタイプのクソゲーだった。


ゲート脇の読取機へ、《帰還印の門票》をかざす。


ピッ、と乾いた音。


直後、視界の中央に青い表示が走った。


――――

Port Authority Check

Authorized Returnee [NAGI]

仮入港パスを発行します

――――


「またそれだ」

ユウトの顔が露骨に曇る。

「Authorized Returneeって、全然いい響きじゃねえぞ」

「知ってる」

「最近お前、“知ってる”の質が悪くなってないか」

「もともとだろ」

「否定しろよ」


ゲートが開く。

その瞬間、港全体が低く唸った。


ガントリークレーンが、ぎぎ、と重い音を立てて動き出す。

誰も乗っていない操作室。

誰もいないコンテナヤード。

なのに搬送だけが続いている。


まるで、プレイヤーも作業員も消えた後の港が、それでも業務だけをやめられずに回り続けているみたいだった。


ノアが小さく言う。


「ここ、箱ばっかりなのに、息がある」

「荷物の気配か?」

「うん。あと、人も少し」

「先客か」

「近いよ」


俺はすぐに《偏光ゴーグル》を下ろした。


世界の色が変わる。

熱の残る場所が淡く橙に、冷えた鉄骨が青に、残響の濃い箇所が緑に見える。


コンテナヤードの上を渡る高いキャットウォーク。

その手すりに、一列の橙色が残っていた。


指跡だ。


しかも新しい。

風と砂に晒されているのに、まだ完全に消えていない。


「いたな」


手すりの途中で、その痕はふっと途切れていた。

普通に考えれば、そこで落ちたようにしか見えない。


だが、途切れた先を見上げて、すぐに分かった。


上を走るクレーンの吊具位置合わせ用レーザー。

細い赤線が、キャットウォークの切れ目を横切っている。


「あれか」

「何が見えてる」

「足場だ」

「絶対違うだろ」


違わない。

《ドライドック・ナイトシフター》には有名なバグがある。

吊具の位置合わせ用レーザーだけ、なぜか細い足場判定を持っているのだ。

もちろん見た目はただの赤線。

でも内部的には、吊具の移動ルートを示す“仮設レール”扱いだった。


初見で使えるわけがない。

使えるのは、知ってるやつだけだ。


「先客、ここ渡ってる」

「お前と同じことしてるってことか」

「ああ。趣味が悪い」

「鏡見て言え」


俺はキャットウォークの縁へ立つ。

タイミングを見る。

レーザーが寄る。

吊具の警告ブザーが鳴る前、一瞬だけ足場判定が広がる。


「今」


足を出す。

何もない空中へ踏み込んだはずなのに、靴底が細い硬さを拾った。

そのまま二歩、三歩。

赤線の上を滑るように渡り、向こう側の操作室前へ着地する。


「……行けるのかよ」

ユウトが本気で引いている。

「理解したくないけど、行けるんだな」

「来い」

「嫌だ」

「でも来るだろ」

「くそっ、分かってるよ!」


文句を言いながらも、ユウトは来た。

盾を背負い直し、俺の足運びを見て、赤線の上へ踏み出す。

一瞬ぐらついたが、体幹が強いからそのまま渡り切る。

ノアは当然みたいに俺のすぐ横へ並んだ。


操作室の扉は半開きだった。

そこにも新しい擦れ跡がある。

先客はここまで来ている。


中へ入る。

薄暗い操作室の中で、死んだはずのモニターが一台だけ白く明滅していた。

机の上には、薄い磁気カードリーダーみたいな端末が置かれている。

その表面に、青い残響が縁取られていた。


――――

欠損資産《荷役主任の磁気タグ》を発見しました

――――


「早いな」

「たぶん先客もこれを見つけてる」

「持っていかなかったのか?」

「持っていけなかったか、持たなかったか」


俺は磁気タグを拾う。

手のひらサイズの薄い黒板みたいな端末だった。

端を持つと、すぐに操作室のメインモニターがぶるっと震える。


赤いウィンドウが展開した。


――――

Residual Access Confirmed

旧式資産ドライドック・ナイトシフターへの部分接続を開始します


残響イベントを検知しました

《夜間荷役の最終便》


概要:

無人化した第六バースで、荷札を失った正規積荷を識別し、出港便へ積み込め


達成条件:

正規積荷を3基識別する

第六バースの出港枠へ積載する


追加条件:

欠損資産《荷役主任の磁気タグ》を取得せよ

無登録積荷の出港を許すな

――――


「港らしいな」

「やることは明快だな」

ユウトが言う。

「荷物を間違えるな、ってことだろ」

「そう見えるなら、まだ優しい方だ」


俺はモニターの下へ視線を落とした。


古い感熱プリンターが付いている。

その排出口に、紙片が半分だけ引っかかったまま止まっていた。

しかも印字がまだ消えきっていない。


消える前に《凍結保存》をかける。

紙とインクの劣化が青い粒子の中で止まった。


引き抜いて読む。


――――

送信失敗メモ


六つ目で港は行先を印字する

自分をスキャナに通すな

通したら、最後の一枚は向こうから取りに来る

――――


「……またか」

ユウトが低く言う。

「完全に、お前みたいな後続向けじゃねえか」

「ああ」

「先客、ここで止まったのか」

「たぶん、この表示を見てな」


その時だった。


港全体に、耳障りな金属音が響く。

操作室の外、コンテナヤードのあちこちで火花みたいなものが散り、コンテナの側面に印字されていた識別番号が次々と掻き消えていく。


「おい」

ユウトが窓の外を指差す。

「なんか変なのいるぞ」


見た。


吊具レールの上を、黒い何かが這っている。

形はクレーンのスプレッダーに似ていた。

コンテナを掴むための四隅の爪を持つ、横長の機構。

だがその中央には、複数の刻印ヘッドみたいな歯が並び、通り過ぎるたびにラベルを削っている。


――――

ERROR ENEMY

《ラベルスクレイパー》

Lv:???

