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#08言ノ葉ノ沈黙

※毎日12時に更新しています!

無言の共闘を果たした夜が明けて、凪の心に小さな波紋が広がりはじめます。

「守られた」と感じた一瞬。それは“器”としてではなく、一人の人間としての感情を揺らしたものでした。

任務と自我、仮面と本音。その狭間で揺れる凪の沈黙に、少しだけ耳を傾けていただけたら嬉しいです。



 放課後の資料室。

 日が傾き始めた窓の外に、茜色の陽が差し込んでいた。


 凪は席に座ったまま、ゆっくりと目を閉じる。


 ――夜の記憶が、まだ体に残っている。


 昨夜、斎と共に結界の中で霊災と対峙したこと。

 言葉はなかった。けれど、確かに息が合った。

 守られたと感じた、その一瞬のことを、思い出すたび胸の奥がざわつく。


(あれは……あいつの任務の一部なんだ)


 斎は言った。「“器”を守るのが私の役目です」と。

 ならば、あれもきっと、“器”としての自分に向けられた行動だった。

 それだけのはずなのに――


「……っ」


 喉の奥から、小さな吐息が漏れた。

 額に手を当てると、じんわりと熱がこもっていた。


 無理もない。

 連日の霊災対応に加え、昨夜はまともに眠れていない。

 “器”である以上、疲労を表に出すわけにはいかなかったが、体は思い通りにはならない。


 (どうして……こんなに、苦しいんだ)


 孤独には慣れているはずだった。

 友人なんて必要ないと、そう思っていた。


 演じるのは得意だった。

 無感情を叩き込まれるように育てられ、感情の揺れは弱さだと教えられた。

 だから、学校では優等生の仮面を被り、誰とも深く関わらずにいた。


 けれど、霊災を祓うたびに聞こえる“最後の声”――

 死の間際にこぼされる、人々の想い。

 それが、凪の中の「人間としての何か」をかろうじて繋ぎ止めていた。


(……斎も、あのとき、少しだけ……)


 ほんの一瞬、何かが軽くなった気がした。

 でも、それを確かめる術はない。

 斎はきっと何も言わない。いや、言葉にしないからこそ、余計に気になってしまう。


 教室のドアが開き、足音が近づいてくる。


「凪様、大丈夫ですか?」


 振り返ると、斎がそこに立っていた。

 無表情のまま、だが視線は真っ直ぐにこちらを見ていた。


「その体調で霊査したんですか?」


 その言葉は、いつも通りの調子だった。

 だが、凪にはわかる。ほんのわずかに――心配の色が滲んでいた。


「……放っておくわけにもいかないだろ。実際、宮坂さんは被害にあってる」


 凪はそう答えたが、体は重く、視界も少し揺らいでいた。

 椅子から立ち上がった瞬間、足元がふらつく。


「っ……」


 倒れかけた体を、斎の腕が支えた。

 しっかりとした力。静かに、しかし確実に。


「……っ、悪い……」


「無理しすぎです」


 それだけを言い、斎は凪を座らせ直す。


 この瞬間だけは、“器”でも、“任務”でもない気がした。

 ただ一人の人間として、守られた感覚――


 凪は、何も言えなくなった。


 窓の外で、風が吹いた。

 その中に、微かに“異質なもの”が混じっている。


 斎が目を細める。

 凪もまた、顔を上げた。


 まだ――何かが、この学苑の中に残っている。

 あの“風”の気配が。


(次で、終わらせないと)


 凪は静かに、指先を握りしめた。

ご閲覧ありがとうございました。

この回では、凪の“孤独の輪郭”がわずかに崩れはじめる様子を描きました。

感情を持つことが許されなかった少年が、誰かの手に支えられた瞬間。

それが、次の決断への小さな火種になっていきます。


次回、再び顕れる霊災。

そこで凪が下す選択と、周囲との距離感に、どうぞご注目ください。



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