外伝 トリトル
彼は戦場にて産まれ落ちた
「……どうして臨月の彼女を戦場へ」
そんなネプチューン王の小言も、「てへ、つい」と笑って誤魔化す
「名前はね、ウンディーネ様と決めたのよ。この子は海の子、トリトル」
トリトルは父と母のもと、6歳でアトランティスの誰よりも槍術が上手くなった
「凄い?どう?」
「もちろん凄いわ、流石私たちの子供ね!」
トリトルは誉められる事が大好きな、どこにでもいる子供だった
父と母の笑顔がみたい、その為の努力は惜しまない、、素直で明るい……。
「流石あのあ二人のお子。神童だ」
皆が同じことを口にする
幼いながらも、それがとても誇らしかった
アトランティスの民からの評判も、とても良かった
━その日常は、突如崩れさった━
━邪神復活兆しあり━
「宝玉の騎士たちに、討伐隊へ参加の要請が……」
“各地で復活を見せる巨大なモンスターたち”
「大丈夫よ、ちゃちゃっと倒して帰ってくるわ」
「本当に?」
心配そうなトリトルの頭をいつものように微笑んで撫でる母。
「もちろんよ!だからね、トリトル。この国とお父さんを頼んだわよ?」
「……うん」
それが、トリトルが母と交わした最後の言葉
「王!!大変です!し、新海が!!」
ネプチューンがレヴィアタン討伐を果たしたその日
「……王妃様が、、」
ウンディーネの騎士だった母は、命を落とした
「我が現場についた時には、手遅れだった」
母の葬儀が終わってしばらく。
アトランティスを訪れた皇国からの使者をトリトルは睨み付けていた
「………こんなガキが、、戦場に行けるわけないだろ」
まだ、トリトルは10歳の子供だった
「やめないか、トリトル」
そして、トリトルの目の前に立つ金色の髪の少年は、12歳という若さで既に……皇国の皇太子と将軍の肩書きの2つを背負っている、“本物の神童”だった。
「…ウンディーネの騎士の代理は?」
「私だ」
既にウンディーネがネプチューンの隣に。
「そうか、良かった」
「………良かった?母上が亡くなってるのに、良いわけないだろ!!」
その場にあったトライデントに稲光が落ち、それを手に背後から飛びかかっていた。
「トリトル!」
碧眼はアトランティスの新海の如く揺らめきながらトリトルを捕捉し、目にも止まらぬ速さで槍を手にトリトルを地面に叩き伏せていた。
「そういうつもりではなかったが……。失言だった。非礼を詫びたい」
槍で右に出る者がいなかったトリトルには、、ただただ衝撃的な瞬間だった
「名前は」
立ち去ろうとした金髪碧眼の少年は、静かにトリトルを見つめる
「我は…、ジェダ・ハンネ・アウゼンハイド。次のバハムートの騎士だ」
皇国の皇太子
最年少の将軍
最強の神獣・バハムートの騎士
そのどれもがいまだトリトルの手の中にないもので、完膚なきまでに打ちのめされた瞬間だった
「ジェダ皇太子。我が息子が…」
「我も、同じ頃に母を亡くしたので、彼の気持ちはわかる」
「………君の、、武勇伝は…我が息子とは比べ物にならんよ」
その言葉に顔を上げたジェダの両剣水晶がキラッと光る
「誰かと我を比べることに意味はない」
12歳とは思えない少年は、颯爽と部隊を率いてアトランティスを出ていった。
「……ジェダ、絶対に越えてやる」
いつからだろう。
父上の笑顔を見なくなったのは……。
「………はぁ」
困らせている事はわかってはいたが、父上との接し方がわからない。
「父上!!」
騎士は16歳からという決まりは鬱陶しかったが、年齢が16になった瞬間にウンディーネの騎士に任命された。
━━父上も、きっと笑って下さる━━
「最年少記録、6ヶ月更新ですね!ジェダ皇太子に勝ちましたよ!」
「当たり前だろ。この調子でジェダなんて軽く越えてやる」
ばっと振り返った先の父は、ただ眉間に皺をよせて溜め息をつくだけだった。
「いい加減、ジェダ殿と比べるのはやめないか」
「(これも、違うのか…)」
ジェダを越えたら…、また笑って褒めて下さるだろうか?
