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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
第四章 マグスタ

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第996話 彼女は領都から運河へと水路をつなげる

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第996話 彼女は領都から運河へと水路をつなげる


 リリアル領の領境には現在、ロアレ川から王都に向けての運河の掘削が進んでいる。開通も間近と思えるのだが、リリアル領の領都ブレリアの横を流れる川は直接ロアレ川に流れ込んでおり、運河とはつながっていない。


「運河が完成するまでに、領都から運河へ繋がる自前の運河を掘削しておきたいのよね」

「そこで、セバスね」

「なんでオイラなんだよ!!」


 土魔術と言えばビト=セバス。つまり歩人おじさんが専門。彼女が施工しても構わないのだが、流石に近未来の公爵閣下が現場で土仕事というわけにもいかない。周囲的に気を遣うだろ?





 運河をつなげる件は、王太子と王宮を通じ了承を得ている。とはいえ、勝手に掘って勝手につなげるわけにはいかない。


 水の流れが変われば水量も変わり、今の領都を流れる水路の水位も変化することになる可能性がある。もともと流れている川の岸に船着き場を作るのとは意味が違う。


「領都ブレリアの水路を経由して運河まで水路をつなげるのが一つと、あと一つは、開拓村との分岐路のある場所の近くに「船着き場兼倉庫」のある港街を作りたいのもあるわ」

「ええぇぇ」


 彼女の構想は運河の物流とリリアル領内の物の流れを接続することにある。わざわざ、馬車や兎馬車で王都へ荷を運ぶよりも、運河で船に乗せ換え運ぶ方が効率が良い。また、船着き場での雇用も増える。


 運ぶ手間が減る分、乗せ換えと運送を依頼する金額が上乗せされても相殺されるのであれば良いことであるし、運河の運送業者が運ぶのであれば、王都入場でかかる検札の手間も省ける。買い手が決まっているのであれば面倒がない。


「船着き場ぁ」

「あ、そこに、ワスティンの修練場も移設すれば、警備の足しになるんじゃない?」


 伯姪の提案時彼女も頷く。過去の狩猟地として保護された結果、魔物はびこる森であったワスティンも、森の入り口辺りではもう危険がないのだ。魔物の暴走を防ぐ拠点としても考えられて作られた『修練場』だが、いまとなってはその意味もなくなりつつある。


 むしろ、運河と街道の交差点である場所に冒険者やその見習いが集まるほうが仕事もあるし治安にも良い。


 運河の船は馬が岸から牽引する場合もある。荷の警護の仕事や臨時の荷揚げの手伝いだって需要はあるのだ。


「オイラに何のメリットあるんだよ」

「そうね」


 彼女は歩人の話を聞きつつ、一つの提案をする。


「では、その湊に、セバスの名を付けるというのはどうかしら」

「そこは、あなたの名前じゃない?」


 ポート・アリックス……悪くはないが、別にそうしたいとも思わない。どう考えても、姉に弄られる未来しか見えないからである。


「セバス港ぉ……ヤバくないですか?」

「ヤバイ」


 横で聞いていた赤毛娘と赤目銀髪が苦言?を呈する。


「姓ではなく名ですもの。ビト港でしょう」

「ビト公」

「……ま、そんな感じよね」


 湊の名は「ビト」に決まったのだが、その日から歩人はリリアルで「ビト公」と呼ばれるようになった。リリアル公・ビト公、ほら、なにもおかしくない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 修練場の移設、交易倉庫の設置まではリリアル領の問題なので、どこの許可も必要なかった。運河と接続しなければ、領地の問題だからだ。


 そこで再び『禿代理』……『総代理』のもとへと足を運んだ。


「リリアル閣下、本日は運河の件でと聞いておりますが」


 前回のことで懲りたのか、今回は低姿勢……というよりもこれが当たり前の関係なのだ。特に、王都内のことならともかく、リリアル領とそれに関わるものなのだから当然ともいえる。仮に、運河の使用を妨げようと思えば、彼女はいかようにもできる。領境を流れているのであるから「権利半部寄こせ」と言えないこともない。元は両側王領である時代に計画され掘削が開始されていたのだが、いつのまにか、王領とリリアル副伯領の境目に運河がされていたからだ。


