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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
第四章 マグスタ

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第995話 彼女は領都へ商業ギルドを誘致する

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第995話 彼女は領都へ商業ギルドを誘致する


「珍しくお前が合いに来たと思えば、予想通りだな」


 彼女は、父親であるルテシア子爵の元を訪れていた。今は王都の差配を引き継ぎ中であり、王宮の執務室で王太子領での仕事の引き継ぎを王太子の秘書官たちから受けつつ次の職場への準備中であった。


 つまり、彼女以上に忙しい。


「今であれば、まだ王都の商会やギルドにも話をつけていただきやすいと思いまして」

「確かにな。とはいえ、王太子殿下の代理人として南都に出向くのである

から、王都への直接的な影響力は減るかもしれないが、殿下の側近としては寧ろ力の及ぶ範囲は広がる」


 今までは、王国南部の王領を「王太子領」として統治を王太子とその配下の官吏で行っていたが、その王太子の役割を彼女の父が代わって務めることになる。王太子の代理人の地位が、王都の代官より必ずしも低いことにはならない。


 南都の商業は法国戦争で戦地から逃げ出した法国の商会や職人を抱え、この半世紀ほどで大きく発展している。金融や絹織物などの生産で大いに潤っているのだ。王都での商業ギルド・商会との折衝の経験が豊富で、尚且つ、南都の後背に位置するノーブル伯に叙爵される娘と、その夫の出身であるニース辺境伯家の持つ軍事的・経済的影響力を考えるに、ルテシア子爵は王国と王家にとって大きな存在であり続ける者と考えられる。


 とはいえ、目の前でいつでも話の出来る立場から、遠く離れた南都に居を移せば、王都の商業界への影響力は今より低下するのは当然だ。


 故に、課題であった王都の商業ギルドと今後のリリアル領に開業するであろう商会・職人たちとの仲立ちを依頼しようと彼女は考えていた。


「領主が後ろ盾になる商会は、いわば貴族家の家業の一つ。ニース商会もそうだが、基本的には特権商人になるのだから、なにも気にすることはないと思うがな」


 貴族は税を徴収する側であり、払う場面においては「互恵関係」という観点から、貴族は税を免除される。税を払うのは平民であり、貴族は税を受け取る側なのだから、貴族同士で税を掛けるのはやめようということなのだ。


 故に、リリアルが運営するであろう「ブレリア商会」(仮)は特権商人として多くの税が免除される。


「いえ、今後の領内で育てていくことになる孤児院出身の職人や商人の扱いについてです」


 リリアル領の官吏や使用人、宿屋の従業員や冒険者ギルドの出張所の職員など、多くは中等孤児院卒業者の受け皿にしようと彼女は考えている。リリアルの騎士の大半は王都の孤児院出身者であり、同じ釜のパンを食べた仲間も少なくない。


 また、孤児院出身者の職人の大半は、「親方」になれないのは当然として、その前段階の一人前の職人にすらおそらくはなれない。一生、下働きの追いまわしといった立場に終始することになるだろう。


 職能別ギルドというのは、都市の大きさが限られている故に、そこに住まう住人の中で、それぞれの職業の代表者が世襲されていくという事実が存在する。


 毛織物職人のギルドでは「親方」の人数が「株」により定められており、その親方株を譲られる者の大半は、優れた腕の職人ではなく、譲る親方の子供や娘婿、親族の子供が対象となる。枠が増えないのだから、腕が良いかどうかで手に入れることは出来ない。購入するとなれば、大金が必要であり、大きな借り入れが必要となるだろう。何の後ろ盾もない孤児出身の職人がそんな資金を用意できるわけがない。


 そもそも、下働きの職人は衣食住を親方が面倒みる代わりに、年季奉公する前提で雇われる。その上で、「職人」となるチャンスを与えられる者は、「職人」の子弟や縁者、あるいは同業他社の工房から預かったその家の子たちであり、孤児出身者にチャンスを与えられることはほぼない。


「王都のギルドで云々というのは難しいな」

「はい。ですので、腕はあるのだが立場上「親方」となれない優れた職人をリリアル領に「親方候補」として派遣していただきたいのです」

「ふむ。その対価は何か用意できるのだろうか」


 燻っている中堅あるいはベテラン職人を親方候補として招聘し、その下で職人見習として中等孤児院卒の子たちを付けてもらう。


「幸い、リリアル領はシャンパー・ブルグントそして、ヌーベ領やギュイエ公領と境を接しています。そして、領都はまだ多くの空き地が存在します」


 残念ながら、区画整理しただけで街路と水路以外何もない開発途中の場所なのである。


「王都の商業ギルドに十年間、定期市を行う権利とその場で徴収する税を免税することにします」


 子爵はなるほどとうなずく。領都はいまだ何もない場所であり、昔ながらの「大市」を開く余地がある。ランドルやシャンパーには定期市で栄えた歴史があり、その収益を元に都市が建設されたこともある。その昔は、教会や修道院の門前で定期市が開かれたが、やがてそれが商人が定住し街となり街壁で囲われ大小の都市へと発展した時代もある。


