14話『偽物の大賢者の実力』
第13話をお読みいただきありがとうございます! 恐怖に目を瞑ってしまったハヤテを庇い、倒れたエレノア…
ハヤテの猛反撃が始まります。それではお楽しみください
「さあ、次はお前の番だ、偽物の大賢者よ」
炎の剣を揺らめかせ、俺たちを勝ち誇ったように見下ろしてくるヒュール。
床に倒れ、傷口を必死に抑えているエレノア
(……ふざけんな。何がくだらないだ。エレノアは体を張って、前衛の役割をしっかり果たして俺を庇ってくれたんだぞ。それをくだらないなんて、お前が言うな……! それに、俺のせいで……俺が日和ったせいで、エレノアが、エレノアがっ……!!)
ドス黒い怒りが胸の奥底から一気に沸点へと達し、視界が真っ赤に染まる。
(出ろ。出ろよ……! 眠ってんじゃねえ、俺の魔力……! こいつを殺すための力を、今すぐ出せ)
俺は体内の奥深くに眠る、全魔力を力任せに解き放った。
ゴォォォォォォォッ!!!
俺の意思に応えるように、体中から「黄金色の魔力」が溢れ出し、空気が揺れる。
だが、ただでさえ限界を迎えていた俺の肉体が、この膨大な魔力に耐えられるはずもなく、全身の血管が今にも千切れそうなほどバキバキと浮き上がる。皮膚の内側から細胞ごと焼き焦がされるような狂った熱さ、脳ミソが内側から破裂しそうなほどの痛み、視界が白く染まる。
「な……っ!? なんだこの狂った魔力量は……!? 貴様、本当にただの人間か!?」
(後先の事なんて知るか、今はただコイツを殺す)
目の前のこいつを今すぐブチ殺したい、その一心だけで、俺は解き放った魔力を強引に絞り出した。
「お前は絶対に殺す。」
怒りで低い声を出した。
(今すぐにでも飛びかかってこいつを肉片に変えてやりたい。だが今は何よりも、苦しんでいるエレノアの処置が最優先だ。)
俺はヒュールを鋭く睨みつけた。自分の顔が見えているわけじゃない。
けれど今の俺の目は、自分でもハッキリとわかるほど殺気で満ち溢れていたはずだ。
視線だけで殺し尽くしてしまいそうなほどの俺の殺意に、ヒュールが一瞬、息をのむ。
その隙を見逃さず、俺は床に勢いよく手を叩きつけた。
「………『アースウォール』…」
放ったのはただの初級土魔法だったが、注ぎ込まれた魔力量によりその威力は段違いだった。
ズドドドドドドドンッ!!!
部屋の床一帯がひび割れそこから土の壁が生成される
「チッ、往生際のないゴミめ――!」
壁の向こうからヒュールが狂ったように土の壁へ攻撃する音が響く。その破壊音を聞きながら、俺はすぐさまエレノアの元へと駆け寄った。
「エレノア、大丈夫か……っ! ごめん、本当にごめん……!」
床に膝を突き、彼女の痛々しいお腹の傷口にそっと両手をかざす。敵への怒りで狂いそうな心を必死に抑え、エレノアを怖がらせないよう、俺はできる限り声を優しく整えた。
「痛むよな、ごめんな……。すぐ血を止めるから、ちょっとだけ耐えてくれ……」
「『ヒール』」
心の中で祈るように、光の初級魔法を発動させた。
だが、どれだけ俺が魔力を注ごうとも、初級魔法の限界は超えられない。激しい光が傷口を優しく、だが強引に包み込み、溢れ出ていた血をピタリと止めた。しかし、効果はそこまでだ。
傷口の表面を塞ぐ応急処置が限界で、焼き切られた肉のダメージや激痛までは消し去ってくれなかった。
「ひ、熱い……っ!いた、痛……」
血こそ止まったものの、激痛にエレノアは背を丸め、爪が割れそうなほど強く床を引っ掻いている。
溢れ出る涙と冷や汗で顔をぐしゃぐしゃにし、ハァハァと苦しそうな荒い息を吐き出すばかりで、指先一つまともに動かすことすらできていなかった。
「クソ、初級じゃこれが限界か……。でも大丈夫、血は止まったから。エレノアはもう頑張らなくていい、そのままじっとしてて」
あまりの激痛に苦しむエレノアの姿を見て、自分で引き起こした体内の魔力がさらに湧き出る。
バゴォォォォォンッ!!!