 そのことを今回は理解しているので、『禿代理』も下から伺う姿勢なのである。


「実は、運河の途中に係留地を設けようと考えています」

「はぁ」


 運河を24時間動き続けるわけにはいかない。馬も疲れるし、替えもいる。明るい間は移動するが、暗くなれば止まるしかない。


「リリアルの領都は運河から離れていますから、ロアレ川から半日程度の場所に船溜まりにできる「港」をリリアル領の負担で建設しようかと思案しているのです」

「それは……結構な話ですな」


 運河の掘削は国の事業であるが、王都ギルドもそれなりに分担金を支払っている。追加の費用が発生すれば、予算が上方修正され分担金も増えることになる。議題が一つ増えてしまうのは嬉しくはない。


「それで、どの辺りになるのでしょう」


 彼女は領内の地図を広げ、説明する。


「なるほど、このディジョンから北東に進むリリアル領内の街道と交差する場所に設けると」

「領内の物産を領都ではなくここに集めて王都に運べるようにしたいのです。それと……」


『修練場』と言っても伝わらないであろうと考えた彼女は、「初心者冒険者の訓練施設」と言い換え、今ある場所からこの船溜まりの場所近くに移設し、可能であれば、冒険者ギルドの出張所を設けて、その場で依頼が受けられるように手配したいと伝える。


「確かに、この場所で冒険者の手配ができれば、何かと便利でしょうな」

「出先で人では必要になったことを考えれば、領主としても安心できることになるでしょう」


 常に運河が順調に動いていればよいが、荷崩れや大雨で増水して船が沈んだ、流されたとなれば人でが急に必要になることもある。水運組合内で処理できない規模になれば、人手を依頼するのは冒険者ギルドとなる。それが王都を経由せずに手配できるのであれば相当時間も費用も短縮できる。


 そもそも、新人訓練施設なのだから低等級の冒険者=安い賃金でも働いてくれるということだ。護衛を担えるほどのベテランなら依頼を選ぶし王都なら競争相手も沢山いる。


 彼女の頭の中では、近くの開拓村の住民に冒険者登録させておいて、何かあれば呼び立てて臨時収入を得られるようにしようという程度の思いつきなのである。自衛のためにも、訓練場で鍛錬することも良いだろうし、自警団と冒険者・開拓民の両立は悪い案ではない。


 彼女の中でも既に計算は成り立っていた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「簡単でしょう?」

「なら自分でやってもらえませんかね……でございます、ご領主様」


 今、歩人おじさんは、その昔こさえた『修練場』を今一度作り直している。「ビト港」(予定地)の傍にである。今後は、ここに泊まり込んで仕事ができるように、宿泊用の大部屋と、冒険者ギルド駐在所(職員が住み込むので出張所と宿泊施設を兼ねている)を建てている。


 工房や薬草園は以前の場所に残しておくが、王都送迎は日にちを減らし、ここに一週間程度留まれるように変更する予定だ。簡易な食堂も開き、領都の宿の運営の練習代わりに、運営しようとも考えている。


 今は外構を整えている段階であり、規模は前回と変わらないのだが……


「セバスさん!! やれます!! できるんです!!」

「セバス、無理・できないは嘘吐きの言葉」

「オイラ嘘吐きだから、別にいいんだよぉ!!」


 とはいうものの、「ビト」港の命名は大変気をよくしている歩人。この場所も「ビト収容所」……いやなんでもない。


 文句を言いつつも、最初に修練場を作った時と比べると、生成速度はかなり上がっている。土木工事専門魔術師の名は伊達じゃない!





「もう、飲めねぇ……限界だ……」

「セバスさん!! まだ飲めます!! できるんです!!」

「セバス、限界は嘘吐きの言葉」

「……そうだな」


 元の修練場に倍する規模の敷地面積を有する「セバス収容所」(仮)は急ピッチで完成へと近づいていた。既に、小規模の街と呼べる大きさとなっており、街壁の外には野営のできる広場とその周囲を囲う様にめぐらされた空堀が形成され、限られた場所からのみ入場できるようになっている。この場所は領都ブレリア以外で、兵を集める際の集合場所としても想定している。まだまだ領兵を募るには長い時間がかかりそうなのだが。


