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朝日が部屋に差込み、暫くしてライラが目を覚ました。
「主様おはよう」
「おはようライラ、良く眠れたか?」
「うん!何か凄く良い夢を見た気がするの」
「ほう、そりゃあきっと正夢って奴だ、縁起が良いな。俺はお前に会ったばかりの頃を思い出したよ。身動き取れないし、あの頃はよくお前に抱き付かれて夜を明かしたよな」
照れ笑いをしながら俺の胸に顔を埋めるライラの頭を撫でながら話を続けた。
「今日で全てが終わる・・・・・俺はその後、お前達との契約を解除するつもりだ・・・・・そうなればお前達は自由だ・・・・・あの頃・・・お前に言ったよな『自分がどうしたいのか、どうなりたいのか良く考えるんだな』って。お前は俺の傍に居る為に強くなると言ったが、あの頃のお前とは違ってもう一人でも生きていける。だから自分の為にもう一度考えるんだ」
「・・・・・たとえ眷属で無くなっても私の気持ちは変わりません。戦う必要が無くなっても主様のお傍を離れません。必要なら何でも覚えて必ずお役に立ちます」
「そうか・・・・・有難うライラ・・・・・それじゃあ行こうか」
部屋を出て四人で朝食を取り、皆に闇属性武器を渡して大まかな作戦の確認をして王都へと飛ぶ。
調印式の会場は東地区の中央広場だ。陛下達は奴の攻撃で一般市民に被害が出る事を懸念して王城の訓練場にするつもりだったのだが、奴に無差別攻撃をさせない策が有る事と、事実を広める為にも一般公開する事を認めさせた。
中央広場に設えた舞台は高さ1m、縦横10m程で、南、西、北側に階段が、中央にはテーブルと椅子が用意されていて周囲を騎士団が警備している。
俺達は舞台西側の階段前に居る副団長の所へ向かった。
副団長と挨拶を交わしていると伝令がやって来た。
「失礼します!先程皆様が出発致しました!」
アスタルとジェラルドは東門から出て真っ直ぐ此方に向かって来るが教皇達は南門から、ケイオス達は北門から出て各地区の中央広場を回ってから此方に来る事になっている。
暫くしてアスタルとジェラルドを乗せた馬車が到着し、二人が舞台に上がると歓声が上がり、アスタルが席に着きジェラルドが書類の準備をしてから背後に立つと周囲が静かになって行き、他の二組の到着を神妙な面持ちで待っていた。
やがて南北から歓声と共に教皇とケイオス達を乗せた馬車が近づいて来て中央広場に到着し馬車から降りた。そして教皇とケイオスだけが舞台に上がり席に着く。
舞台の上から護衛を完全に排した状態での調印式は、御互いに敵意が無い事の表れで集まった民衆へのアピールだ。
役者は揃ったと俺は何時奴が来ても対処出来る様にと身構えた。
アスタルの背後に居たジェラルドが右手を軽く上げると周囲の声が収まってく。
「これより三ヶ国合同調印式を執り行う!ベルトラン王国宣言!」
アスタルが立ち上がり宣言文書を読み上げる。
「ベルトラン王国は魔族領改めドラグーン王国の建国を認め、和平と同盟を結ぶ事をここに宣言する!」
アスタルの宣言が終わり次は教皇の番となった時、俺は魔力の高まりを感じ出現位置へ向いて叫んだ。
「・・・辰神!避けろおぉ!総員退避だあああぁぁ!!」
頭上から降り注ぐ光の粒が辰神を襲う。
「えっ!?・・・ガハッ!・・・グアアアアァァァァァ・・・・・!!」
「ヒ、ヒロさん!!」
「馬鹿野郎!青山ぁ!!お前も離れるんだ!!」
「そ、そんな・・・グハッ!」
呻き声を上げ胸を掻き毟る辰神を助けようと近寄り、手を伸ばした青山の腹を辰神だった者が蹴り飛ばした。
突然叫び出した俺に唖然としていた民衆が、蹴り飛ばされて転がりうつ伏せに倒れ動かなくなった青山を見て悲鳴を上げる。
全身を淡い光に包まれた辰神だった者は俯き両手をだらりと下げたままふわりと舞台の上に飛び上がると顔を上げ俺を睨んだ。
俺は面倒な事になったなと思いながら『奈落』を出してから時間稼ぎの為に悠然と舞台に上がり、陛下達を守る様に背にして奴と対峙した。
「・・・何だそりゃ・・・人質のつもりか?仮にも神を名乗る奴が随分と弱気じゃねぇか」
「この様な者でも多少は使えるからな・・・・・で・・・あれを何処にやった?・・・貴様が隠した事は解っている。大人しく差し出せばこの場は引いてやろう」
「あ?何言ってんだ?その先に破滅しかない事が解ってて、はいそうですかって差し出す訳ねぇだろ。頭湧いてんのか?」
「貴様は勘違いしている様だが、この身体を使ったのは人質としてでは無いぞ・・・・・此方に存在していられる時間を延ばす為と、有る程度の力を行使する為だ。この程度の身体でもこの都市位ならば一瞬で消し去る事が可能だ」
「ハハハハハ!そいつは無理だと思うぜ。何でお前が来るのが解っててこんな人の多い場所で調印式やったと思ってんだ!木を隠すには森の中ってな、この中にお前の御目当ての奴が居ないとでも思ってたのか!?この程度の事も思い至らないからお前は『自称』神なんだよ!!」
勿論唯のはったりで、ケントはハンスの村に居るのだが、奴の言動から闇属性を付与したケントを目視以外で探す事は不可能だと断定した。
「・・・ならば貴様を倒した後にでもゆっくりと探すとしよう・・・・・」
奴の手が動き出した瞬間に次々と『奈落』を作り出し、背後の陛下達の周囲に三つ、更に舞台上空に一つ、始めに俺と奴の間に出した物と合わせて合計五つを展開した。
奴が驚愕の表情を浮かべながらも右掌を頭上に翳すと、遥か上空に魔法陣が浮かび上がる。
俺は上空に浮かべた奈落の制御を緩めて巨大化させ、魔法陣から発せられた光の柱を全て受け止めた。
「・・・まさかジャッジメント・レイを受け止めるとはな・・・ゴフ・・・・・チッ・・・時間切れか・・・・・次こそは貴様を倒し、あれを手に入れてみせる」
血を吐き体中に切り傷の出来て行く辰神の身体から光の粒が天へと上って行くと、辰神はガクリと膝から崩れ落ち、舞台の上に血溜まりが広がって行った。
俺は魔力の残照を辿りながら指示を飛ばした。
「治癒術士!ぼさっとすんな!急いで辰神と青山の治療だ!」
裏に控えていた治癒術氏達が慌てて駆け出し治癒魔法を掛けた後、二人をタンカに乗せて運んで行く。
俺は運ばれて行く二人を横目で見ながら奴を追い続け、遂に奴の居所を突き止めた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




