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7話『再戦』

第7話お届けします!引きこもりオタクの底力をなめるではないと言わんばかりのハヤテの活躍とやっと手にする「人間らしい生活」をお楽しみください。

「……いや、落ち込んでる暇はない!」

俺はそう小さな声で呟くと、すぐさま図書館へと引き返した。

まだ日中今から全力を尽くせば、今日の飯代と宿代くらいどうにかなるはずだ。

再び図書館に戻った俺は、水・風・土・雷・光・闇の初級魔導書を片っ端から机に積み上げた。ページをめくれば、案の定「清らかな流れを思い」「大地のざわめきを感じろ」といった、曖昧な感覚の言葉ばかりが並んでいる。

水なら大気中の水分をどう集束させるか地なら地面の動きをいかに感じとれるか、最初から最後まで、すべての現象を頭の中で『魔法の設計図』通りに組み立てていく。


「――よし、いける」


わずか数時間。図書館を出る頃には、俺は全属性の初級魔法を、完全にコントロールされた【無詠唱】で扱えるようになっていた。


二度目の、シルバアイン郊外の草原。

風の理屈で自分の気配を消し、大気の流れで周囲の音を探る。全属性の知識を得た俺の索敵能力は、さっきまでとは比べ物にならなかった。


「見つけた」


お目当ての薬草を発見し、手際よく採取する。これで最低限のノルマは達成だ。

しかし、俺の目的はそれだけじゃない。


ガルルルル……。


背後から響く、聞き覚えのある不快な唸り声。

振り返ると、そこにいた。俺をあれほど追い回し、無様に敗走させたあの魔物――ボーンウルフだ。鋭い眼差しが、今度こそ俺を喰い殺そうとギラついている。


「また会ったな。ちょうどいい、お前で試させてもらうわ」


俺はニヤリと笑い、右手を構えた。


ウルフがうなり声と共に、勢いよく地を蹴る。さっきは恐怖でしか表せなかった速さの突撃が、今の俺には冷静に見えていた。


まずは、風の魔法「ハスト」

俺の移動速度を上げ、ウルフの突撃を冷静にかわす


「ガアッ!?」


体勢を崩したウルフが、それでも無理やり俺に爪で切り裂こうと跳躍した!!。


すかさず次は、土の魔法「アーススパイク」

ウルフの着地地点の地面を瞬時に固め、鋭い「土の棘」を突き上げる。


ドスッ、と肉を貫く音が響き、ウルフの動きが完全に止まった。体を貫かれ、苦しむ声を上げる魔物を見下ろし、俺は手のひらを突き出す。


仕上げは、あの炎だ。


『魔法の設計図』を脳内で完璧に、かつ瞬時に再現する。声を出す必要すらない。


パチッ、と空間が爆ぜた直後。


「吹き飛べ」


火球は音を立てて放たれ、ボーンウルフを正面から直撃した。圧倒的な熱量による完全燃焼。悲鳴を上げる間もなく、ウルフの巨体は消し炭となり、その場にはキラリと光る『魔石』だけがポツンと残された。


「……勝った。本当に、独学の『魔法の設計図』だけで勝てちまった……!」


俺はゴクリと息を呑み、ウルフの魔石と薬草を拾い上げた。胸の奥から、ものすごい達成感があふれ出てくる


「えええええっ!? 薬草だけじゃなくて、ボーンウルフの魔石まで!?」


夕方のギルド。受付カウンターで、ミーシャさんが今日一番の大声を上げた。周りの冒険者たちも、驚きで動きを止めている。


「ハ、ハヤテさん、これ本当に一人で……? 魔法の学校にも行っていないのに、どうやって……」


「まあ、図書館の本が優秀だったんです。 約束通り、これで報酬を貰えますよね」


俺がはぐらかすように笑うと、ミーシャさんは呆然としながらも、カウンターのトレイにしっかりと多めの硬貨をトレイに並べてくれた。


それは、銀色の輝きを放つ大ぶりのコイン――銀貨だった。しかも、5枚もある。


(銀貨……!?銀貨だ!?…しかも5枚!?)


俺は内心で飛び上がるほど驚いた。

この世界の物価は図書館で大体予習していた。

銅貨数枚でパンが買えて、安い宿なら銅貨10枚もあれば泊まれる。銀貨1枚は銅貨100枚分の価値があるから……つまりこれ、普通の新人冒険者が数週間かけて稼ぐ大金だ。


今日の飯代どころか、しばらく贅沢に暮らせるだけの額がそこにあった。ボーンウルフの魔石って、こんなに高く売れるのか……!