分類:荷札管理保全体/削除処理混成

――――


「無登録積荷を増やしてるのか」

「つまり、あれ止めないと全部分からなくなる?」

「たぶんな」


《ラベルスクレイパー》がレールを滑る。

速い。

しかも高い場所にいる。


正面から斬れない。

なら、落とす。


俺はすぐに操作盤へ飛びついた。

港湾クレーンの操作画面は死んでいるように見えて、内部だけは生きている。

原作そのままだ。

こいつはUIが死んでいても、入力だけは受け付ける。


「ユウト、外だ! あいつを第六列の上へ引きつけろ!」

「俺がどうやって!?」

「盾叩いて音立てろ! あいつ、振動優先で寄る!」


ユウトが半信半疑のまま外へ出る。

鉄の床を盾で殴る。

ガァン、と大きな音。


《ラベルスクレイパー》の刻印ヘッドが、ぎろっとそっちを向いた。

やっぱりだ。

原作のこいつは視認より振動検知が強い。

“高所作業員の落下や接触”を優先して追う、安全管理の成れの果てみたいなAIだった。


「来た!」

「そのまま、もう一回!」


操作盤で、近くの空コンテナを吊り上げる。

ガントリークレーンの吊具が下り、四隅の爪がコンテナを掴む。


ここからが、このクソゲーの本番だ。


《ドライドック・ナイトシフター》の吊り荷は、視点を切り替えると慣性だけ残して当たり判定が先に走る。

カメラが追いつかない。

だから普通に遊ぶと最悪だが、分かっていれば“見た目より先にぶつかる振り子”が作れる。


俺は吊り荷を上げながら、操作室視点から外部監視カメラへ切り替えた。

その瞬間、コンテナの見た目はまだ中央にあるのに、内部の振り角だけが先に右へ走る。


「ノア、ブザーの前!」

「うん、あと少し!」


《ラベルスクレイパー》がユウトの頭上まで来た。

刻印ヘッドが開く。

今だ。


「切る!」


操作視点をさらに切り替え、吊り荷を横へ送る。

見た目は遅い。

だが内部判定は、もう振り切れている。


空コンテナが、《ラベルスクレイパー》の横腹へ“先に”ぶつかった。


轟音。


黒い火花が散る。

レール上の異形が大きく弾かれ、片側の爪を千切られながらよろめく。


「効いた!」

「もう一発だ!」


だが《ラベルスクレイパー》も終わらない。

刻印ヘッドを回転させ、今度はコンテナそのものへ飛びつこうとする。


その直前、俺は《凍結保存》を起動した。


振り切った荷物が、空中で止まる。

ぶつかる直前のまま。

落ちもしない、戻りもしない、最悪な位置で固定された鉄の箱だ。


《ラベルスクレイパー》がそこへ自分から突っ込んだ。


ぐしゃ、と鈍い音。

刻印ヘッドの歯が、凍結されたコンテナの角へ食い込み、逆に身動きを失う。


「ユウト! 叩き落とせ!」

「おう!」


ユウトがキャットウォークを走る。

大盾を構え、固定された敵の横から全力で体当たりした。


元々レール上でバランスを取っていた異形だ。

横圧には弱い。


《ラベルスクレイパー》はそのままレールから外れ、六列目のコンテナ群へ落下した。

下で黒いノイズが爆ぜ、刻印ヘッドが砕ける。


静かになった。


数秒遅れて、港内のラベル削除が止まる。

俺は《凍結保存》を切り、吊り荷をゆっくりと戻した。


「……毎回思うけど、お前の戦い方、荷役じゃなくて事故映像なんだよ」

ユウトが息を切らしながら言う。

「その事故映像が昔の最適解だった」

「終わってるな、そのゲーム」

「サービスは終わってる」


返しながら、俺は《荷役主任の磁気タグ》を操作盤へ近づけた。


すると、死んでいたはずのヤード管理画面が一気に点灯する。

コンテナヤード全体の配置図。

識別番号。

重量。

行先。

ただし、その半分以上が文字化けしている。


今のままでは読めない。


でも磁気タグを通すと、一つだけ分かる情報があった。

外装ラベルじゃない。

内部マニフェストだ。


「なるほど」

「見えるのか?」

「外の文字は消されても、内側の荷札はまだ生きてる」


ヤードの候補コンテナは九基。

そのうち六基は無登録。

三基だけ、内部行先が残っている。


一つ目。

植物育成用遮光フィルム。

行先――封鎖農区・第三温室。


二つ目。

発芽制御剤。

行先――封鎖農区・第一貯蔵区。


三つ目。

土壌検体保冷箱。

行先――封鎖農区・検疫室。


「……次、そこか」

「封鎖農区?」

ユウトが顔をしかめる。

「名前だけで嫌なんだが」

「俺も好きな響きではない」


ただ、マニフェストに残った行先が次の接続先になること自体は、不思議でもなかった。

この世界の裏側は、終わった場所同士を運搬で繋いでいる。


だったら、港の次が農区でもおかしくない。


問題は、識別だけで終わらないことだ。

第六バースの出港枠へ、三基とも積み込まなければならない。


しかも港湾クレーンは半壊れ。

搬送ラインも予約不全。

一基間違えれば、無登録積荷まで巻き込んで出港扱いになる。


「俺が上で吊る」

「俺は下か?」

「そうだ。ガイドロックを手で入れろ」

「手作業かよ」

「こういう時だけ人力が一番信用できる」

「いやな信頼だな」


一基目は、比較的素直にいった。

遮光フィルムのコンテナを吊り上げ、第六バースへ運ぶ。

ユウトが地上でロックを入れ、俺が上から微調整する。


問題は二基目からだった。


《ラベルスクレイパー》が削った影響で、搬送予約が一列ずれている。

発芽制御剤のコンテナを持ち上げた瞬間、隣の無登録コンテナまで同時に“積載予定”へ入ってしまった。


「まずいな」

「何が?」

「隣まで出港扱いになってる」


無登録積荷を出したら失敗だ。

しかもその無登録コンテナ、磁気タグを当てた瞬間に妙な反応を返した。


中身表示が出ない。

代わりに、ラベル生成待機とだけ出る。


嫌な予感がして、すぐに手を引いた。


「ユウト、その箱には触るな」

「理由は?」

