6話『無詠唱での魔法発動』
第6話お届けします!魔法の真理に気づいたハヤテ、オタクの知識量と探究心を舐めてはいけません。常識を置き去りにするハヤテの挑戦が始まります!
「――ありがとう、ミーシャさん! ちょっと行ってきます!」
「え? あ、ハヤテさん!? 待ってください!」
勢いよくカウンターを離れようとした俺を、ミーシャさんの慌てた声が引き止めた。
「もし魔法の仕組みをちゃんと勉強したいなら、街の図書館にいくつか初級の魔導書が置いてありますよ。初級魔法のレベルなら結構簡単なので、本を読むだけでもすぐに覚えられると思います! ……でも、独学じゃ中級以上の魔法からは、ほとんど無理ですからね!?」
「え、そんなに高レベルなんですか?」
「はい。初級の火種で火をつけたり、水滴を出してコップを満たすくらいなら感覚でパッとできちゃうんですけど、中級からは必要な魔力量も、それを発動する難易度も跳ね上がるんです。優秀な先生に弟子入りするか、高い学費を払って魔法学校に通わないとほぼ100%発動することはありません。」
「だから、やってみるなら、本当に参考程度ですよ!!」
心配そうに見つめるミーシャさんに、
俺は「分かりました, ありがとうございます!」と笑顔で返し、今度こそギルドを飛び出した。
初級は誰もが生活でバンバン使っている。だけど、中級からは独学じゃほぼ無理。
普通の人間ならそこで諦めるか、大人しく学校に通うんだろう。
だが、せっかく異世界に転生して自由になったっていうのに、また学校なんていう集団生活の場に通うなんて真っ平ごめんだ。引きこもりを舐めるな。
シルバアインの街の図書館。
古い紙の匂いが香る静かな空間で、俺は『初級魔導の基礎』という本を広げていた。
ミーシャの言葉の意味は、最初の数ページを読んだだけで理解できた。
『炎の魔法を会得したい者は、心の中に輝く光を思い浮かべ。それが炎に変化し、弾け、敵へ飛んでいく様ところを強く想像しろ』
「……なるほど。確かに初級レベルなら、この世界のほとんどの人間が生活の中でバンバン使ってるわけだし、この程度のイメージで簡単に出せるわけだ」
思わず納得の声が漏れる。要するに、出せるエネルギーの総量が少ない初級なら、感覚に頼った魔導書のマニュアルでも問題なく発動するのだ。
だが、中級から先はそうはいかない。魔力という強大なエネルギーの塊をそんな雑なイメージで動かそうとすれば、制御を失って暴走するのは本を見れば明らかだった。だからこそ、学校で徹底的に『感覚の制御』を叩き込まれる必要があるのだろう。
だが、俺には蓄えてきた圧倒的な『知識』がある。
炎を出すのは、光が集まるイメージなんかじゃない。どうやって発生し、どう形になるかという、明確な『理屈』だ。
(最初から最後まで理屈通りに魔力を動かせば、不確かな感覚に頼る必要なんてない。これなら中級だろうが上級だろうが、学校なんか行かなくたって完全に制御できる!)
理論は完成した。俺は本を閉じると、図書館の裏の方にある
人通りのない空き地へと移動した。
周囲に誰もいないことを確認し、壁際に立つ。
大きく深呼吸をして、身体の奥底で渦巻く膨大な魔力へと意識を向けた。
ミーシャさんの言っていた、格上の強者すら扱えるか怪しいという【無詠唱】。
みんなが生活で使っている初級レベルの魔法も発動できなかった俺がいきなり最高難易度の発動方法で発動させる。
右手を前方にかざし、目を閉じる。
脳内で、『魔法の設計図』を組み立てていく。
脳内でカチリ、と全てのピースが噛み合った。
直後、身体の奥底の魔力が、意志を持って右手に直結する。
目を開けた、その瞬間だった。
パチッ、と空間が爆ぜるような音が響く。
次の瞬間、俺の手のひらの前に、完璧な『炎の球』が静かに浮かび上がっていた。
パチパチと激しく燃えながらも、俺のイメージによって完全に制御され、ピタリと微動だにせず静止している。
もちろん、声は一言も発していない。完全なる無詠唱だ。
「使えた……。本当に、出やがった……!」
手のひらの炎を見つめながら、俺は興奮していた。
感覚に頼るこの世界の人間が、何年も学校に通って身につけるような魔法発動を、俺はものの数時間、それも完全な独学で、さらには無詠唱で発動させてしまったのだ。
フッと右手の力を抜くと、『炎の球』は一瞬で綺麗に消滅した。
(初級は誰もが生活の中でつかっている魔法、中級から先はほぼ無理、か。……悪いなミーシャさん。俺には前世で溜め込んだ『最強の攻略本』があるんだわ。中級どころか、上級だって最上級だって、わざわざ学校なんて行かずに全部この理論で攻略してやるよ)
さっきまで自分を追い回していたボーンウルフへのリベンジを誓い、俺は力強く拳を握りしめた。
元引きこもりオタクの異世界リスタート。その反撃の狼煙が、静かに、だけど確実に上がり始めていた。
――と、そこまでは最高に格好よかったのだが。
「……あ」
俺は急に、冷や汗が流れるのを感じた。
ボーンウルフから必死に逃げ帰ってきたせいで、依頼の薬草は一束も採れていない。つまり、今の俺の手持ちの報酬はゼロ。
「……今日の飯と宿、どうしよ」
魔法を使えるようになった喜びから一転、俺は財布の圧倒的な軽さを思い出してガックリと肩を落とすのだった。
次回第7話、ボーンウルフとの再戦とハヤテやっとの思いで宿に泊まる
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