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10、妄想の真実

<div style="color:#ffffff;background-color:#BB004B;">


<font color="#ffffff" size="4" face="メイリオ, ヒラギノ角ゴ ProN W3, HiraKakuProN-W3">


  ▼▼▼ 画像をクリックすると、なろう版の「表紙ページ」へとアクセスできます ▼▼▼  


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<a href="https://ncode.syosetu.com/n7997fc/1/" target="_blank"><img border="0" src="https://img1.mitemin.net/hr/kg/e1yckewtiyj21z5tbujdm52l8r5z_k1q_1hc_u0_su6u.png" width="100%" height="100%" alt="表紙絵" />


</a>


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<font color="#ffffff" size="4" face="メイリオ, ヒラギノ角ゴ ProN W3, HiraKakuProN-W3">


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</div>

「これが今の優ちゃんの素顔だよ。タっくんもがっかりするでしょ?」

 一瞬の出来事に俺は混乱した。

 なに? 今の?

 俺の精神の防壁が、自我を保つために付けてきたマスクが何の容赦もなく美咲に剥がれ、捨てられたっていうの? 何の保護もなく、俺の顔が小此木に晒され、そして彼女(あの子)の一番醜い部分を小此木の目の前に曝け出したっていうの?

 俺が彼女との約束を壊したっていうの?

 頭の中から無数の叫び声が聞こえてきた、俺が彼女の代わりにこの苦痛を担わなければならないのに、今はこのざまだ。

 ――辰彦、見ないでー!

 数秒間誰も動かず、声も出さなかった。

 小此木は射抜くような勢いで視線を飛ばしてくる。今までの自分ならとっくに耐えれず目を逸らしたが、今度はそうはいかなかった。目を逸らしたほうがもっと怖い。それは、小此木の次の表情の変化が俺の死刑宣告になりえるからだ。

 しかし小此木は動じない、ちっとも俺の素顔に驚いたように見えない。

 計画が思い通りに行かず少々焦ったか、美咲は俺を引っ張って彼女のほうへ向かせた。そして舌打ちする。

「ちっ、優ちゃん、手をどきなさい」

 美咲がウザったそうに俺の手を拘束しようとしてはじめて、俺は自分の反射神経が命つなぎの働きをしたことに気づいた――両手が見事に顔を覆って、マスクと劣らぬ効果を発揮しているのだ。

「どきなさい、この!」

 美咲は相当切れてるらしく、小此木の前でも自分のイメージに気遣う余裕がなくなった。ただ彼女の力は依然として俺のをはるかに勝っている、両手で構成されたマスクが剥がされるのも時間の問題だ。

