空の騎士とサンダーバード ㊤
朝、全員の言葉は全くなかった
「……我が国にあることわざだが」
準備を急ぐシゲたちを見ながら、ガルーダはぽつりと口を開いた。
「向かい風が強い日は、逆を向いて飛べば良い」
ゆっくりと並べられていく全員分の朝食。
「そうすれば、追い風にのれるだろう」
セピアの口が、、ぎゅっと強く結ばれる。
「すなわち今日は、前に飛ばなくても良い日と言うことだ」
「そのことわざをはじめて聞いた時のジェダ殿の顔ったら、凄かったわ」
準備する手を止めたセピアが、思い出し笑いを一つ。
そして、つられるように席へと移動するアリアと凍慈。
「仕方ない。気分屋サンダーバード様のかくも由緒あるお言葉だ」
「ゆっくり、食べてる時間なんてないよ…」
シゲの声は、少しだけつまった。
燃え盛るエント。破壊された城塞都市。そしてこのウィングバードも、大門は破壊され街も3割近くが壊されてしまっていた。
「アメジストの宝玉の場所へ、急ごう」
「……勇者様」
シゲの椅子が引かれ、ガルーダは座るよう促す。
「急ぐも急がずも、明日はいつも同じ速度でしか回って来ないのです」
美しい金色の瞳が…、ただ優しくシゲをみつめていた。
「……なら、急いだ方が」
「この旅は、今急がねば辿り着かない旅でしょうか?」
ずっと誰かに、“急げ”と言われているような気持ちでいた
「今のままで、十分過ぎる程頑張っておられる」
変われと、言われている気がしていた
「今は、速度を落として歩く時です」
働きに出てからずっと、、ブラック企業でも“速くする事”が、“必要以上をこなす事”が当たり前だった
「サンダーバード様が、よく仰っているお言葉ですが……」
セピアが「あれね」と、ふっと笑った。
「歩む道は一つではないが、ゴールは決まっている。その道中は、のんびりと楽しんだ者勝ちだ、と」
なぜだろう?
シゲの足は……ゆっくりと席へと向いていた
「……急がなくて、、良いんだ……」
「サンダーバード様は、自由にし過ぎだけどね?」
「異論はない」
少し、お喋りが過ぎましたと言うガルーダ。
「…いただきます」
その日の朝食は、、今まで食べたどの朝食よりも……染みた気がした
「……よし、切り替えていこう」
「こんな凹むと思わんかったな、当事者かどうかって…全然気持ちが違うもんやねんな」
珍しく、凍慈は部屋や街中を…漁りに行かなかった
「強くなったって、思ったんだけどなぁ」
「まぁ、まだ半分も行ってへんから。そう思うと…」
道のりはまだまだ長いな、その言葉を聞いて…聖剣を抜いた。
「この剣をあの日、ジェダが抜いてたら良かったのにって、ずっと思ってた」
だって、誰よりも勇者としてふさわしいと思ったから…
「……」
「なのにあの時、俺は無意識に…この剣に頼った」
使っていた武器ではなく、聖剣を抜いたのだ
「ちゃんと、勇者やっとるやん」
凍慈は笑って、マウィーが置いていったカゴからリンゴを取り出してかじる。
「お、甘い」
「美味いよな。どこ産のリンゴなんだろ」
「知っとるか?青森の人って、食べただけでわかるらしいで」
「うっそだー」
「テレビ番組で言うとった」
そんな他愛もない雑談をしながら、、再び眼下の壊れた街並みを見下ろす。
「もう、勇者って言われる事に…、世界のために何か言われることに…、慣れなきゃなんだよな……」
「……理不尽やけどな」
「本当にな」
少しだけ静かな間を経て、凍慈は再び口を開いた。
「なーんも知らんとこ放り込まれて、、俺も…頑張ってると思うで」
「……」
ようやく気が付いた
どこかで誰かに「頑張ってる」と、言われたかったんだと…
「頑張らなきゃ、世界は終わるんだぜ?」
だから、やれ、と、いわれたら…やらなきゃならない気がしていた
「もし俺が同じ立場やったら、スタートしてへんわ」
「アリアにゴブリン退治しに行こうって連れ出されたからさ、スタートも何も……」
「関西人はな、一旦もっかい寝る」
「……良いね、それ。毎日寝て過ごしたら良かったのかな」
「せやで。旅に出んかったら、こんな酷い目に会わんかったんや」
気付いたら……ここまで来てしまった
「こんな事言うの、はじめてなんだけどさ。…………めちゃくちゃ悔しい」
風が背後から吹き抜ける
「追い風だ」
その言葉につられるように、凍慈がゆっくりと立ち上がる
「ほな、やりにいこうか。2回目のクラスチェンジ」
「ああ」
二人の足取りは、ようやく前へと向かった