「もう、港の周辺の倉庫街や河岸の施工は終わらせたのだけれど」

「「「ああぁぁ」」」

「ポート・アリーで確定ね」


 伯姪の言葉に目をむく彼女と歩人。冗談ではない。いや、冗談じゃないのは間違いないのだが。


「ビト港で構わないのよ」

「ええぇぇ。まじかぁ。でございます……ご領主様」


 街の名前で「アリー」「アリックス」と呼ばれると、なんだか自分が呼ばれているようで変な気持ちになりそうなので、彼女は嫌なのだ。


「ノーブルに言っても忘れられないように、ビト公って名前つけてもらえて良かったですね!! セバスおじさん!!」

「多分、すぐに忘れられる。もう忘れかけている」

「ひでぇ」


 そう、おじさんは名前も覚えられないし、一瞬で忘れられてしまうのだ。悲しいけれどこれ、現実なのよね。


 ポーションを飲みつつ、街壁を整える歩人。そして、街門に当たる部分には、「ビト」の名を刻んだ土柱を建てていた。


 リリアル生からは「いたずら書きやめてもらっていいですか?」などと言われていたが、この小さな港町は間違いなく歩人ことビト=セバスが建てたものだと……柱の文字が風化する間くらいは忘れられないと思う。たぶん。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 デルタの民の開拓村を、旧ヌーベ領に近いワスティンの森の中に建設していく。簡易な堀を巡らせ、土壁も獣除け程度の規模のものを想定している。その昔、彼女がゴブリンの群れと対峙した村では木柵をぐるりと巡らせていたが、森の木材も大切に扱わねばならないので、「土」魔術を用いて整備している。


 二か所の入り口を結んだ直線路の中央には広場と礼拝堂、集会場兼領主館を建てる。領主館と言っても、通常は街の外からくる来客が宿泊できる簡易な宿と食事処を兼ねた場所となる。


 二つの街路と垂直に交差する大通りと、その大通りからわきに入る小道沿いに、小規模な菜園と開拓民の家が建っていく。人口は百人程。周囲を開拓し、果樹園や兎の養殖などを行いつつ森を切り開き畑を増やしていくことになる。


 旧ヌーベに近いワスティンの森は王都から離れた場所であることと、未だ魔物が少なくないと考えられている。故に、開拓民兼領兵でもあるデルタの民が開拓を行い、最初の避難村のあった場所にできる第二の街・仮称「デルタ」に集まり、農作物や毛皮・肉などを売り、必要な生活物資を購入できるようにしたいと考えている。


「メリッサ、領都でなく、ここに住むので本当に良いのかしら」

「問題ない。いえ、こちらの方が望ましい」

「そう」


 魔熊使いであるメリッサは、随分とデルタの民と馴染んでいた。ヌーベ領に潜入し、デルタの民の懐柔を長らく行っていたこともあり、信頼関係はそれなりに育っているということもある。


 何より、巨大な魔熊とどこで共存するかと考えた場合、傭兵ではなく、その怪力を用いた森の開拓にこそ、活躍の場があると考えても当然のこと。それに加え、帝国で差別民の村で育った記憶と、デルタの民の貧しくも暖かい雰囲気は似たものを感じるのであろう。


「みんなも、デルタの人と仲良くしている」

「そうね。けれど、騎士の叙任は受けてもらうので、それは承知しておいて頂戴」

「みんなを守る為に、必要だと理解している」


 デルタの民の開拓村、各村にデルタ民の村長はいるものの、王国語やその外見から対外的な折衝を行え、尚且つ、デルタ民と信頼関係を持つ「開拓代官」の役職と騎士叙任を受けてもらわなければならない。


 大商人や隣領の貴族とのかかわりも今後は生じてくる。その際に、ただの冒険者や傭兵では彼女の代理人となることは出来ない。代を重ねる中でデルタの民の中からそうした「代官」「代理人」が育てばよいのだが、今すぐには難しい。リリアル生も同様、領地の運営に人手が足らないのは目に見えている。


 彼女はメリッサをリリアルの陪臣騎士とし、デルタ民の代理人・代官をお願いすることにした。


 元、帝国傭兵であるから、帝国語も理解できる。王国・帝国に加え、海都国辺りの商人との交流も増えるだろうことを考えると、取り込まなければならない人材でもある。


 メリッサも、王国と帝国が安定し、傭兵の活躍の場が限られてくる現状、数頭の魔熊の群れを抱え、いつまでもあちらこちらをさまようように移動する生活も限界を感じていた。渡りに船というやつだ。


「ワスティンの森の魔物の駆除もすすめていく」

「開拓村周辺を優先にお願い」

「わかった」


 ヌーベ領との境にあたる南部は、魔物討伐も手が届いていない。開拓をスムーズに進め、領民を守る為にも、一度、大規模な魔物討伐を行わねばと彼女は考えていた。






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おじさんに褒美として家名を与えればいんだよ、ドボックとか
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