あまりの額に一瞬硬直しかけたが、俺は引きつりそうな顔を必死に覆い隠した。


(……いや、待てよ。落ち着け俺。そもそも俺は引きこもっていた状態で転生させられ、初期資金が完全にゼロなんだ。

これからまともな服や日用品を揃えて、生活基盤を作るコストを考えたら……うん。これでようやく人並みのスタートライン、ぶっちゃけトントンって感じか)


そう自分に言い聞かせると、俺は当然のような顔をして銀貨を財布へと回収した。


――そして、夜。


俺は街のまともな宿屋の一室にいた。

一階の食堂で食べた、温かいシチューと柔らかいパンの味が、まだ口の中に残っている。前世の引きこもり部屋にあったインスタント食品とは比べ物にならないくらい、腹の底にしみわたった。


微かにギシギシと音がする、だけど清潔なシーツが敷かれたベッド。そこへ仰向けに倒れ込む。


「はぁー……生き返る……」


自分の力で稼ぎ、美味い飯を食い、安全なベッドで眠る。

異世界に来て、右も左も分からず命の危機に瀕した俺が、やっと手に入れた『人間らしい生活』。


だが――ここで満足して、ただのんびりスローライフを送るつもりは1ミリもない。


(忘れるな俺。俺がこの世界で果たすべき最終的な目標、それは――『魔王』の討伐だ)


ただ、だからといって戦いだけに生きる戦闘狂になるつもりもない。ぶっちゃけ、一刻も早く実力をつけてユイに会いたいし、いつかは誰かと結婚して温かい家庭を持つような、ごく普通の幸せだって掴みたい。元引きこもり男としての真っ当な願望は、人一倍持っているつもりだ。


そのためにも、まずは世界を脅かす元凶をぶちのめし、自分が大切な人と安全に、最高に快適に暮らせる未来をこの手で勝ち取る必要がある。


今はまだ、ウルフ一匹を倒してその日暮らしの宿代を稼いだばかりの底辺冒険者に過ぎない。だけど、前世の知識を総動員したこの『魔法の設計図』なら、世界の常識を置き去りにして、どこまでも強くなれる確信がある。


待ってろよ魔王。お前がどれだけ絶大な力を持っていようが、俺の完璧な理屈の力とラノベの知識を使って必ず討伐してやる。


窓の外に広がる異世界の星空を見上げながら、俺は初クエストの疲労で、静かに深い眠りへと落ちていった。


読者の皆様、ここまでお読みいただき本当にありがとうございました!

これにて第1章が幕を閉じます。


引きこもりだったハヤテ、しかし、元引きこもりオタクの底力と前世の知識を総動員し、わずか一日で全属性の初級魔法を【無詠唱】でマスターするという、とんでもないチートっぷりを見せてくれました。


ボーンウルフへの鮮やかなリベンジを果たし、念願の「温かい飯とベッド」を手に入れたハヤテ。


「魔王を倒す」という壮大な目標を掲げつつも、「ユイに会いたい」「いつかは結婚して幸せになりたい」という人間らしい欲望を忘れないところが、彼らしくて書いていてとても楽しい第1章でした。


次回から、いよいよ【第2章】がスタートします!


無一文を脱出したハヤテですが、新人が一人でボーンウルフを瞬殺して帰ってきた大事件を、冒険者ギルドが放っておくはずもありません。そしてハヤテの元へ『ある特別な依頼』が舞い込むことに……!?


さらに、まだ見ぬ残りの属性【雷・光・闇】の魔法やより強力な中級魔法へのステップアップ、そして新たな登場人物との出会いなど、そしてラノベ知識を生かした戦い方などハヤテの異世界生活はまだまだ続きます。


第2章もハヤテの活躍を爆速でお届けしますので、どうぞお楽しみに!


読者の皆様へのお願い

「第1章おもしろかった!」「ハヤテの独学の『魔法の設計図』で完成する魔法をもっと見たい!」

「第2章も気になる!」と思ってくださったら、ぜひページ下部から【ブックマーク登録】や【ポイント評価(★★★★★)】での応援をよろしくお願いいたします!


皆様の応援ポイントや「おもしろい」の一言が、何よりの原動力になります。


それでは、第2章でまたお会いしましょう!


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― 新着の感想 ―
前世の引きこもり部屋にあったインスタント食品とは比べ物にならないくらい、腹の底にしみわたった。この部分がとてもシチューとパンが美味しかったのだろうなと思いました。第二章も楽しく読もうと思います!
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