クリスタルの騎士になる前に 後編
「あの二人が……天空の騎士……」
マウィーとセピアは学年が違うからか、、その後はたまにみかけたり、たまに会話があったり。
リアはたまにオルイルの嫌がらせから守ったり。そんな距離感だった。
「はぁ。気が滅入るよ」
「何故?」
「もう少しで満月祭だからさ。僕がちびっこの相手をしなきゃならない」
優秀な卒業生は次代の騎士の特別授業の手伝いに駆り出される
卒業して2年。リアとガルーダも例外ではなかった
「マウィーと……あれ?セピアじゃないのか」
手渡された、たった2名だけの名前
「……ジェダ・アウゼンハイド、、確か……まだ9歳のはず…」
マウィーが最後の学年でやって来たのは、桁の外れた男だった
本来ならば新年生でもおかしくはない年齢の少年
「武術試験、教官が手も足も出なかったらしいよ」
現オーディンの騎士であり最強名高いアザリアス・オルブラッドの紹介状。
しかも、既にバハムートの騎士として選ばれ、最年少で皇国の将軍に。既に邪神復活阻止の活動までしている皇国の皇太子だという。
「座学は全学年分のテストを受け、全てマウィーと数点程の差だとか」
「肩書きが違いすぎる~」
久しぶりの学舎を歩けば、リア様~と後輩からの黄色い声が上がる。
ニコッと張り付いたような微笑みを向けると、はーいと手をあげて。
「それでも、座学はマウィー殿の方が歴代トップのままらしいぞ」
「あはは、皇国のダイアモンドも大したことないね」
そう軽口を叩いたリアだったが、、ジェダと初顔合わせの時は警戒した猫のように、全身の毛を逆立たせたのではないかというほどだった。
「……僕、苦手」
「そう言うと思ったわ」
マウィーは肩をすくめる
どこか、、表情はかたく、、そして浮かない顔をしていた。
「何かあった?」
夕食を取る中、、ポツリと「妹と、ケンカしたの」と。
「……あー、、あのわがままな」
この時のニャウィーは…、騎士見習い達から……あまり良い評価はなかった。
「素直でとても良い娘なのよ、、まだ幼いし…」
度々学校へ来てはマウィーにワガママを言って困らせる姿は……騎士見習い達からは顰蹙物だったからだ。
「騎士にならない人に、騎士になろうとしている人の気持ちはわからない。君の妹も…、学校に来ないなら一生その機会はないよ」
今でも覚えている
「…………妹がいるのか」
はじめてジェダが輪に入って来た時の事を
「ええ。ちょっと甘えたで。ちょうど、、貴方くらいよ」
「この世界は、騎士に重きを置きすぎている」
そしてその言葉は、、衝撃的だった
「子供が子供でいられないのは、おかしな話だ」
「邪神が復活した今、生まれたての赤子ですら赤子ではいられないんだよ」
リアは、、少しだけ語気を強めた
生まれた瞬間から、勇者と旅に出る運命のリアからすれば…
騎士を軽んじる全てが敵と等しかった
隣で頷くガルーダと、、その二人を碧い瞳は静かに見つめた
「……なりたい者となりたくない者となれない者。全てを同率に語る事の方が、俺からすれば残酷な話だと思う」
「貴方、本当に9歳?」
そうして、クスッと笑ったマウィー
ジェダはそのまま「よく言われる」とだけ言葉を残してその場を去って行った。
その日から、次代の騎士達の考えは……ほんの少しだけ、、違う方へと進みだした。認識しない程の小さな小さな一歩だ。
「……同じじゃなくて、良い?」
次代の勇者だと期待されるジェダ
クリスタルの騎士になるべくして産まれたリア
クリスタルの騎士になる為に努力するガルーダとセピア
宝玉の騎士に選ばれるのは本家で、騎士にすらなることはないと言われるマウィー
「……あのさ」
空を見上げる
ここからでは…美しい満月は遥か彼方だ
「??」
「満月祭、来ない?」
合宿の最後の授業が終わった時、、門外不出の満月祭にリアが招待したのは……
ほんの些細な歯車の一つだったのかも知れない
「……祭」
「そう、、明日なんだけど、今から行けば間にあうよ」
マウィーと勉強の約束をしていたセピアと…その場に居たのその数人のみ。
「……祭か」
マウィーとジェダは、少しだけ興味がありそうな感じだったが、どうも煮え切らない。
「満月祭の、最後の夜に…。焚き火の前で子供たちが夢を語るんだ」
天に最も近い国からの祈りは……
「マナの女神様が、聞き届けてくれる。そんな伝承があるんだ」
ジェダとマウィーの二人は、、手元の教科書へと視線を落とした
明日の自主学習は、確実に休む事になる
「我がウイングバードには…、こんな言葉がある」
「?」
「向かい風が強い日は、逆を向いて飛べば良い」
その言葉に、、ジェダの目は驚き真ん丸になったのだ。
セピアはどうもツボに入ったのか……、笑うのをこらえていた
