凍慈と雪月花
凍慈と瓜二つの青年は騎馬から降り、凍慈に向かって歩き出す。
「(あかん、誰やこいつ……)」
凍慈は内心焦るしかない。記憶の片隅にもないのだから。
「……やはり、喋るのも嫌か。まぁ、そうだろうな」
「雪月花騎士団長!!」
ようやくご都合主義のムービーがスタートし、一番安堵したのは間違いなく凍慈だろう。
[団長が、、二人……?]
背後から雪だまが凍慈目掛けていくつか飛んで来たが、それを雪月花と呼ばれた騎士が叩き落とす。
[フェンリル様が暴れだしたのも、その疫病神が帰って来たからにちがいない!!]
[長老、まだそのような事を……]
[はいはい。双子の疫病神はさっさと去るとしますかね]
[待て!待ってくれ。11年ぶりなんだ。少しくらい話をしよう]
[俺は、話すことはない]
くるっと背中を向けた瞬間。
ムービーが終わる。
なんとも言えない空気が場を支配する。
「双子の弟は不吉。そんなのはこの村にしか存在しない話だ。もう、村の者も薄々わかっている……」
アイスランドへと踏み込もうとした凍慈の足が止まる。
「だから…」
「でも、村は俺を追い出した。6歳過ぎたくらいの子供を、極寒の地に放り出した」
簡易キャンプセットをぽんと出して、焚き火の前に座って手を振る凍慈。
「俺は、ここで待つ。準備が終わったらまた話しかけてくれ」
【凍慈がパーティーから一時離脱しました】のテロップ。
そして
【氷狼に祝福されしサファイアの騎士・雪月花】のテロップが。
凍慈は混乱しているのはなんとなくわかった。
だって、今まで勝手に話し出すのは俺だけだと思っていたから。
「ねぇ、ちょっとだけお兄さん?から話聞こうよ」
アリアの言葉に促されるように、少し離れた雪月花の元へ。
「凍慈がクリスタルの戦士に選ばれたのか」
「はい」
リアが凍慈と雪月花を交互に見ながら…、再び視線を雪月花へ。
「……騎士関連では君たちを見掛けなかったけど、アイスランドなら仕方ないね」
「確か、自国民のみの学校に入って、、だったか…」
ガルーダの言葉に、雪月花は肩をすくめた。
「閉鎖的な国ですから」
「あの、凍慈とは…何が?」
「…少しだけ長い話になる。私の家にいらして下さい」
雪に覆われた街を歩く。
今まで来た街とは違い、人通りも活気も少し鳴りをひそめ、シゲ達をみる目はやや冷ややかだ。
「……フェンリル様が姿をお見せにならないというのに」
年配者がひそひそと何か話す声が聞こえる道をしばらく歩くと、街を少し見下ろす小高い場所の家に。
室内は外とは違い、暖炉の炎が室内を暖めていた
「(あ、、ここ街の出入口が見えるのか)」
窓の外からは街の外のキャンプの火もよく見える
そうこうしているうちに暖かい飲み物が机に並び、勧められるまま椅子へ。
「何から話すか悩みますが…」
━この村には言い伝えがあった━
━双子は厄災であると━
[凍慈、二人で逃げよう!]
先に産まれし双子はフェンリルの騎士に選ばれる存在であり
後に産まれし双子は嫉妬からその力の半分を奪う存在
7歳を迎える前に殺さねば
愛しい子に危害を加えし者を保護する全ては
フェンリルの怒りを買うだろう
[…ダメだよ、そんな事をしたらフェンリル様が]
そっくりな顔の二人の少年
一人は外に、一人は家の中に
[凍慈は鍵開け、得意だろ?]
うん、と頷いた……、家の中にいるのは凍慈だ
[今夜、みんなが寝静まったら村の入り口で待ち合わせだ。鍵を開けて、逃げよう]
[雪月花は、騎士に選ばれる愛し子だよ、そんな事したら…]
[16歳になったら国に戻れば良い、、そしたらみんな、わかってくれる!!]
幼い子供の安易な考えと言われればその通りだが、二人にはそれが最善の方法だと思った
[…………わかった、任せて]
鍵を開けて脱出し、村の入り口で姿を隠す凍慈
しかし、待てども兄の雪月花がその約束を果たすことはなかった
[兄はお前を見捨てると我々に言って、逃げ出す計画も話したぞ]
松明を手にした大人が凍慈を取り囲んだそうだ
[そんな事ない!!]
[なら、何故兄は現れない?]
凍慈の視線は、、遥か先の雪月花のいる家へ……
[自分から力を“強奪”する者を……、誰が助けようと思うのか]
その時の凍慈はどんなに悲しい気持ちになっただろうな、と、雪月花は家の窓から村の入り口の凍慈を見つめる
[あの日の会話は長老に筒抜けだった]
あの家に見張りがいることくらい、今ならわかる…
[私は捕えられ、翌朝…凍慈はフェンリル様の生け贄になったと聞かされた]
少し考えれば違うとわかったのだが、と悲しそうに呟く
[村から凍慈がどうやって逃げ、今日まで生き延びたのか……。私には想像する事も出来ない]
その言葉に反応するように、シゲの口が自然と開く
[凍慈が……、村に来た日を僕は覚えているよ]
そして、その言葉に…雪月花は目を輝かせた…
[勇者の…村に?]
[僕が7歳の時だから、凍慈が村を出て3年は経っているけど…]
[聞かせて欲しい]
[…………強盗団の、一員だった。一番したっぱだったらしい]
握りしめられた手が、ぎゅっと音を立てた
幼い子供の生き延びる為の行く末は、美しい世界ではない事は覚悟していた
[強盗団は壊滅したらしくて。そのあたりの話はあまりしてくれないからわからないけれど…]
兎に角、どこからか逃げて来て、ルビーの村に来た時は大怪我をしていた
[あ、そうだ。私が治したんだった]
幼いながらも貴重な回復魔法が使えたアリアが大怪我の治療を
凍慈は傷が癒えてからしばらく、ルビーの村で過ごした
[当時、ルビーの騎士と村長と何か話し合いをしたのは知ってるけれど、内容までは知らないんだ]
だけど、ほどなくして…
ルビーの村の狩人の家族の一員として迎えられた
[…………ルビーの村で、凍慈は、笑っていましたか?]
[うん。少なくとも…辛いことはなかったと思う]
「そうか。この国のような寒い思いばかりではかったか……。良かった…」
ニコッと笑った雪月花の瞳は少しだけ潤んでいた
「(勝手に話す事が…、助かるなと思う事があるんだな…)」
それは、理不尽な記憶だけれど…
雪月花にとっては……そう思うと、何も言えない気持ちになった……




