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非常に短いです。
町に戻ると、大勢の人々が門の下で俺達を迎えてくれた。
砦攻略の成功に賞賛の声をあげる者。
夫の死に嘆きの声を漏らす者。
帰って来た恋人を涙を流しながら抱き寄せる者。
我が子の亡骸を前にして崩れ落ちる者。
「ミックお姉ちゃん!」
ひしめき合う人の合間を縫うように進む俺の足を、聞き覚えのある声が引き留める。
声のした方へ視線を向けると、そこには金髪碧眼の少女と、彼女に抱き着く幼い女の子の姿があった。
ミックさんと、リーナちゃんだ。
ミックさんは涙を漏らすリーナちゃんの頭を優しく撫でてやりながら、穏やかな笑顔で「ただいま」と囁く。
俺はそんな二人を暫く眺めた後、冒険者ギルドへと足を運んだ。
「あ、リアちゃん!」
扉を開くと、すぐに窓口の方から女性の声が飛んでくる。
どたどたと慌ただしく駆け寄ってくる窓口の女性、メイリさんの顔を見るのも、なんだかすごく久々に感じた。
「おっかえりー!」
「ただいまです」
飛びついてくる彼女に、一言そう返す。
「大丈夫!? 手足は全部ある!? 目とか……目!?」
「ああ、なんだか色が変わってしまったらしくて。かっこいいでしょう、金色」
そんなことより、と久しいギルドの内装に親しむ間もなく、俺は壁沿いの能力値測定器の方へ向かう。
「今回の作戦、死傷者が大勢出たって聞いたわ……」
「ええ。冒険者は十と残っていません」
タグを機器に差し込みながらそう答えると、メイリさんは残念そうに表情を曇らせた。
「そっか。ここも随分と淋しくなるわね」
「でしょうね」
吐き出された用紙を確認すると、やはりというか何というか、出鱈目な数字が記されてあった。
容姿を表すAPPを除いて、全ての数値がほぼ五、六倍に膨れ上がっており、特に魔力と精神力についてはどちらも十倍かそれ以上。
そして、スキルも新たに二つ追加されてあり、それを見た俺は思わず目を見開いた。
一つは武装変化。
これはスライムを狙撃する際に、リボルバーの形状を変化させた物だ。
取り回しについてはともかく、威力も射程も比べものにならないほど上昇していた。
スキル名から察するに、銃以外にも使用できるのだろうか。
もう一つは、魔獣召喚というスキル。
スキル名だけなら俺も驚くことはなかったのだが、問題はその後に続く(スライム)という文字だ。
「あの、メイリさん。この魔獣召喚というのは」
言いながら羊皮紙をメイリさんに見せると、彼女は飛び上がるように驚愕してみせた。
「ちょ、リアちゃんあなた、一体何匹亜族倒したのよ!? レベルが三十倍くらいになってるわよ!?」
「そっちじゃなくて、スキルです」
そう言って指でさし示す。
すると、彼女は一旦興奮を抑えてスキル欄へ視線を移した。
「読んで字の如く、魔獣を召喚する能力……だと思うわ」
「思う?」
首を傾げて疑問符を浮かべると、彼女は難しい顔を作りながら頷いた。
「魔物召喚とか、精霊召喚なら見た事があるんだけど、魔獣っていうのはちょっとねえ……こういう場合は大体括弧の中にある生物を召喚するんだけど、スライムっていうのも聞いたことないし……」
「成程」
何となく想像はできるが、街中で試してみる訳にもいかない。
それに、何より召喚はできても使役が可能だとは限らない。
あんな怪物が人里で暴れたりしたら、それはもう悪夢そのものだ。
「それじゃあ、今日はもう用が済んだんで帰りますね」
「えー、もう帰っちゃうの? 旅のお話し聞かせてよ。いつものりんごジュース奢るからさ」
「勘弁してくださいよ」
ため息まじりにメイリさんをあしらっていると、今度は入口の扉ががちゃりと開いた。
緑色の顔を持った物体がのそのそと姿を見せ、俺を視界にいれるなりさささっと駆け寄って来た。
「リアさんじゃありませんか! なんだかお久しぶりですね!」
「ええ、そうですねエミリーさん」
カエル頭の女性が詰め寄ってくる。
その二つの瞳はカエルながら、中々人間らしい期待と喜びに満ちていた。
「もしかしなくても、砦の攻略戦から帰還されたんですよね! 是非お話を!」
「あら、リアちゃん、エミリーちゃんと知り合いだったの?」
「ええ、一応。この武器や道具も彼女の店で――」
俺がそこまで言った所で、再びギルドの扉が開いた。
今度は誰だと三人でそちらを注視する。
そこに立っていたのは、夕日のような茜色の髪と瞳が特徴的な少女、ノルンだった。
「すまない、取り込み中だったか?」
「そんな事はないよ」
「リアさんのお友達ですか?」
「こりゃまた別嬪さんねえ」
「言い方が年寄臭いですよ、メイリさん」
「リアちゃん?」
「お名前は?」
「ノ、ノルンだ。リアとは道中の馬車で――」
こうして、冒険者、騎士団、神聖教会、エルフによる、亜族の砦攻略作戦は終わった。
誰もが何かを失い、また、何かを得た。俺もその例外ではない。
ただ理解できるのは、自分が生き残り、多くの人間が命を落としたという事実だけ。
夜の帳が降りた頃。
食事も済ませギルドから外に出ると、空に薄ぼんやりと蛍の様な光が昇っていくのが見えた。
あれは何かとノルンとエミリーさんに尋ねると、二人も夜空を見上げながら答えてくれる。
「昇魂のランプだろう。中に炎を入れると、自然と空に上がっていくんだ」
「ああやって、親族や友人の死を弔うんです」
百や二百ではすまない数の光が、次々と天に昇っていく。
ゆらゆらとオレンジ色に輝くその川は、ゆったりと夜空の下を流れる。
俺はじっと立ち止まって、静かにその景色を見つめていた。