もはや、届くレベルではない武勇が轟く男の背中を…
それでも追いかけないと、、自分でなくなってしまいそうで
「……勇者が、現れた?」
今まで騎士から選ばれていた勇者が、どこの馬の骨ともわからないただの一般人から選ばれた
「何かの間違いじゃ…」
「マナの信託だ。騎士であるならば、これが如何に信用に足る言葉かわかるであろう」
━そして、聖剣を抜いたのを…宝玉の騎士筆頭であるジェダが確認したと━
「そのうち我が国にも来るだろう。トリトル、粗相のないようにな」
ふわっと表情が明るくなった父上の口元は、笑っていた
「(父上、、貴方の息子は……頑張ってないでしょうか…)」
だからこそ、、勇者一行が、勇者が、無性に許せなかった…
「…………レヴィアタンが巣くっていたのか」
感謝の言葉も、自分へ向けられてはいなかった
それでも、、クリスタルの騎士に選ばれたら…きっと…
それすらも叶わなかった
「オレはジェダを超える為に修行しなきゃなんないんだ」
強がりの一つ言ったって…
どうせもう誰一人、真剣に取り合わない……
「……ジェダを、、超える?」
どうして、あんたが反応するんだよ…
「そうだよ。ジェダ程度、オレくらいになればささっと超えちゃうもんね」
ネプチューンが「またそんな事を」と溜め息をついていた。
他の皆も、また何か言っている、みたいな。
止める事をされなくなった口は……、重みのない言葉を量産する
「そういう事は、もう少し実力が足元に及んでから言うべきだと思うよ」
その一言は、一番言われたくない
しかし、誰もトリトルへ言わない言葉だった
「…………オレが、ジェダの足元に及んでいないって言いたいのか、勇者シゲ」
「……申し訳ないけど、足元どころか。君がジェダの名前を口にするのは、彼に失礼だ」
「……」
その場がシーンと静まりかえる。
図星なのかトリトルの減らず口は鳴りを潜める。
ネプチューンはシゲに拍手を送り、ゆっくりと口を開いた。
「トリトル。勇者の言うとおりだ。最年少騎士として選ばれたからと、少し甘やかし過ぎた」
「(また、父上が認めるのはオレじゃないのか…)」
“ウンディーネ様も見栄をはった事、反省していただきたい”、その言葉の数々は、目の前の勇者への憎悪へ変わるのに、時間はかからなかった
「…………」
ぎゅっと唇を噛み締め、ギッとシゲを睨み付ける。
「アトランティスは意見の相違が起こった時」
「……トリトル!!」
「決闘で決める。それがアトランティスのやり方だ」
「いい加減にしないか!!!」
「今ここで、オレと戦え、勇者」
返しそびれたトライデントが目に入る。
深く考えることもなく、手を伸ばしていた。
「このトライデントは王である私の槍だ。わかるな?」
ちっと舌打ちするトリトル。
「本来の自分の持てる力を使って闘いなさい、海の子よ」
「………!!」
━━名前はね、ウンディーネ様と決めたのよ━━
━━この子は海の子、トリトル━━
その誇りだけは、譲ってはならん
ネプチューンのその言葉の重みから、ふいっと視線をそらしたトリトル。
「わかってるよ、冗談だろ」
結果は負けたけど、、心の中を吐き出して少し…軽くなった
━━トリトル。無理に背伸びして歩き続けると、しんどいんじゃない?━━
「……そんな事、わかってるよ」
久しぶりに目が合った父上は…
困ったようにこちらを見つめていた……
「(心配ばっかかけて、、だせぇやつ。オレが……ジェダだったら…少しは笑顔に出来たのだろうか…)」
もう、どうだって良い、悩んでもどうしようもない
だって、出来る事はもうないんだから……
「………帰るぞ、オルヘ」
ピュイッと口笛を吹いたトリトルへ慌てて向き直る勇者。
「送ってくれてありがとう、トリトル。ここ、海からじゃないと、来れない場所なんだろ?」
樹海の入り口まで送り、アトランティスへ帰ろうとしたトリトルの足が止まった
「(そういや、普通の人間は海は移動出来ないんだっけ)」
━━この国とお父さんを頼んだわよ━━
「(……オルヘがいたら、勇者たちの旅は…楽になるのだろうか)」
━━オレの旅は━━
━━これから先…、、始まる事はないけれど━━
「これは、オルヘの呼び笛だ」
ネックレス型の珊瑚でできた呼び笛を、アリアの首に付ける
「海を移動したいならこの笛を吹けば、オルヘが助けてくれる」
できるだけの助けくらいはしてやろう。
それはきっと、この国と父上の為になるだろうから……。
“よくやった”と、言って下さるだろうか?
「まぁ、そのアホ面勇者の言うことをオルヘが聞けばの話だけどな!」
オレのかわりにその頼りない勇者を頼んだぞ、相棒
「勇者の行く先に祝福あれ」
その言葉はシゲたちには届かない、小さな小さな言葉
オレが勇者一行に選ばれないなんて、理不尽だけど
そう思いながらトリトルは海へと姿を消した




