満月の騎士とルナ 中編
少し進んだ先にある休憩場所で、全員が腰をおろした。
「満月祭の、あまりだけど」
並べられた【満月祭セット】というテロップ。
「ここに来て初のスイーツ!」
出来立ての抹茶と、みたらし団子といちご大福と丸い水羊羹。
「………丸は良いよね、満月みたいで」
そう言って食べるリア…。
「僕は、勇者にマウィーかジェダが選ばれると思ってた」
うん。。まぁ、そうだよね。
俺ももし騎士だったらそう思うよ。
「………世界をまたに駆け、邪神の企みを阻止しよう。そう言っていたのは…、リア。君だ」
ガルーダの少しだけ強く発された言葉に、リアは少しだけ笑って。
「何も見えてなかった子供の戯れ言さ」
「そんな事……」
「龍神王に選ばれて、後世まで武勇伝を語るんだ、、その言葉はどこへ?」
再び、リアは耳の上をすっと触る。
「君たちとの旅はきっと、楽しい旅になるだろうね」
にこりと笑う。
その瞳は遥か彼方、満月を見つめていた。
お世辞じゃない、きっとそれが彼の本音だ。
この世界を少しだけ見て来たからわかる。
彼等彼女等にとって、【クリスタルの騎士】がどれほどの名誉であるかを。
「クリスタルの騎士に、、リア。君だってなりたいんじゃないの?」
シゲの問いに一度だけ下を向いて…。
「後世にまで語る僕の話に、子供たちは目を輝かせる」
両手で本のようなものを手で開く動作をしてみせる。
「それは、どんなお話なの?次代の月の子が目を輝かせて輪を作る。そして僕は…その輪の中心で話しはじめる」
この星の子供は誰もが幼少期に読み聞かされ、そして読む、勇者の物語。
「紆余曲折、邪神退治を果たす勇者一行の旅の話を、いずれ来る次の次代のクリスタルの騎士達は夢に見る」
隙間から差し込む月明かりに照らされるリアから、誰も目が離せない。
「50年、100年、150年、200年。紡がれし物語は時を越えるだろう」
昔話は夢物語になり、伝承となり、そして新たな勇者達の道標に…。
リアの話す優しい声音に乗せられて、目の前に壮大な景色が浮かぶようだった。
ああ、やっぱり、リア…、君はクリスタルの騎士に…。
そう思った瞬間だった。
ふわっと笑ったリアの美しい切れ長の瞳は伏せられ、見えない本はゆっくりと閉じられた。
「その楽しい思い出を胸に、君たちは僕より先に死ぬんだ」
2倍以上の寿命に課せられる、【後世への語り部】としての役目の残酷さに、、物語から一気に現実へ。
「君たちは居なくなる。僕よりも必ず先に。残った僕は?」
その色褪せない思い出を。
様々な苦楽を仲間と乗り越え、邪神を倒す英雄譚を紡ぎ続ける。
「100年以上……、君たちの話をし続ける。その寂しさや辛さは、長老を見てるからわかる」
時折、、長老は遠くを見る。
月明かりに照らされ、、少しだけ寂しげに。
オリジナルの物語を胸に抱いて
「そんな事、僕はしたくない」
食事効果が発動しなかった事よりも……
リアのその言葉の重さに……
誰も何も言えなかった
「………ルナ。聖女が来たよ、、もう、安心して」
リアの髪と同じ琥珀色の巨大な宝玉から、月の色をした髪の女性がふわっと姿を見せる。
誰もが一目でわかる、ヒビだらけの宝玉。
『…××』
「すぐに強化します」
すっとアリアが祈りを捧げようとした、その手の上にルナが手を置いて首を降った。
「………ルナ、、お願いだ。諦めちゃダメだよ、、」
直後。ピシッと音が鳴る。そして宝玉全体のヒビから欠片が剥がれ落ち、床にカンカンと音を立てて崩れはじめる。
「ごめんなさい……。私なんかじゃなく、、マナの女神様だったら…」
アリアの言葉に、、リアが小さく首を降った。
「………君は、役目を全うしてる」
すっとリアは手を出す。
「わかってたんだ。ルナが宝玉から出たら…、、崩れるって」
そして、また笑った。
「クリスタルを」
リア、君は、、心がしんどい時に笑うんだな……
「宝玉を、修復します」
その声と同時にムービーが入る。
[リアさん。これを]
アリアからリアに手渡されたクリスタルが琥珀色に輝く。
髪の色と、、そして少しだけ髪の隙間から見える角と。
[私、ルビーの聖女はマナの代理人となり、宝玉の修復を行う]
ヒビだらけのシトリンの宝玉が、リアの手の中のクリスタルと共鳴しはじめ、そして一気にヒビは修復されていく。
[聖女アリア、お役目ご苦労様]
そう言ったリアの元にルナがふわりと近寄る。
[わたくしは、シトリンを守護する神獣・ルナ]
美しい女性の神獣がリアの手からクリスタルを受けとる。
[まだ、騎士候補は他の地に居るわ]
[クリスタルが、輝かない]
琥珀色のクリスタルは、、純度を保ったまま。
[……申し訳ない]
本当になりたいと思わない者に、、例え条件を満たしたとしてもクリスタルは輝かない。
[僕は、、決心が付かない……]
長老の家に案内され、シトリンの宝玉の報告を。
そして一旦解散となった。
「リア」
「これで良かった。ガルーダが居るんだ、大丈夫」
街へと向かうシゲたちの背を見つめるリアは、自分に言い聞かせるように呟いた。
「さ、満月祭の準備の仕上げを…」
「胸に手を当てなさい」
アルヴィーのその言葉に、、リアは完全に固まった。
「150年前に、クリスタルの騎士になる事を恐れた私に、、勇者はこう言ったわ」
リアの震える手が、そっと胸に添えられる
「“今日の自分を越えられるのは、明日の自分しかいない”」
「長老は、、一度も後悔しませんでしたか?」
「行かなかった事を後悔する事の方が、とても辛いわ」
その瞳は真っ直ぐにリアを見つめた。
「寂しくは…、ありませんでしたか?」
すっと差し出された古びた日記。
それは、いつもアルヴィーが手元に置いているものだ。
「寂しくなんてないわ。だって、彼らとはいつだって、私の物語で会えるのだから」
もう、リアはその場にはいなかった
「あなたが踏み出した明日への一歩を、私は応援しているわ」
少し離れた場所で、光が空へと登った…