 そこで少しでも時間を稼ごうと俺は自分の手に噛みついた。しかしこれは思った以上も愚かな行動で、痛みが増した以外、何のためにもならなかった。

 そろそろ限界が来る時に、小此木が美咲の両腕を掴んだ。

「なによ」

 美咲が不安気に小此木に問いかけるが、返事が来ない。

「タっくんは気にならない? 大好きだった彼女がずっとマスクを被った原因?」

 必死になって小此木の束縛から逃れようとも徒労に終えた。ようやく諦めがついて、美咲は手の力を抜いた。

「どうして!?」

 ぐったりと地面に座り込んだ。

「もうこれで終わりにしよう」

 小此木は美咲を解放するとすぐに俺の左手を取った。抵抗するだけ無駄と知っているから大人しく引かれたままにした。

「どうしても、私じゃダメなの?」

 美咲は両手を地面に突いて泣き出した。あまりにも寂しくて、可哀想で、見るに耐えなかった。

「ごめん」

 そういうと小此木は俯いた。

「前も言ったように、俺は優が好きだ、だから美咲とは付き合えない。でも美咲が嫌いってわけじゃない、今までのまま友達でいたいんだ」

「勝手なこと言わないでよ! 友達でいたい? 私の気持ちはどうしてくれるのよ!」

「俺たちずっと友達だったじゃない?」

「そう思ってるのはタっくんだけでしょう!? 優ちゃんに聞いてみなさいよ、皆に聞いてみなさいよ、タっくんの彼女は私だよ?」

「これはどういう意味だ?」

 小此木に握られた手が更に圧力を感じた。

 しかし美咲から返答は出てこなかった。

 小此木は一度握った手をほどき、屈んで美咲の肩を掴んだ。

「美咲?」

「触らないで! 今すごく自己嫌悪中なの、なにをしでかすか分からない」

 仕方なく小此木は手を引っ込んだが、美咲は再び話し出した。

「ああ、そうよ、全部私が悪いのよ。タっくんと私が付き合い始めたって言いふらしたのも、イブのデートを邪魔して優ちゃんに事故を遭わせたのも、優ちゃんの顔に嫉妬して傷つけたのも全部私だ! こんな最低な私にいっつもいっつも優しくしてくれてどうするつもりなの? 気もないくせに!」

「ごめん」

「こんな最悪な女になってまで私はタっくんが好きなのに、優ちゃんはどうよ? めそめそ泣いてて、被害者ぶって、挙句に気楽な病気にもなって、なんの努力もしてないじゃない!」

「落ち着いて!」

 小此木は興奮する美咲を落ち着かそうと揺らしたが、その声と行動はすでに美咲の心に届いていないようだ。

 かつて見たことある、あの生気の失った円らな瞳、考えるのを諦めた瞳、行き詰って何もかも切り捨てた瞳。

「そうよ、優ちゃんなんかにタっくんは渡さない、そのためにタっくんを騙してここまで連れてきたんだもん。どうせ失ってしまうならいっそうなくなっちゃえばいいんだ」

 最後の言葉は細くて、聞き取れるレベルではなかった。でも美咲の手を見ればすぐにその意味が分かった。

 震えながら地面に落ちてるナイフを拾い、握り締めた――彼女は破滅を望んだのだ。

 これほど面白い修羅場を目撃することはもうないだろう。こんな一途な彼女を小此木はまた無情にも振ってしまったのだ、そしてその因果応報として、美咲は小此木に殺意を立てた。

 俺的にはこの不愉快な事件ももっとも理想的な形で終焉を迎えようとしていた。悪の根源である小此木は自分の振った女の手によって葬り去られる、その彼女もまた俺という目撃者で一生拭えない罪を背負って俺の目から離れて生きていくしかない。

 俺がこの事件の中心と睨んだあの警察どもが事の真実を知ったらどんな顔をするのやら。

 すました顔で小此木の最期を見届けようと決めた俺だが、思いのほか体が言うことを聞かない。

 ――お願い、今度だけは体を返して!

 あの子の声が響いた。次第に全身のコントロールが利かなくなり、俺はまるでマリオネットのごとく体の制御権が奪われた。

 スローモーションを掛けたかのように左手が口元を離れ、小此木を美咲の前から突き放すのが見える。

 ――何をするつもりだ!

 ――辰彦を助けなきゃ!

 ――ばか言え、またこうやって傷つけるのはお前のほうだ!

 ――違う! 傷ついたのは私だけじゃない! 私の弱さで辰彦も、美咲も、家族も、学校のみんなも辛いな想いをさせた! でも私はやっぱり弱いままで、結局自分を傷つけることしかできなくて、こんなことしか辰彦に応えられないの!

 自分の考えと彼女の考えが頭の中で飛び交い、本物の理解者同士として、最初、多分最後に彼女のことを誇らしく思った。

 何が弱いんだよ、自分を傷つけてまで他人を守ろうなんて考えてる奴のどこが弱いんだよ。

 小此木は呆気にとられ、前のめりで倒れた。俺は勢いのままで一歩手前に踏み込んだが、ちょうど突進してる美咲の両手中のナイフを腹で受け止めた。

 もっといい方法でもあったのだろう。分からない。俺はただ集中して、彼女から再び制御権を奪った。痛みくらい、俺が受け止めなければ。

 脇から痛みが広がり、血が流れ出る感覚もした。

 なーんだ、車にひかれたより全然大したことないじゃないか。

「なんだよ、その顔は……」

 ふと顔を上げると、美咲が涙を浮かべながら俺を見つめていた。

「なんでマスクなんか被ってたんだよ、もうとっくに何も残ってないじゃない!」

 そうふらつく美咲の後ろに三人の影が現れ、彼女を拘束した。

「人だから傷も治るもんさ」

 と一人。

「すまん、駆けつけるのが遅かった」

 ともう一人。

 曽我大我と昨日の警察だった。

「やっぱ電波に頼むんじゃなかったわ」

 電波電波言ってんじゃねえ!