 今は、そうした「大市」は開かれず、代わりに都市の商業ギルドが差配して商業が行われている。だが、需要がないわけではないのだ。


 王都からほど近く、公爵領・王領との距離も近い空白地であるワスティンの森をリリアル領として拝領したのであるが、この地は運河の建設も進められており、王都郊外の新しい物流拠点にもなりえる。


「大市」で関係を作り、王都の商会の支店をリリアルに置く。代わりに、そこで働く使用人・職人たちの多くを中等孤児院出身者から採用してもらう。


 考え方に賛同し、お互い利があると思う商会だけが参加すればよい。そこでは、運送業者も拠点を設けたいだろう。運河で物を運び、そこから馬車に乗せ換え目的地まで運ぶのだから。


 孤児院出身者で中等孤児院に入れなかったものも、そうした労働力としてリリアル領で仕事を得ることができれば、やがて領民となることもできるだろう。繁忙期は開拓村で日銭を稼いだり、やがて開拓村の住民と結婚して村の一員になる余地もないではない。


 孤児院出身者にいきなり農業はできないだろうが、手伝いをしながら農業を学び新し開拓村で農地を持つようにできるかもしれない。


 孤児の受け皿となるのであれば、他の領地から住民を引き抜くよりよほどよい。


「まずは、大市を開く権利をどう相手が受け止めるか。場を設けることにするのではどうだろうか」

「はい。それでお願いします」


 彼女の父は、娘の為に王都の商業・職人ギルドの幹部たちと会合を行う手はずを整えることにした。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





『王都商人総代理』は王都の商人・職人ギルドを取りまとめる「市長」のような存在であり、平民の代表者でもある。百年戦争の一時は、王都を守る為に連合王国に与して王家を追い出した過去もある。彼女の家が管理人であるとすれば、王都商人総代理は店子総代、借家に住む住民自治会の代表者というところになる。


『総代理』は四人の市議会議員(各ギルドの代表者がそれぞれ市議会議員を務め、とくにその中の重鎮相当の四人)が補佐をする。


王都は河川物流が重要視されており、『総代理』は水運ギルドの代表が付く場合がおおい。今代もそうであると彼女は聞いている。つまり……


「子爵閣下、娘可愛さに我々を呼び立てるのはどうなんだ」


 そう、爺でマッチョでさらに禿。目の前の『総代理』は、衣装こそ裕福な商人といったものを身に纏っているが、見た目は山賊……水賊を想起させるごつい爺であった。彼女にとっては見慣れた存在ではあるが。


「ご無理を言ったようで申し訳ありません総代理殿」

「これはこれは、かわいらしい娘さんですな。かような可憐な少女からおねだりされれば、父親としては甘やかさずにはいられますまい」


『禿代理』の言葉に、そのほかの参列者が同意とばかりに笑い声をあげる。王都の治安は騎士団が守っているが、それでも、商人・職人街毎に自警団が編成され、夜警や騒乱が発生した際の暴徒の鎮圧、防衛戦での民兵・義勇兵主力として武装することもある。


 特に、腕っぷしには自信がある工房関係者や運送業者の戦力は、下手な徴募兵よりも強力な存在と認められている。『総代理』辺りは、そのような経験も豊富なのであろう。つまり、腕に自信あり。見た目、手弱女に見える彼女を侮るのも無理はない。


「初めまして王都市議会幹部の皆様。私はアリックス・ド・リリアル。確かに、王都代官を長年務めてきたルテシア子爵家の娘ではありますが、今はリリアル副伯領の領主にして、海軍提督・法衣侯爵を賜っております」


 リリアル副伯の名前を知らぬものは王都にはいない。その昔、王都で人攫いが多発していた際には、その誘拐団を取り押さえ壊滅させたこともある。王都で「退魔の鐘」が鳴るようになり、不死者除けが徹底されたことや、『王都城塞』の堅牢な構築物が新たな王都のランドマークとなったことも記憶に新しい。


 水運業者にとっては、荷揚場のすぐそばに夜も監視が行き届いている防衛施設があることは強い安心材料となっていた。


「いや、大変失礼した。リリアル閣下を笑ったわけではなく、親馬鹿子爵を笑っただけなんだよ」

「誰が親馬鹿だ」

「あんただよ。まあ、姉よりは随分とまともな娘のようだな」


 姉、王都総代理に「やべぇ女」だと思われているようである。社交界での活動以上に、ニース商会の商会長夫人として王国内は勿論のこと、法国・帝国・連合王国にネデルにも足を運んでいる。つまり、彼女の向かった先に必ず現れ、そして強引に商会の支店を開設し去っていく。確かにヤバい。


