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13話『死の記憶と前衛の誇り』

第13話をお読みいただきありがとうございます!

「死ね」


ヒュールが短く呟くと同時に、炎を纏った漆黒の剣が一文字に振るわれた。空気を爆発させながら、猛烈な火炎の刃が押し寄せる。


「くっ……! 怯んでいる場合か……!」


エレノアは自らの頬を叩いて恐怖を噛み殺すと、白銀の大剣を構えて前方へと飛び出した。

彼女はスキルを温存したまま、鋭い剣技だけで炎の刃を受け流す。


キィィンと金属と金属がぶつかる音が響き、激しい火花が散った。しかし、受け流したはずの炎の火の粉が彼女の前髪をチリチリと焼き焦がす。


「ハヤテ、ぼうっとするな! 魔法で奴の動きを止めろ!」


「分かって、る……っ!」


俺の頭はズキズキと悲鳴を上げる両手で押さえながら、必死に頭を回す。


頭が割れるように痛い。さっきの中間ボス戦で脳のリソースを使い果たしたツケが、この土壇場で重くのしかかっている。だが、休んでいる暇なんて一秒もない。


(単発の水魔法じゃ当たる前に蒸発する。なら、どうする!?)


脳が千切れそうな痛みに耐えながら、俺はなんとか魔法を発動させた。


(土属性の『アースバレット』で小石を生成し、その後に水属性『アクア』で小石に水の膜を纏わせるそして… 風属性『ウィンド』で超高速回転させ…放つ。)


「ロータリー・ピアッサー」


俺の石の弾丸はヒュールの長剣に一直線に向かっていった。

ヒュールの長剣がその弾丸を受ける。


ジュッッッー


その瞬間爆発的な水蒸気が発生し、ヒュールの炎が一瞬だけ掻き消された。


「見事だ、ハヤテ!」


エレノアはその好機を逃さず、ヒュールの懐へと入った。狙うは奴の首筋。


しかし――。


「ふん、小賢しいな」


ヒュールは冷酷に笑うと、漆黒の剣を突き出してきた。刃に纏わり付く炎が爆発的に膨れ上がり、迫り来るエレノアを逆に呑み込もうとする。


エレノアは即座に軌道を修正し、迫る炎の突きを瞬時に白銀の大剣で弾き飛ばした。だが、その衝撃波に押され、俺たちは大きく後方へと吹き飛ばされる。


硬い床に背中を打ち付けながら、俺はなんとか起き上がった。視界がチカチカする。


(頭が重い、意識が飛びそうだ。)


「しぶとい奴らだ。我の邪魔はさせん……灰すら残さず焼き尽くしてくれる」


ヒュールが不愉快そうに目を細め、剣を天高く上げた。


「──燃え上がれ、我が剣よ。『プロミネンス・バースト』!!」


それは、魔物の膨大な魔力を注ぎ込んで放たれる、炎の範囲攻撃スキルだった。


振り下ろさせた剣の先から、巨大な炎がうねりを上げて俺たちへと襲いかかる。


(あ、クソ……。身体が、動かねえ……!)


頭痛による目眩のせいで、避けるための第一歩が踏み出せない。死のイメージが脳裏をよぎり、俺の思考が完全にフリーズした。


(――あ、これ。知ってる。この、動けない感覚、覚えがある)


突如として、俺の脳裏に「あの日」の記憶がフラッシュバックする。


転生する前、結衣と一緒に歩いていた時、背後からいきなり近づいてきた通り魔に、腹を思いきり刺された時の記憶だ。


冷たい鉄の感触が体内に侵入し、信じられないほどの衝撃と共に、急速に体温が失われていったあの瞬間。


心臓がバクバクと震える、指先一つ動かすこともできず、ただ薄れゆく意識の中で迫り来る「死」に怯えることしかできなかった、あの圧倒的な無力感と絶望。


(せっかく転生させてもらって、二度目のチャンスまで与えられて、大賢者の生まれ変わりだなんて言われて、なのにまた俺は、あの時と同じように何もできずに無様に殺されるのか――?)


迫る紅蓮の炎。


熱波が肌を焦がす。その時だった。


「ハヤテッ!!」


視界の端から、銀髪の髪が堂々と割り込んできた。エレノアだ。


彼女は俺を庇うようして立ち塞がり、温存していた魔力を剣へと込めた。


(エレノアが死ぬ)


エレノアが目の前で死ぬという恐怖に、俺は抗うこともできず、ただギュッと両目を瞑(つむ)ってしまった。


「エアスラッシュ!!」


肌で感じられたのは、放たれた大気を切り裂くほど速い刃。


キィィィィィン


-----−–−


はっと息を呑み、俺は恐る恐る目をあける。


俺を庇うように立ち塞がっていたエレノアが、を舞い、そのまま地面に転がる。


彼女の鎧は貫かれ、そしてお腹のあたりの衣服は無残に切り裂かれ、黒く焼け焦げていた。


ヒュールの放った炎の刃によって、鎧ごとそのお腹の皮膚や肉が深く焼き切られてしまっているのだ。赤黒く焼けた痛々しい傷口からは、激しく熱い煙が立ち上っていた。


「エレノア!!」


俺は、必死に彼女のもとへと駆け寄る。


地面に倒れたエレノアは、辛うじて息をしてはいるものの、お腹は焼き切れ血が大量に出ている。


「おい、しっかりしろ! エレノア! ……ごめん、ごめんな! 俺が、俺がビビって目を瞑ったりしたから、お前がこんな……っ!」


涙を堪えながら、震える声で必死に謝罪の言葉を口にする。すると、エレノアは細めていた青い瞳をわずかに開き、弱々しく首を横に振った。


「……謝るな、バカ。これが……前衛の役割だ。後衛の魔法使いを死んでも守る。むしろ、すまないハヤテ……完全に防ぎ、きれなかった……」


自分の方が間違いなく重傷を負っているというのに、俺に謝罪するエレノア。騎士としての誇りと責任を口にしてみせた。その弱々しく震える手から、愛用の白銀の大剣がカランと音を立てて滑り落ちる。


前衛を失い、完全に崩された俺達。


その向こうで、ヒュールは未だ底知れない魔力を剣に溜め込み、俺達を見下している。


「仲間の盾になって自滅するか。くだらん。さあ、次はお前の番だ。偽物の大賢者よ」


最悪の状況。

脳が引き裂かれそうなほどの頭痛と、目の前で傷ついた相棒。そして、死へのトラウマ。


絶体絶命の窮地の中で、俺は、だたヒュールを睨みつけることしかできなかった。


第13話お読みいただきありがとうございます!

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