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64・蟹寮の生徒、事件の真相に迫るのこと《壱》

「はあ? べんとう?」


 忠郷はわけがわからないという顔をしていたよ。そりゃあそうだ、彼は今初めてこの名前を聞いたんだもんね。


「そう。べんとう、って名前なんだって。客間係から話を聞いたんだ!」

 すると、突然寺沢忠次郎が腰を上げて部屋から出て行ったよ。

 僕らが驚いて顔を見合わせていると、すぐにまた戸が開いて彼が部屋に戻ってきた。そうして周囲をキョロキョロと見渡している。


「ど、どうしたの?」


「誰もいない?」

 孫平太が小声で言った。


「ああ……大丈夫だろう」


 勘八郎も頷いた。


「何なのよ……一体?」


 忠次郎は再び同じ場所に座ると、僕ら三人に顔を寄せてうんと小声で言った。


「他の人間には……話を聞かれたくない」


 なんだ、そういうことか。

 それなら僕が大得意だ。


「それなら、大丈夫だよ! ここには僕らしかいない。だって、僕たち以外の人の気配、ぜんぜんしないもん」


 呆気に取られた顔で三人は顔を見合わせた。


「こんなのにいちいち驚いていたら、あんた……鶴の寮でなんか暮らしていけないわよ。化け物だって見ちゃうんだから」


 忠次郎は気を取り直したように僕をじっと見つめて言ったよ。


「……お前は、フランシスコを助けてくれた。迷っていたあいつの魂を、願い通りぱらいそに導いてくれた。それで俺たちも救われた。だから……お前には教える。お前を信じる」


「そうだ。フランシスコの無念を晴らしてくれよ。無事に……ぱらいそへ行けるように」


「わあ、ありがとう!」


 僕は嬉しくなって胸をどんと叩いた。


 そうだよ

 人間ってのは信頼されることこそが何より大事だ。

 僕は上杉の若様でもあるのだから、僕の信頼はつまり、上杉のそれということになる。


 これ以上評判を損なうわけにはいかないので、これは何としても頑張らないとね!


「この千徳喜平次、上杉の名に掛けて、皆様のご信頼に応えるべく働きます」


「はあ、なるほど……いやだわ、あたしは信頼されていないというわけね」


「そりゃあな……お前は別に大したことはしちゃいねえ。鼻くそのようなただのおまけだ」


「なんですって? あんただってそんな……顔に鼻くそみたいなほくろつけてるくせに」


「ごちゃごちゃ言ってねえで、お前は必要な時にああやって出張って北の御殿のぬしとやらを気取りゃあいいんだよ!」


 再びぎゃあぎゃあ口論を始めた二人をチラ見する。


「大丈夫だよ、忠次郎殿。こう見えて二人はとても頼りになります。それに、穀潰しのような人間を上手く使うことも、上に立つ人間の器量というもの」


 しばらく考えているようだったけれど、彼は諦めたように僕の耳元で話を始めたよ。


 ーー俺の父親はな、昔は太閤殿下に仕えていたんだ。

 長崎で奉行をしていたらしい。朝鮮の戦にも行ったんだ。


「ああ、唐陣だね! うちも行ったよ。みんな嫌がってたんだって」


 ーーそうだよ。ひどい戦だったと聞いてる。

 戦でがんばって手柄を上げたい連中と、早く戦を終わらせたい奴らとの間で随分揉めたらしい。

 親父は後者の方で、主に兵站の仕事をしてたんだ。

 戦が終わった後も、両者の仲違いが続いて……忠広殿のお父上みたいな、現地で戦を頑張った連中からはめちゃくちゃ疎まれた。


「そうよね。忠広のお父上……加藤清正なんて、朝鮮でずいぶん活躍したって聞いたわ。虎も退治したんでしょ? 有名よ」


「それが一体どうしたっていうんだ?」


 忠次郎は二人にも視線を向けて続ける。


 ーーその時、親父は一緒に兵站や後方支援の任に当たっていた大名と……仲が良かったんだ。そいつもキリシタンだったって理由も大きい。


 ーーだけど、その大名はその後の関ケ原の戦じゃ石田三成側にいて……戦の後には戦犯として処刑されたんだ。だから今じゃそいつの話はしなくなった。


「処刑?」


 僕の言葉に、勘八郎が説明を継いだ。


 ーー関ケ原の戦の後、処刑された人間が三人います。

 三成側で戦った大名の中でもこの三人は大御所さまがお許しにならなかったらしい。


 石田三成


 安国寺恵瓊


 そして……小西行長


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