「まだない。でもたぶんロクでもない」

「説得力しかねえ」


二基目は《通行認証》で解決した。

発芽制御剤のコンテナだけに、一時的な“到着済み”認証を付ける。

するとクレーン側がそれを正規荷物と誤認し、隣の無登録箱を予約から外した。


「便利だな、そのスキル」

「相手が旧式認証ならな」

「つまり大体ロクでもない場所専用か」

「そうなる」


二基目、完了。


最後の三基目。

土壌検体保冷箱を吊り上げ、第六バースへ回す。

だが途中で、港中に低い警報が鳴った。


搬送ラインの下、さっきの無登録コンテナが一つだけ勝手に動き出したのだ。

クレーンが掴んでいないのに、レール台車の上でゆっくりと第六バース側へ滑っていく。


「おいおい……」

「自走してるぞ」

「違う。予約がそっちへ引いてる」


磁気タグを当てる。

表示が変わる。


ラベル生成中。

宛先照合中。

保持者照合中。


「……っ」


嫌な汗が背中を走った。


次の瞬間、操作室の感熱プリンターがけたたましく動き出す。

白紙だったラベルへ、黒い文字が次々と刻まれていく。


ユウトが叫ぶ。


「ナギ! なんか印字されてる!」


三基目の吊り荷はまだ空中だ。

このままじゃ無登録箱が先に第六バースへ入る。


「ノア、止められるか!」

「音はまだ来てない! でも、呼ばれてる!」


呼ばれてる。

その表現がやけに正しかった。


港が、何かを荷物として確定しようとしている。

しかも宛先付きで。


俺は三基目のコンテナを振らず、そのまま真上で《凍結保存》した。

落下直前の重い箱が、空中で止まる。


次に、《通行認証》を三基目へではなく、地上で勝手に動いている無登録箱へ叩き込んだ。


「何してる!?」

「出港可じゃない。“到着済み”だ」


無登録箱の表示が一瞬だけぶれた。


行先未定の箱を、すでに届いた荷物として誤認させる。

すると搬送ライン側は、“もう第六バースへ運び終えた荷物”として予約から外す。


台車が止まる。

よし。


そのまま凍結中の三基目を第六バースへゆっくり降ろす。

ユウトが飛び込み、ガイドロックを叩き込んだ。


カチン、と確かな手応え。


システムメッセージが開く。


――――

正規積荷 3/3

第六バースへの積載を確認しました

出港処理を開始します

――――


港の奥、いるはずのない霧笛が鳴る。

海のない岸壁の向こうで、見えない船が出る音だけが響いた。


第六バースの先へ伸びる乾いた空間に、一瞬だけ巨大な船影が重なる。

積み込まれた三基のコンテナが、黒い水面のない海へ滑るように消えていく。


イベントクリアだ。


同時に、プリンターが最後の一枚を吐き出した。


俺は嫌な予感のまま、それを掴む。


視界中央にクリア表示。


――――

残響イベント《夜間荷役の最終便》クリア

追加条件達成:欠損資産《荷役主任の磁気タグ》を取得

追加条件達成:無登録積荷の出港を阻止


報酬を算出中……

――――


続けて、金色の表示。


――――

残響片《出港マニフェスト》を獲得

派生スキル《貨物指定》を獲得


《貨物指定》

接触した対象1つを、一時的に旧式搬送系から「搬送対象」として認識させる

対象の荷札、宛先、搬送予約を読み取れる

自身への使用は推奨されません


メインクエスト更新

《零層保管庫》を調査せよ

回収済み残響:6/7

推奨接続先:封鎖農区

――――


「最後の一文が最悪だな」

ユウトが言う。

「“自身への使用は推奨されません”って、使えるのかよ」

「推奨されないってことは、できるんだろうな」

「やめろよ、その方向の前向きさ」


俺は何も返さず、手の中のラベルを見る。


そこに印字されていたのは、ただの荷札じゃなかった。


――――

RETURN CARGO

Holder: NAGI

Destination: 封鎖農区 第三温室

Status: 搬送待機

――――


「……ナギ」

ノアの声が、ひどく近くで聞こえた。

「ここ、あなたを荷物だと思ってる」


否定できない。


港の認証は五つ目で“帰還者”を見た。

そして六つ目で、“行先”を印字した。


つまり先客の警告は、ここで確定したことになる。


六つ目で港は行先を印字する。

自分をスキャナに通すな。

通したら、最後の一枚は向こうから取りに来る。


ユウトが、いつになく真面目な顔で俺を見る。


「なあ」

「分かってる」

「いや、分かってる顔してるのが一番怖いんだよ」

「でも、これで次は決まった」

「封鎖農区か」

「ああ」


その時、操作室のサブモニターがひとりでに点いた。

また負のタイムスタンプ。

また、サービス開始前のログだ。


――――

REC -00:09:44

――――


映像には、誰もいない港が映っていた。

いや、違う。

一人いる。


操作室のドアを背に立つ、フード付きのプレイヤー。

顔は見えない。

だが今回は、前より少しだけ情報が多かった。


左肩の装備に、細いひび割れみたいな青い発光。

俺の《終了世界の観測者》のエフェクトと、よく似ている。


そいつはプリンターから吐き出された荷札を見て、数秒だけ固まる。

次に、そのラベルを握り潰した。


そしてモニターのこっち側、つまり今この場所にいる俺たちへ向けるみたいに、低く一言だけ残した。


『印字されたなら、もう遅い』


映像が切れる。


数秒、誰も喋らなかった。


港の外では、海のない岸壁へクレーンが空の吊り荷を下ろし続けている。

ぎ、ぎ、と。

作業だけが終わらない。


俺は自分の名前が印字された荷札を見下ろした。

Destination: 封鎖農区 第三温室。

搬送待機。


最後の一枚は、取りに来る。


だったら次は、待つんじゃなくて迎えに行くしかない。


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