「昨日、服に発信機つけといてよかったな」

 なんてマネしやがる? 俺の服に発信機つけただと? こんなの立派なプライベート侵害じゃないか! ていうか死人が出る前に犯罪を止めろってんだ、全く仕事しない税金泥棒め!

 事態が収束に向かい、俺は突如目眩がした、意識を保てそうにない。

 倒れそうなところに小此木が支えてくれた。

 滑稽なことに、今は彼のこの優しさにちっとも嫌がってなかった。

「ごめん! じっとしてて、怪我してるとこ見せて」

 大人しく従って、服をたくし上げた。

 意外とナイフは深いところまで刺さらず、簡単に引っこ抜かれた。痛みもさほど感じなかった。可笑しいかと思ったら、ナイフが体に刺さる前にポケットにしまっといた携帯が一番目の衝撃を受けたらしい。いや、正確に言えば携帯ではなく、携帯ストラップのほうだ。そのちっぽけなハート一枚が、この体を守ってくれたのだ。

 俺は少々絶句した。彼女がそこまでこのストラップを大事にしているのはやはりただならぬ理由があったかもしれない。

 結局美咲の渾身の一撃は俺のかすれ傷で済んだ。これは多分彼女にとっても、俺たちにとっても幸運なことと言える。

 しかし俺にとって今一番重要なことは美咲を糾弾することでも、小此木の失踪事件に関する疑惑を晴らすことでもなく、早くマスクを付けて自我を維持することだ。

「良かった。美咲が手を離してナイフが優に刺さってるとこを目にしたときは心臓が止まると思った」

 だがこいつが抱き付いて、俺は一歩も動かない状態に陥った。

 よく考えたら先から小此木の様子が変だ。俺の正体はすでにばれたはずなのに、彼はそのことをちっとも気にしていないようだ。

 美咲の言葉もなんか引っかかる。顔に何も残ってないとはどういうことだ。

 小此木は力を少しだけ弛めた。そしたら俺の肩を掴んで、顔を正面から見据えた。彼の手が頬に触れた。恋人の感触を確かめているように。

 おかしい、いつものような、顔の上にべったりと張り付いたようなあのおぞましい傷跡の感覚がない。毎日鏡で見た、自分の手で触ったあの傷跡が綺麗さっぱり消えてなくなっている。

 ――多重人格の患者は、現実逃避のために目に見たもの、耳に聞いたもの、その情報を自分の都合で改ざん、加工することもありうる。

 あれは全部俺自身がでっち上げた嘘というのか!?

 そういえば曽我もこの顔を見て特に変わった様子はなかった。それにこの前あれは全部嘘だとか言ってた。傷のことを指しているのか? やっぱり俺は自分の存在を正当化させるために、わざわざこんなひどい嘘を自分に聞かせ続けてきたのか?

 今まで明確な目標を持って、綿密な思考で行動してきたこの俺自身が、実はゴールするまでの一番大きな障害だった。

 曽我の言う通り、あの子は小此木が好きだ、そしてもしかすると小此木もまんざらじゃないかもしれない。俺はただの邪魔ものだ。

 そうと悟った自分は意外と開き直るのも早かった。

 意識が完全に淵に沈みこむ前に、しっかりと小此木に伝えなければ。

「あの子のこと、頼んだぞ」

 最後に見た小此木の顔もまだ間抜けで、優柔不断で、頼りなかったけれど、個人の感情を置いといて客観的に見れば、確実にあの子を思ってくれている。

 今はそれでいいや。俺の存在は邪魔になるだけだ。





「それにしても驚きましたよ、多重人格になるトリガーが自己暗示だったとは。マスクを掛けることで催眠術と似たよう効果を発揮していたね」

「じゃもっと早くマスクを取り外せばよかったんですか?」

「そうでも限りませんよ。もともとこれはかなり深層的な心理障害が原因でなった病気です。その心理障害のトリックが分からないまま無理矢理マスクを外しても効果はないと私は思いますよ。むしろ逆効果だってあり得ます。きっとなんかとてもいいことがあったんでしょうね」