 いった先々で竜だ吸血鬼だと討伐している彼女と一行も確かにヤバい。





 彼女は子爵に説明した「大市」の開催権十年貸与の対価として、王都で親方に成れないが優秀な職人を親方としてリリアル領都に派遣する件について説明をした。


「なるほどな。まあ、悪い話じゃない」

「そうかもしれないし、そうではないかもしれない」


『総代理』は賛同したが、補佐役たちの中には素直に喜ばない者たちもいる。


「こちらとしては、話を聞いていただいて、希望者を募っていただけるだけでかまいません。ですが、誰を採用するかはこちらの判断にゆだねていただきます」

「……そら……」


 王都はギルドの権利が強く守られている。確かに城壁は王家が構築したものであるが、各街区は相応の自治権を有している。税を納めはするがそれは家賃を払っているのであって、完全に支配されているわけではない。


 しかしながら、リリアル領に関してはギルドは存在しないし、誰を受け入れるかはリリアル領主である彼女が判断するというものだ。絶対的な権威は領主であるリリアル副伯が有している。それを受け入れられるかどうか。


「こっちが推した者が必ずしも受け入れられるわけじゃねぇ……ということですな」

「はい」

「その……判断基準を教えてもらいてぇ……のですが」


 ここにいる五人は、市議会議員であると同時に、各職能別ギルドの長かそれに近い幹部たちである。推薦したけど落とされたでは面子が立たない。


「リリアル領は、中等孤児院卒者の受皿を優先に採用し育てる予定です。ですので、王都の出身ギルドや工房・商会の意気の掛かった特権意識丸出しの能無しを押し付けられても正直処分に困るのです」

「「「……」」」


 彼女は反応に固まる議員たちに「何がおかしいの」と訳が分からないとばかりに首傾げる。


「王都から切り捨てても構わない程度の係累で、尚且つ、人間性も技術も一人前で孤児にも教育できる人間だけ受け入れる。そう、リリアル副伯は言っている。お前たちのひも付きに用はない……そういう意味だな」

「はい」


『大市』開催の利権を十年とはいえ与えた上で、王都の下請けのような領都を作るつもりはさらさらない。


「ご理解いただけましたでしょうか?」


 いないならいないで構わない。


「一か月以内に回答がない場合、次のお相手に相談いたします」

「は」


 彼女は別に王都のギルドにこだわっているわけではない。ただ、王都からほど近く、最初に話をもっていかねば、王家や子爵家に文句を言われかねないと思って配慮したに過ぎないのだ。


「お父様、南都のギルドに話を持っていかれるのはどうでしょう」

「それはいい。総代理として南都に赴く際に、良い手土産になる。

確か、王国は海都国と交易を拡大するのであろう」

「はい。魔導船団を派遣する代わりに、内海の物品をサボア大公領経由で王国へ輸入する予定です」


 南都は内海-海都国-サボア大公領という交易ルートの最終到着地。元々法国出身の商工業者が多く、内海貿易にも詳しいものが多い。王国南部の内海商圏を一気に活性化できる。


 その上、ブルグント公領・旧ヌーベ公領と物流の流れが複数化し、ヌーベ領からギュイエ公領へと商品が東西に移動可能となった。王都を経由せずとも商品の流れが王国の東西南をつなげることが可能となる。


 つまり、この話で彼女に「王都ギルド使えねぇ」と思われたなら、南都との結びつきを強め、王都圏を除いた流通網を作ることもいとわないということなのだ。彼女の中では、モノが動くのであれば、誰と組んでも良いと考えている。


 王都よりむしろ、南都と組んで王太子領に中等孤児院出身者の働き場所を確保してもいいのではと思わないではない。百年戦争以降、王国南部は経済的に大きく後退しているとされる。ヌーベ領復興と並行し南部の再開発も王太子殿下の今後の政策として重要なのだ。


「ちょ」

「そ、それは待ってもらえ……いただけないでしょうか閣下」


 王都の目と鼻の先である新市場リリアル領に、南都の影響力が浸透する。その後考えられるのは、ヌーベ領や王国西部に対する王都商業ギルドの影響力の低下。また、運河が開通したとしても、リリアル領を通過する際は、王都ギルド所属の商会には、不利益が課せられる可能性。


 リリアル領の発展、王都の目と鼻先にある物流拠点としての位置づけ、新しい雇用を生み王都の人的資源を吸収する余地、そことの関係を太くするどころか、断ち切る判断を彼らはすることができるはずもない。


「も、持ち帰って、慎重に判断させていただきたいのですが」

「ええ、かまいません。前向きにこちらも検討します」

「「「……」」」


 前向きに検討する=検討するがお断りという意味だと『総代理』たちは思い、大いに慌てる。


 数日後、各ギルドで紐付きでない腕の良い職人や商人の推薦が山のように彼女のもとに届いたのは言うまでもない。




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