「そうすれば、追い風にのれるだろう。すなわち今日は、前に飛ばなくても良い日と言うことだ」
「そう」
マウィーは、、教科書をその場にそっと置いた。
「私だって、、ほんとはお祭りにいきたい!!」
そして、ジェダもまた……教科書と槍を副官に押し付けた。
「そうだな、、それくらい参加しても……怒られはしないさ」
少しだけ子供に戻って……、騎士見習いだということは脇に置いて。祭りに参加した全員の顔には笑顔が溢れた。
あの日の祭の夜、、満月に誓った夢がある
「………僕たちで、世界をまたに駆け、邪神の企みを阻止しよう」
真っ白の本を取り出して、、旅をしたらここに日記を書き溜めるんだと目を輝かせるリア。
「タイトルは決まっているのか?」
「んー。まだかな。旅を終えた時に、、書ける気がするんだ…」
勇者はマウィーかジェダ
僕らは君たちをささえるクリスタルの騎士
「そして僕は、龍神王に選ばれて、後世まで武勇伝を語るんだ」
歌のように紡がれるリアの美しい声は、殺伐としていた騎士見習いたちの心を癒した
それからの……時の流れは残酷で、、夢見る騎士見習い達は……子供から大人へと進んでいく
「武術大会、“ジェダ殿”は大人の部で優勝か」
武術大会で久しぶりに再開した親友は、どこか別人に見えた
「優勝トロフィー受けとる人のセリフ?」
帰り道、、少し先を歩くガルーダは……
もう、騎士の任命式が目前だった
「…………ねぇ、ガルーダ」
そっと耳の上を触る。
神獣は気まぐれだ。“僕以外”の宝玉の騎士見習いたちは任命式で引き継がれるまでは気が抜けない…。
「どうかしたか?」
けれど…ガルーダが騎士に任命されるのは、、もう止めようがないだろう……。
「なんでもないよ。マウィー、選ばれて良かったね」
「マウィー殿が選ばれなければ、宝玉の騎士になれるものはいないだろうな」
満月のピアスが……
風に靡く……
「(いつの間にか……殿を付けるようになった……)」
まるで、聖騎士のように……
「勇者は、いつ現れるんだろうか。せめて、“私たち”が騎士に選ばれてからなら良いが…」
もう、“俺”とは言わないんだね、ガルーダ…
「“リア殿”とクリスタルの騎士になれたら…、リア殿?」
そうだね、と、笑って相槌を……
クリスタルの騎士に、その言葉は重たくのし掛かり、そっと耳の上を触っては角を確認する…
「(僕は……、、本当にクリスタルの騎士になりたいんだろうか……)」
あの日のジェダの言葉は忘れる事が出来なかった……
「(僕のかわりになりたい人が選ばれたら良いのに……。そんな事を言ったら、君はガッカリするだろうか…)」
長年の親友の背中は……
いつの間にかとても遠くて………
「(君が、選ばれなければ良いのに………)」
あの日、踏み出した一歩は………
今ふりかえると……だれもいない道だった……
「(ああ、、勇者なんて………現れなければ良いのに……)」
━━━そして、満月の都は…その重たい扉を閉ざした━━━
遡ること数年前
一つの事件がアイスランドを揺らした
しかし、ほんの些細な事だったかのように、、吹雪と消えた
そして、、時を同じくした春
「長いお勤め、ありがとうございました。王弟陛下」
13年という長い騎士生活。
邪神復活で騎士がなくっていく中、無事に引退式を執り行われた、フェンリルの騎士。
「……次代の騎士は、選ばれるには最低あと4年程か」
甲冑を脇に抱え、冷え冷えとした廊下を歩く騎士
「本当は、引き継ぎまで過ごせれば良かったのだが…。私も……国が心配でな」
「いえ!3年も延長していただいたと聞きます!ありがとうございました」
「……銀髪か」
我が国の銀竜は今回は選ばなかった
「(兄上がいなければ……、、私だったのだろうか…)」
金色の髪が冷たい風に靡く
「銀の髪が…、どうかされましたか?」
「いや、かの神獣には好まれる色だと思ってな」
そういえば、、選ばれたあの子は…甥っ子と同い年だった
そんな事を思い出しながら次代の騎士へと向き直る
「私から、次代の騎士へ言葉を贈る」
銀髪の少年はビシッと背筋を正した
「世界を見ろ」
天衣無縫の騎士はその美しい顔を穏やかに崩して微笑んでみせる
「……え?」
ピぃ~っと指笛を鳴らし、甲冑をかぶると、何かを投げて渡した
「双子が不吉だなんてのは初耳だ。世界を見た方が良いぞ。視野が狭いのは吹雪の中だけで十分だ」
巨大な飛龍に股がる
「我が国の騎士の安全を願うお守りさ。無事に任期を全うする祈りの、な。私にはもう必要ないからな」
次代の騎士へと未来を託し飛び去った…
「世界を……、、そうか、、」
南へと姿を消すまで、、その視線が切れる事はなかった…
「なら……どこかで会えるだろうか……、、凍慈」




