外伝・ガルリー㊦
『すまんのぅ、こやつ会話がからっきしで』
「にゃ?何か言ってるにゃ」
「今オレたち神獣いないから、誰も通訳出来ないのか」
『なんじゃと!?あ、勇者たちのクリスタルに入ってしもうたのか』
「………古いドワーフの言葉よ、ガルリー殿は会話が苦手だとお話になられているわ」
マウィーがバルディッシュをくるっと回しながら、ノームの言葉を通訳する。
「うへー、わかるのやべー。流石あのジェダの上を行った才女」
『お主!わしの言葉がわかるのか!?』
「嗜む程度ですが」
「………え?なら、ウンディーネとかの言葉もわかるの?」
「古代12言語は必修科目だったでしょう?」
古代語を12も話せるのか……とんでもないおなごだな……
「ないないない!1言語軽くでOKだから!」
「そもそも私は学校に行ってないニャ!」
「私の辞書を貸してあげるから、勉強しなさい」
マウィーの言葉に、トリトルとニャウィーはあからさま、さっと視線を反らした。
「ドリアードの騎士は、エントか……。スイセン殿はお元気か?」
ふと、美しい舞いを披露していたドリアードの騎士を思い出す。
彼女にも、武器を作った。もう、十数年前になるか…。
「……リンドウ大神官さまのお姉ちゃんだよね」
「……そういえば妹がおったな」
「スイセンさまは……お亡くなりになったのにゃ。私が、そのあとを引き継いだの」
「そうか。不躾な事を聞いて悪かった」
ぶんぶんと顔を横にふって笑うニャウィーと
その隣の姉マウィーは、少しだけ表情が曇った
「……トライデントも、あんたが……?」
「……あれはワシじゃない、マサムネもじゃ」
「そっか。あのさ、トゥーランって騎士……知ってる?」
━━このトライデント、ちょっと調整してよ━━
「知っとるさ。バハムートの騎士、ジェダの前に“現役最強”の称号を手にしておった」
━━どうするのかって?私の人生をかけた大捕物さ━━
「“子供たちに重い責務を残すわけにはいかない”。ワシとの会話はそれが最後だ」
トリトルは少しだけ唇を噛みしめて、そっかと言った。
「親父はなーんも話してくんねーのよ、おっさん、ありがとな」
こんな話に感謝される覚えはないが、地上人は変わっとるな
━━子供たちに重い責務を残すわけにはいかない━━
今なら、彼女が言った…その言葉の意味がわかる
「………ワシも、ワルツに押し付けんで済んだからな」
「何か言ったのにゃ?」
「………」
「にゃ!?」
しかし、鍛冶場が喧しいことこの上ない……
ワシは静かに作業に打ち込みたいのだが……
さてどうしたものか、そんな事を思案している、その瞬間
ズドンと大きな振動がワンダを襲った
「………来たか」
「よし、行くか」
3人は外に飛び出す。
ガルリーもゆっくりと外へ行けば、ワンダの上空に張られた結界は人が覆い尽くし、真っ黒に染まっていた。
「やれやれ、地上人は入り口を知らんのか」
「……エントにトルネードに、沢山の国。本当大嫌いだにゃ」
ニャウィーのその言葉に含められた言葉の意味を察する
ワンダに籠ること、さて何十年
世界情勢はガラリと変わったらしい。
「たまにゃ、外に行かんとならんな」
この国だけが危機なんかじゃない
この国だけが滅びに貧したわけでもない
邪神の脅威は、この星全てに訪れたのだ
「ワシの悩みは、なんとちっぽけな事だったか」
そう、笑ったガルリー
「貴方にそう言わしめるか、面白いものだな、人生は」
背後で蹄の音が響く
振り返らんでも誰がいるかはわかる
「……」
「トリトル、マウィー、ニャウィー。ガルリー殿とこの鍛冶場を守れ」
半透明の美しい剣は、宵闇色へと変わっていく
自画自賛ではないが……、やはりあの双剣は最高傑作の一振だ
「前線は、私が蹴散らそう」
バリ!と穴が開き、皇国兵士が雪崩れ込む
そこへ馬を走らせる、アザリアス。
「良いとこ取られたー!」
「にゃ?そうなの?」
「オレも前線で敵をばったばったと薙ぎ倒したい!」
「そんな不吉なことを言うからほれ、来たぞ」
ドン!と大きな音を立てて地面が揺れる
『あれは、ムーンビーストじゃ!!ルナの宝玉の中に封印されとったはず!!』
「……宝玉に、封印?」
「………そうか、今の若いもんは知らんのか。12の宝玉の中には、12の邪神の腹心が封印されとる」
だからこそ、宝玉は死守せねばならないのだ
しかし、今日は疲れる程喋っている
明日は何も言わんぞわしゃ。
皇国兵士が襲って来るのを返り討ちにする事少し
「我々だけではオーディンの騎士はどうにも出来ない!!」
「東の空に、、金龍です!!」
「何故バレたんだ!!撤収!!!」
皇国兵のそんな叫び声が轟く中でも、ムーンビーストは任務を遂行せんと構える。
『下がるならば消し炭にするぞ、行け!!あのドワーフだけでも討ち取ってこい!!聖剣は、復活させるわけにはいかん!!』
「海流一線」
その背後でようやく姿を見せた、勇者たち
そのあとは……一瞬で終わった
聖剣の最後を見届けたワシが
聖剣の誕生をその手にする
「………」
不思議な因果だ、そう思った……その瞬間だった
「………」
聖剣を作ると言った
その覚悟はあった
はじめて、振るう金槌を握る手が震えた
はじめて、金槌を振るう事を躊躇した
「………」
もし、作れなかったら?
もし、失敗したら?
足がこんなにも重たくなった事は経験したことがない
その姿を見たドワーフが、ガルリーの隣に姿を見せた
『…ガルリー。お主はわしの見込んだ騎士じゃ』
なんでワシなのか、さっぱりわからん
『また喋らんか。まぁ良い。こんな時に言葉があると便利じゃぞ』
言葉なんてなくても、ドワーフは事足りている
『アンバーの騎士ってのはの。聖剣を作る事ができる最高の鍛冶師しか選ばれん。わしの最高の騎士はお主じゃ、自信もって作れい!ダメだった時はわしが頭下げちゃる!』
けらけらといつものように笑う、お喋りなノームを見るガルリー
その手から、震えは消えていた
自信を持って振るう、金槌の音が鳴り響く
出来上がった聖剣を持ち上げた瞬間
何故だろう、瞳から涙が溢れて落ちた
「良い剣だ」
静かにそう言って微笑むと、勇者へと手渡した
「ワシがやれる事は……、もうない」
「ありがとう、ガルリー」
その感謝の言葉は、少しだけ心の中を暖めた
勇者が去ったあと、ワンダは少しだけ賑やかになった
お喋りな騎士たちに触発され、ドワーフたちは少しだけお喋りになった
「ね、お師匠様。お喋りも悪くないでしょ?」
そうだな
言葉ってのは、存外……
悪いものでもないんだな……
「………さて、たまった仕事をこなさんとな」
見上げた空は、ガルリーの心の中のように
晴れ渡っていた




