海戦国家、アトランティス!㊤
「いやー、危なかった」
目線を反らし口笛を吹いて誤魔化しにかかる凍慈を、シゲはジロリと睨み付ける。
「調子に乗ってあんな高い食材買うからだろ!!」
1週間に1度の、マグマ⇔アトランティス間の旅客商船【マリン号】に慌ただしく乗り込むシゲ、もとい、勇者一行。
「危うく乗り遅れるところだったじゃないか!!」
アトランティスまでの船代が一人200ルート。
手持ちが1000ルートだったので、下手したら船代稼ぎにモンスター退治に行く危機だった…。
「しゃーないやろー。唐辛子はマグマ限定って書いてたし。そもそも、俺らが乗り込まんかったら船はぜーったいに出向せぇへんって」
でた、根拠の怪しいゲーム知識……。
確かに火山は噴火しなかったし、船も出向はしなかったけど、そんなのわからないだろっ。
「それにしても1つ100ルートはやりすぎ!勿体なくて使えないっっ!!」
「香辛料が高いのは世界共通やで?」
なんでいきなり中世の価値観なんだ、今令和だぞ。
「残金200ルートとか、不安しかない…」
「大丈夫や、3泊4日の宿は確保したようなもんやし、最悪腹は膨れる」
足元が小さくガクッと揺れたのを感じ、少しすると潮の匂いが強くなる。
港の熱気と喧騒が遠ざかり、船はゆっくりと沖へ向かっていた。
「え?これ、、男女別だよね……?」
船部屋へ向かう。扉を開けるとベッドが4つ、バーンと置かれた4人部屋、、、えーと、4人部屋?
「男女別のゲームとかみたことないで」
「倫理観どうなってんだっっ!」
「あ、そういやシゲは宿これが初か」
初もクソもあるか。
よく今まで問題にならなかったな!?
「あ、あそこに宝箱あんで」
部屋の窓際のど真ん中に、その違和感の塊は鎮座していて……。
「何でだよ!?ちゃんと部屋の手入れしてたらそんな事にならないだろ!?てか、しばらく宝箱は開けたくない!!」
「忙しいやっちゃなー」
凍慈は宝箱をポンと叩いて既に中身を取り出していた。
「お、500ルート入っとったで。残金アップや」
「誰かの給料だったらどうするんだっっ」
「………仕様だって言われても納得いかない」
ガチャッと他の客室から当たり前のように出てきた凍慈とは対照的に、口をへの字にしているシゲ。
「なんでや、そろそろなれろ」
全ての部屋を回り、空き巣強盗を終了。
部屋にいる人間もおかしいとか思わないのかっっ!!
「今日のマグマ⇔アトランティス間、いつもより少なくないか?」
「知らないのか?なんでもアトランティスのウンディーネ様の守りが弱ってる、とかって噂だぞ」
すれ違う他の客から聞こえて来た会話。
「海域の守りは??ヤバいんじゃないのか??」
「どこの商人も、巨大モンスターに襲われたくないから、この有り様って事さ」
普段なら気にも留めないはずのすれ違いざまの会話。
なのに、何故だろう?その言葉だけが妙に耳に残った。
「あ、帰って来た~」
「晩御飯食べに食堂へ行こう」
「海鮮かなぁ~。ルビー国内は森ばっかりで海の物ってあんまり食べられないから、楽しみだね!」
そっか、現代日本にいるとそういうの忘れがちだけど、、この世界の物流はそんな感じなんだな。
「俺も、、楽しみ、かな」
シゲ一行の机に並ぶ海鮮ご飯。
謎の海草サラダに謎の魚の刺身。恐らく蟹のグラタンにミニ海鮮丼と海鮮汁。しかも見た目が完全にリアル。
実際にレストランなどに出て来ても違和感ないくらいの見た目だ。
「勇者シリーズの飯って毎回うまそうやったんやけど、食べると更に美味いな…。製作陣が本当に料理したのトレースしたとか」
「……製作陣とか言うなよな」
「説明がそれしか思い付かんからしゃーないやろー」
でも本当に美味しい。
凍慈はゲームの中だと言うけれど、目の前の物を信じて、そろそろ「ゲームの中だから」を卒業できないかな。
まぁ、それを言ったら凍慈も「そろそろゲームとして慣れろ」なんだろうけど…。
そんな答えの出ないことを少しだけ考え、他愛ない会話で食事の時間は過ぎて行った。
「ね、シゲ。一緒に甲板、行かない?」
「え?」
「おー、行ってこい行ってこい。俺はセピアと先に部屋戻っとくから」
ん?ん?となっているシゲとセピアの帰路は真っ二つになった。
そこでムービーがスタート。
二人が船の甲板へ出る所から始まる。
[まだ、旅は始まったばっかりだけど……。あの日、貴方とゴブリン退治しに出た時はこんな事になるとは思わなかったね]
[そうだね。僕が勇者で…、アリアが聖女なんて…]
潮風にアリアの腰まである髪が揺れ、客船の光が二人を照らす。
[あ、あれ、なにか跳ねた!]
水面にすーっと背ビレが出ては消えてを繰り返す。
[ああ、イルカっていうらしいよ]
[そうなんだ。あっ!顔が出てきた!可愛い!]
数匹のイルカが海面に姿を現し、ぴょんぴょんと水面を跳ねる。
[知らない物、知らないことが経験出来るのは旅の良い所だね]
ニコッと笑うアリアはそうだね!とうなずいた。
[貴方と一緒なら、邪神だって大丈夫だよね…]
[ああ、きっとやりとげれる。必ず成し遂げてみせる]
ムービーの終了と同時に、【そして2日が過ぎた】のテロップが流れた。




