ジェダ・ハンネ・アウゼンハイド EP1.5
━━皇国・アウゼンハイドと宵闇・オルブラッド国境砦━━
西の空の一部が不自然に黒く染まる
その存在は……国境警備、及び新たな任が先ほど舞い込んだジェダ隊に激震が走った
「アルディン副官。アジ・ダハーカです」
望遠鏡を手にした見張りが慌てて降りてきた。
「ま、まさか、ジェダ様の動きが……?」
「……いや、バレたとは思いにくい。恐らく、何かあったのだろう」
そう言って振り返った先の指揮官が座る場所は……
「………マズイな」
「ジェダ様はアトランティスへ向かわれ、恐らくそのまま…」
「なんとか、誤魔化すしかない……」
ズシンという音と共に、駐屯している拠点が揺れる……
「……ジェファン王弟殿下」
【ジェファン・オル・アウゼンハイド】
美しく透き通る金色の髪に、深海のように深い碧の瞳
5000の兵士が頭を垂れ、皇国の王弟に挨拶を。
「我が愛しの甥っ子は出迎えなしか?」
ジェダに雰囲気のよく似た王弟は、周りを少し見渡す。
「は。申し訳ございません。今朝がた討伐へと向かわれてしまい…」
「……アルディン」
そのままジェファンは副官へと視線を移動させる
「呼び戻せ」
碧い瞳が副官を見下ろす。
『わかっているな、ジェファンよ。もし、ここに居ないなら、もろとも消せ』
アジ・ダハーカの唸り声が響く中、アルディンの背中にはおびただしい汗が流れる。
「ジェファン王弟殿下がいらっしゃるとわかっておりましたら、ジェダ様も討伐へは向かわれなかったかと」
「聞こえなかったか?今すぐ、呼び戻せ」
淡々と響く低く冷たい声は、全員の心臓を一瞬止めた
「今、使いを出します」
「その使いは、果たして帰って来るのか見物だな」
そう言いながら、アジ・ダハーカの鞍から剣を引き抜き、小さな溜め息を一つ。
「……いくら可愛い甥っ子といえど、皇国に仇なすならば始末せねばならない。わかるな?アルディン」
頭を垂れたまま、アルディンは頭をあげられない
『待っている程、俺様は暇ではないぞ』
「まぁまぁ。しかし、皇国の皇太子が、一人で討伐へ?」
ふむ、と一拍考える。
「(まずい……)」
そして……あり得ないな、と呟き……、小さく「残念だ」と。
「叔父上」
透き通る声が背後から響く
「我が隊に何用か」
グルルっとアジ・ダハーカが喉を鳴らし、その背後ではバハムートが降り立ち牙を剥き出しにしていた
「……ほら、お前の勘違いだっただろう?」
どうどう、と巨龍の間に入るジェファンは、にこやかにジェダにハグを。
「愛しの甥っ子が迎えに出ないから、少しビックリさせてやろうと思ったのさ。本気じゃない」
「……叔父上」
しかし、ジェダは…
アイテムボックスから槍と兜を取り出していた
「宝玉を破壊したのは、貴方ですか」
「……そうだ、と、言ったら?」
カシャンと音を立てて、兜をかぶるジェダ
「宝玉の騎士として、貴方を邪神の手下として葬ります」
アジ・ダハーカの瞳が黒く濁る
『……だから言ったんだ、消しておけと』
「勘違いだ、ジェダ」
『俺様はいつでもこの小僧を捻り潰せるぞ』
「兄上は確かに攻めろとは言ったが、皇国が宝玉を破壊するような馬鹿な真似するわけないだろう?」
『殺せ!!!』
真横ではアジ・ダハーカが大声で呼ぶが、ジェファンは意に介さない。
「我はまだ任務があります。そのまま立ち去って頂きたい」
ジェダの背後でバハムートが銀色の6枚の翼を広げ、轟音を轟かせれば、アジ・ダハーカは姿勢を低くしたまま後退りした。
「腹の虫が悪かったようだ」
「……叔父上」
「次は連絡してから来るよ」
「その飛龍は、早めに始末なされよ」
さもなくば、我の槍にかかるだけ。
そう言って踵を返すジェダを見つめてアジ・ダハーカに股がった。
「……少し過激だが、大人しく良い飛龍だぞ。バハムートには“まだ”勝てんがな」
「……叔父上。去る前に答えて頂きたい」
「愛しの甥っ子の質問ならなんでも」
「その兜の傷は、一体どこの猛者がつけられたのか」
ニコニコとしていたジェファンの表情が、はじめて真顔に変わった
「なぁに、お前の耳に入れる程の事ではないさ」
腕に抱えていた兜をかぶり、そう言って飛び立ったジェファンはアジ・ダハーカの背で小さく「化け物になったな」と、少し嬉そうに呟く。
『……なぜ殺さない』
「ジェダを見て倒せると思ったのなら、まだお前も力が完全には戻ってない。邪神が完全に復活し、力を取り戻すまでは厳しかろうな」
『ふん。臆病者が』
少しだけ思い更ける。
「……かの国には、こんなことわざがある」
『?』
「獲物を確実にしとめるならば、走らせよ。走らせて走らせて、、疲れて足が止まるまで……」
『………奴らしいことわざだな』
「いずれは手にかけねばならんが、今ではない。ただし、邪神が約束を守るなら、の、話だがな」
『安心しろ。復活し勇者もろとも葬った暁には、世界の半分はお前の物だ』
「ジェダ様、、助かりました……」
「いや、我も部隊を動かしておけば良かった」
虫の知らせか、、一旦隊に戻って良かった
まさか、オルブラッド近域にまで来るとは予想外だった
「……しばらくは安全だろうが、行くところがまだある」
「ご安心下さい。先のアリバイ作戦で誤魔化します」
「すまない。父上の任務を頼んだぞ…。疑われないように、な」
北へと飛び立った飛龍の背の叔父を少しだけ悲しげに見つめて、、ジェダの部隊は国境を越えた……。