その直後、時間を稼いでいた巨大な土の壁が、中央から木端微塵に破壊された。
激しい土煙を浴びながら、炎の剣を構えたヒュールが血走った目で突っ込んでくる。
「前衛が消えた魔法使いなど、一撃で叩き潰してくれるわァ!」
猛烈なスピードで突進してくるヒュール。床に倒れ、痛みで声すら出せそうにないエレノアが、必死に手を伸ばそうとして叫んだ。
「ハヤテ、逃げ……っ! 私は、まだ、動けな……が!」
そんな彼女を安心させるように、俺は優しく微笑み、頭をポンと軽く叩いた。
「逃げるわけないだろ。俺の大切な前衛を傷つけられて、黙ってられるかよ。」
(エレノアに告げる声は、穏やかで優しくできただろうか。)
すっと立ち上がり、ヒュールと向かい合った瞬間――俺の表情から、一切の光が消え失せた。
「おい、言ったとうりお前をこれから殺す」
「できるものならやってみろ!お前のたいした威力も出ない魔法でもできるのならばなァ。」
ヒュールが炎の黒剣を大きく振りかぶり、俺の首をハネようとする。その直前俺は右手を突き出し、体内のすべての魔力を「漆黒の呪い」へと変換した。
「よくもエレノアをやってくれたな。消し飛んで無くなれよ。『ダーク・ボルテックス』」
(初級の組み合わせばかりで戦ってきた俺が、万が一の土壇場に備えて、このクエストまでに唯一用意していた『中級魔法』 制御の難しさなんて知るか、今はこいつを殺せればそれでいい。)
俺の喉が張り裂けんばかりの声とともに右の手のひらから「漆黒の闇の渦」が解き放たれた。
それは中級魔法という枠組みを完全に無視し、俺の魔力を吸って空間そのものを噛み砕くような巨大な暗黒の竜巻へと肥大化していく。
「な……っ!? 闇の、中級魔法……!? 馬鹿な、人間がこれほどの密度の魔法を無詠唱で――ぎ、ぎゃあああああああああっ!?!?!?」
ヒュールの放った炎の斬撃は、俺の闇の渦に触れた瞬間、一瞬で呑み込まれ、掻き消された。
それどころか、ヒュールの右腕、そしてその半身が、漆黒の渦の中にメリメリと巻き込まれ、削り取られていく。
「が、あ、あ……! 魔力が、喰われる……!? 四天王の配下である、この我がぁぁぁぁぁ!!」
暗黒の竜巻はヒュールを容赦なく完全に呑み込んだ。
空間を削り取るような凄まじい轟音が響き渡り、やがて――渦が静かに消えた。
そこには、ヒュールの肉片すら、何一つ残っていなかった。
俺はは血走った目のまま、肩を激しく上下させて、自分の右手を見つめた。
――視界に入った自分の手のひらは、直視できないほど痛痛しく変形していた。
慣れていない中級魔法の発動による重圧と暴走した魔力に耐えきれず、皮膚は炭のように黒く焼け焦げ、手の肉がところどころ弾けている。
指は原形すら崩れかけてボロボロになっていた。あまりの損傷に、神経すら焼き切れて感覚すら存在しない。
そのグロテスクな自分の右手に驚いていた瞬間。
頭に上っていた怒りのアドレナリンが、急激に引いていくのを感じた。
(……あ、これ、ヤバい)
自覚した直後、凄まじい「ツケ」が全身を一気に襲った。ただでさえ限界寸前の過負荷だった脳に、無理やり放った中級魔法の反動。身体への負荷は想像を絶していた。
「...が、あ……く……っ……」
耐えきれず、俺の膝がガクガクと崩れ、そのまま床にドサリと倒れ込んだ。冷や汗がポタポタと床に垂れている。視界は激しく明滅し、不快な耳鳴りが鳴り止まない。
「は、ハヤテ……っ!? お前、今のは一体……って、おい、大丈夫か!?」
床に倒れて動けないエレノアが、あまりの急変ぶりに顔を青ざめさせて叫ぶ。彼女の声が、ひどく遠く聞こえた。
「え、エレ……ノ……」
心配させまいと声を絞り出そうとしたが、それすら叶わなかった。冷たい床の感触が消えていくのと同時に、俺の視界は完全に真っ暗な闇へと引きずり込まれる。
(……あれ? 俺、また死ぬのかな)
意識が薄れかける頭の中で、どこか他人事のように軽い言葉がひょっこり浮かんだ。前世の最期でも思い出したのか、我ながら呆れるくらい能天気で、ふざけた思考だ。
――だけど、その直後、胸の底からふつふつと猛烈な悔しさがこみ上げてきた。
(ふざけんなよ……せっかく格好つけて「任せろ」なんて言っておいて……苦しんでるエレノアを置いて、またこんなところで倒れるのかよ……。クソッ、情けねえ……悔しいな……!)
(あ、でも、本気で……無理……)
最後に心の中でそう悔しさを吐いたのを最後に、俺の意識はプツリと途切れ、そのまま深い闇の底へと沈んでいった。
第14話お読みいただきありがとうございます!
膨大な魔力と引き換えに体にものすごい負荷をかけ倒れてしまったハヤテ。絶体絶命の二人の運命は……!?
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