「はあ……」

 石原先生が笑うと、父さんはため息を吐いた。彼はいまだに私が辰彦と一緒に帰宅したことに根を持ってるらしい。

 再び心理カウンセリングしに来たのは家族旅行が水流しになってから二日後。久々の家族団欒イベントが没にされたが、その企画の主旨を考えると、やはり父さんも母さんも私が今の自分に戻れたことに喜んでくれた。

 病院を出てすぐ近くの駅に辰彦が待ってくれた。折角東京に来たから時間いっぱいになるまで遊ぼうと約束したから。父さんはいまだに辰彦のことを信用していないらしく、説教しながら病院の前で私たちと分かれた。

 後で知ったけど、私が入院中は父さんがずっと辰彦の面会を拒絶した。病室の前に小此木と犬立ち入り禁止と書いた紙を貼ったことも一時あった。今となっては父さんらしいとしか思えなくなってしまう。

「お医者さんになんて言われた?」

 歩きながら、辰彦は私の手を取った。

「もう全然大丈夫って。あっ、でも風邪とか、花粉の季節とか、また彼が戻ってくるかもしれないって」

「誰?」

 眉を寄せ、頭を傾いだ辰彦を見るとついくすくすと笑ってしまう。

「なーんでもない。ああ、なんか長ーい夢を見た気がした」

 入院中に彼が話しかけてきて、そしてあの夜再び私を呼び覚ましてまでの間、自分の身に一体何かが起こったのか今もよく思い出せない。本当に夢のように、気が付いたら辰彦が傍に居て、そして顔の傷も治っていた。

「そうだな、きっと皆驚くぜ、あの変な子どこへ行っちまったんだろうなって」

「でも今思っててなんか怖い。私、辰彦のこと本当に傷つけようとしてたんだな」

 約束をすっぽかして、早朝の病院に忍び込んで、嵐の中に喧嘩までして。これも全部辰彦から聞いた話だ。

「それは、多分違う。優は優なりに、俺の注意を引こうとしてたんじゃないかなと思う、なんかすごくはずい発言だけど。あでも、優がモデルガンを向けてきたときは本当にびっくりした、しかも発砲したよ? 彼氏に向かって」

 あの頃の彼(自分)はいったいどんな思いで辰彦に決闘まで申し込んだのか、私にはさっぱり理解できなかった。同じ脳を使っていたはずなのに、こんなにも考えが違えてしまい、それとも孤独な入院生活で最初の約束を忘れたのか、学校に戻れて嬉しすぎたのか、或いはやはりあれは自分の深層心理なのか。若しくは辰彦の言われた通り、ただ私は彼の注意を引きたかっただけかもしれない。

 何かとても大切な約束を忘れた気もしたが、どんなに頑張っても思い出せない。記憶の砂海に沈んだ宝石のように、掘り返しても掘り返しても、手にするものはただの砂だった。

 駅に入って列車を待ってる間、ぽつりと美咲のことを聞いた。

 駅構内が騒がしくて私の声が届かなかったのか、それとも辰彦は聞こえないふりをしたのか、気まずい沈黙が訪れた。

 あの日、陶山さんが私の肩につけた発信機を頼りに現場まで美咲を連れ去ってから、二度と彼女と会うことはなかった。彼女が自分の亡くなった祖父母の家に辰彦を監禁して、私が自ら辰彦の傍から離れるのを待った、と後から陶山さんから連絡はあったけど、どうしても実感が湧かなかった。今更美咲を味方にすることはできない、でも、もし私が自分にもっと誠実になれたらきっと彼女にも違う未来が待ってたはずだと、私は思う。

「大丈夫、あいつは強いから」

 辰彦に握られた手からいつもより熱が伝わってきた。

 電車が来て、辰彦と一緒に左足で踏み込んだ。

 美咲みたいに真っ直ぐに生きることは私にはできない。でも、これから先も、例え辛いことがあっても逃げずに、たまには傷ついたり、たまには傷つけたり、私は生きて行こうと思う。

 彼(あの人)に感謝を込めて。

 私は、少しだけ強くなれた気がした。

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