4話『初クエストと使えない魔法』
第4話お届けします! 馬小屋での目覚めから、いよいよ待ちに待った初クエストへ。しかしそんなハヤテですが、まさかの大誤算が……!? ぜひ楽しんでいってください!
「うおっ、冷たっ!?」
顔にピチャリと冷たい衝撃を受けて、俺は跳び起きた。
目を開けると、目の前には異世界馬の巨大な顔。どうやら俺の顔を盛大に舐め回して起こしてくれたらしい。
「あはは、ありがとな。……うん、やっぱり馬小屋だな」
髪についた藁を払いながら、俺は苦笑した。異世界転生2日目の朝。身体を軽く動かしてみると、筋肉痛ひとつない。現世の引きこもりボディとは大違いだ。そして俺は宿屋を後にして冒険者ギルドへと向かった。
朝のギルドは、クエストを求めて集まった冒険者たちで溢れかえっていた。
受付カウンターへ向かうと、昨日、測定水晶を粉砕されて涙目になっていたミーシャさんが、俺の姿を見てホッとしたように見られた。
「あ、ハヤテさん! 無事だったんですね。ギルド長から支度金を没収されたって聞いて、お財布は大丈夫か心配だったんです……!」
「あはは、なんとか馬小屋に泊まれました。それより、さっそく依頼を受けたいんですけど……」
「それなら、Fランクの定番ですね。街のすぐ外にある『シルバアイン草原』での【薬草採取】か【最弱魔物の討伐】がおすすめです。これなら初心者でも安全ですよ!」
ミーシャさんが提示してくれたいくつかの依頼書から、俺は『魔力草の採取』を選んだ。報酬は1束で銅貨5枚。これなら今日のうちに何束か集めれば、今夜はちゃんとベッドのある安宿に泊まれるはずだ。
「よし、これにします。行ってきます、ミーシャさん!」
「はい! 無理だけはしないでくださいね。いってらっしゃい!」
可愛い受付嬢に見送られる――これぞ異世界の特権。俺は一気にテンションを上げながら、シルバアインの巨大な城門をくぐり、生まれて初めて「街の外」へと足を踏み入れた。
目の前に広がっていたのは、見渡す限りの緑の野原。
爽やかな風が吹き、地球では見たこともない美しい花々が咲いている。
「すげえ……本当にファンタジーの世界だ」
息をのむような絶景。
だが、俺には薬草採取よりも先に、どうしてもやっておきたいことがあった。
周囲に他の冒険者の姿がないことを確認し、俺はニヤリと笑って右手を前方に突き出す。
「ふふふ……ついに試せる。女神様から授かった、世界唯一の【全属性魔法】の力……!」
ラノベオタクなら誰もが一度は妄想する、魔法の発動。
まずは王道中の王道、初級の攻撃魔法からだ。アニメや小説で何度も見たあのカッコいいポーズを決め、俺は堂々と詠唱を口にした。
「我が指先に宿るは、燃え盛る炎よ、小さな灯火を今ここに。――『ファイアボール』!!」
……しーん。
突き出した俺の手のひらからは、熱の一片すら感じられない。そよ風が寂しく通り過ぎていくだけだ。
「……あれ? おかしいな。声が小さかったか?」
少し恥ずかしくなりつつも、今度はゴホンと咳払いをして、さらに声を張り上げる。
「出よ、水の弾丸!――『ウォーターボール』!!」
「轟け、雷霆!――『ライトニング・ボルト』!!」
……何も起きない。
ピクリとも、光る気配すら、ない。
「嘘だろ……!? 女神様は確かに『規格外の魔力量と全属性魔法の適性を授ける』って言ったよな!? 体の奥には、確かに凄まじいエネルギーを感じるのに……」
焦った俺は、その後もラノベ知識を総動員して、あらゆる詠唱を唱えまくった。
しかし、火も、水も、風も、何一つとして発動する気配がなかった。
「ま、魔法が……使えない……っ!?」
冷や汗がどっと溢れ出てくる。
最強のステータスを手に入れたはずなのに、魔法を出す方法が分からない。これじゃあ、宝の持ち腐れどころか、ただの無力な一般人だ。
その時だった。
ガサリ、と近くの茂みが大きく揺れた。
「グルルルル……ッ!!」
現れたのは、柴犬ほどの大きさがある狼の魔物だった。
しかし、その額からは、包丁のように鋭く尖った一本の角が突き出ている。――シルバアイン草原の危険生物『ボーンウルフ』だ。
ミーシャさんが言っていた「安全な初心者向け」の中には、明らかにコイツは含まれていない。
ボーンウルフは、ギラつかせた凶暴な目を、俺にロックオンし、身を低くした。
「なんで……こんな時に……っ!」
現世でのいじめの記憶、そしてあの通り魔の刃物の恐怖が、一気に脳裏をよぎる。
魔法は使えない。武器もない。手にあるのは、薬草を入れるためのただの袋だけ。
最強の力を持ったはずの俺は、異世界初クエストにして、いきなり絶体絶命の大ピンチに陥っていた――。
第4話を投稿させていただきました。ハヤテはこのピンチを、自身の持つ「ラノベ知識」でどう切り抜けるのか!?面白いと思ってくださったら、ぜひポイント評価やブックマークでの応援をよろしくお願いします!




