外伝・ことばのちから
「鍵を返しに行く。すぐ戻る」
フードを目ぶかにかぶり、再びジェダがアトランティスへと降り立ったその日。
「(騒がしい……。タイミングが悪かったか?)」
王の間へと入って行く二人組。
そっと柱の影へと身を隠す。
「……まずは勇者一行への尽力、感謝する」
その言葉はニャウィーのみへと向けられた。
ニャウィーは小首を少し傾げ、、そのあとの言葉を待った。
「エント復興は大変であろうが……」
「…………この国の王さまは」
しかし、ニャウィーは先の言葉を紡がせはしなかった。
「感謝の一つ、まともに出来ないのかにゃ?」
柱の影に隠れていたジェダですら、肝が冷えるその一言。
その場にいたアトランティスの民は、、腰を抜かしたのではないだろうか。
「……感謝の言葉が足りなかった、申し訳……」
「私にじゃない」
ニャウィーはついに、、むっと眉間にシワをよせた。
彼女の人生で、はじめて家族以外に怒った瞬間だったかも知れない。
「一番、、貢献した人物への感謝がどこにもないニャ」
トリトルはその言葉に、、すっと下を向いた。
そして、ネプチューンの視線もまた、、トリトルへと移動した。
「エントの民は、トリトルに感謝しているニャ。騎士である私ではなく。エントを救った“勇者トリトル”に!」
「……もう、良いんだニャウィー。ありがとう」
「もう!全然良くないニャ!」
私が誉められる為に来たんじゃない!
「騎士の教えなんて、大嫌いだにゃ!!」
「……!!!」
そのせいで、マウィーはっ!そう怒鳴ったのか、留めたのか。
もうそんな事はどうでも良い。
「誰も、人の心の声は聞こえないニャ」
その言葉に、、ネプチューンは一度だけ顔を手で覆った。
「だから、声に出すしかないの!」
その一言は、、トリトルにもネプチューンにも響く一言だった。
そして、それはまた…ニャウィー自身にも…。
「……トリトル。此度の働き、大義であった」
その一言は、、いったい…いつ以来だっただろうか。
「褒美を取らす。何なりと言うと良い」
「何でも、良いのですか?」
「ああ、何でも良い」
「ならば父上…」
周囲の側近たちも、、手を握り“がんばれ”とトリトルを心の中で応援する。
「これからは…、、私の働きに……、一言だけ感想を下さい」
「……わかった」
ニャウィーはまだ不服そうだが、、それでも、、はにかんで笑うトリトルを見て「まぁ、これくらいで許してやるニャ」と呟く。
「トリトル。お前は、私の…いや、アトランティスの誇りだ」
ニャウィーの口から“勇者トリトル”の名前が出た時、どれ程誇らしく嬉しい気持ちになったか。
「言わなくとも伝わっているという私の傲慢を、、許して欲しい」
再び、ニャウィーの顔はいつものふわふわした笑顔に。
「私、エントに帰るニャ」
「…………仕方ないから、近くまで送ってやるよ」
「…ニャ!?きゅんだニャ!」
バカ、と言ってオルヘ隊に股がる。
「なんか、悪かったな。ありがと」
跳び跳ねて喜ぶはずのその言葉は……ニャウィーの中で少しだけ、、影を落とした…
「私もね、人の事、偉そうに言えないにゃ……」
「……」
今でも、、マウィーとはじめて大喧嘩した時の事は覚えている
「マウィーのバカ!嘘つき!そんな授業1つサボったって良いじない!!」
唯一、マウィーが遊んでくれる時間に、追加の授業が入ったと言われた瞬間だった
「……優遇された貴女にそんな軽い言葉、言われたくないわ!!」
その時ニャウィーは9歳と幼かったが、それでも…わからないほど…子供ではなかった
「嘘つきマウィーなんて、、大嫌いだにゃ!!」
「そう。なら、もう知らない」
「あー、騎士学校ね。そっか、ニャウィーの名前なんか聞いた事あると思ったんだよ。歴代最高点を叩き出した主席で有名なマウィーの妹だったんだ」
「うん……」
「あのジェダを差し置いて主席だろ?凄いよなぁ」
「やっぱり、、そうなんだね」
騎士に会うたびに皆が口にする一文がある
━━あのマウィーの妹なんだ━━と
「宝玉の騎士の筆頭が、バハムートの騎士からって決まりがなければ……、みんながマウィーが筆頭だったって言ってる」
今なら…その言葉の凄さがわかる。
私も本当はあの日…、、「凄いね!」と言えば良かった。
「あの日は…マウィーの誕生日だったの」
頑張ってケーキを作って、、晩御飯の準備も整えて。
「サプライズしよう!って…」
「追加授業って、、あ、、合宿か…」
「……そう。だから、頑張ってね!でも、誕生日おめでとうだよ!差し入れは持ってったらダメ?そう、言えば良かったの」
でもね、やっぱり私は……子供だった。
「頑張ったのに!喜ばせたかったのに!嘘つき!そんな言葉しか言えない、最低で自分勝手な妹なんだにゃ」
オルヘ隊は凄いスピードでエントへと向かう
顔に受ける風と水飛沫と、溢れる涙と
「……あー、もー、バッカだなぁ」
あのネプチューンにあんな事を言いのけたニャウィーが、、姉には遠慮する姿はどこか、、自分と重なる。
「付き合ってやるよ」
「?」
「城塞都市まで」
「??」
「まずは謝ってみろよ。そんで、それでダメならまたどうするか一緒に考えてやるから」
「うん、、ありがと」
二人が立ち去ったあと、再び王の間は人払いをされた。
「……あれが、、ドリアードの騎士か」
「例の物は?」
「勇者に、託した」
ネプチューンはほっと胸を撫で下ろす。
「エント、城塞都市、ウィングバードへの襲撃が皇国正規軍とは、本当か?」
「…………そのようだ。我が国の宝玉とエントの宝玉が壊されず、強化されていて良かった。でなければ……エントは助からなかっただろう」
その言葉に、ジェダの心は揺れた。
シゲとの会話で、心の準備はしたつもりだった。
父が軍を動かしていている事実を……。
そして、いくつもの国を滅ぼさんとしている事実を……。
偶然、強化された宝玉の力を携えたトリトルがエントに居なかったら…。
「(もし、彼と彼女、そのどちらか一人でも…クリスタルの騎士に選ばれていたら)」
一つの国は歴史から姿を消す事になっただろう
「……これも、マナの女神の思し召しであろう。二人が“選ばれなかった”意味はあったのだ」
ならば、自分も責務を果たさねばならない
「我も、、父上と…対話します」
あの、素晴らしい治世者だった父上が理由もなくこんな事をするはずがない…。
「フアン……、、どうして変わってしまったのか」
ジェダから出た「父上」という単語に反応するように、小さくネプチューンが呟く
『ハンネ。国とはあれば良いのではない。民がいなければ国は国足り得ない。そしてその国を守るだけが全てではない。12の国の民全てが大切な役割を持っている。人とは全て等しく尊い』
また、ジェダも、幼き頃の父の言葉が脳裏を去来する
「まずは、、アザリアスと話をした方が良いかも知れんな」
「御意に」
その瞳はもう、【宵闇の国・オルブラッド】へと向いていた。




