11話『ダンジョン後半戦』
第10話をお読みいただきありがとうございます! 中間地点での短い休息を終え、ハヤテとエレノアはついにダンジョンの後半戦へと足を踏み入れます。
さらに色濃くなる魔素のなか、二人の前に立ちはだかるのは強力な中間ボス! スキルを温存するエレノア対し、ハヤテはどんな活躍を見せてくれるのか。
息を整え、俺とエレノアはさらに深い下層へと進んでいた。
坑道の空気は先ほどまでとは一変し、冷気と、ねっとりとした不快な魔素がまとわりついてくる。
「ここからはより一層気を引き締めろ、魔法使い。四天王の配下が近くにいる影響で、現れる魔物の強さが一段階上がるぞ」
「分かってる。お前こそ、さっきのスキルの反動は大丈夫なのか?」
「は、剣ならいくらでも振るえる。だが、奥にいる本命を警戒して、大技はそこまで温存するつもりだ。お前のサポート、期待しているぞ」
不愛想に、だが確かに俺の実力を認めたような口ぶり
でエレノアが先を見据える。
その直後だった。
重苦しい足音が坑道に響き渡り、その地響きと共に巨大な魔物が姿を現した。
それは、全身が岩や鉄の鉱石で覆われた、全長3メートルはあるであろう、巨大な魔物だった。
(あ、あれは……!このクエスト前、例の図書館でパラパラと読んでた本に載ってた奴だぁ!
確か名前は『アイアン・ブルート』その腕は巨大な鉄の塊のようで、一発喰らえば人間など簡単に肉片にされる、とか書いてあった気がする……)
記憶がフラッシュバックした瞬間、俺の脳内は一瞬でパニックに陥った。
(いやいやいや、待て待て待て! 本に書いてある事が既にヤバいし、これ完全にラノベやRPGでいうところの、あのめちゃくちゃ厄介なダンジョンの『中間ボス』的な奴じゃねえか! 転生したてで実戦経験も浅い俺にこんなの無理だ、無理無理、絶対に無理だぁ……っ!)
圧倒的なデカブツを前にして、思わず恐怖し、一歩後ろへ退がろうとした、その時だった。
「お出ましだな……! 前衛は任せろ!」
「えっ!? おい、ちょっと待っ──」
エレノアが強い踏み込みと共に地を蹴った。白銀の髪をなびかせ、本に載ってあった恐ろしい魔物へと真っ正面に突っ込んでいく。
(マジかよあの女騎士、一ミリもビビらず突っ込んで行きやがった。クソッ、ここで一人置いていかれたらそれこそ終わりだし、金貨1枚を諦めて逃げ帰るわけにもいかない……!)
俺は心の中で涙を浮かべながら、半分やけくそで彼女の背中を追っかけるように前へと飛び出した。
スキルを使わないと宣言した通り、エレノアは純粋な身体能力と剣技だけで立ち回る。魔物…アイアン・ブルートが振り下ろすあの鉄の塊ような腕を紙一重でかわし、その隙を突いて白銀の大剣を振るった。
ギギィンッ!!!
火花が散り、金属音が坑道に響く。しかし、アイアン・ブルートの頑丈な鉱石の皮膚は、エレノアの通常攻撃を浅く跳ね返した。
「チッ、やはり硬いな……!」
(確かにこいつはパワーも防御力もイカれてる。だけど、ダンジョンの中ボスはラノベやRPGの理論でいくと。主人公が勝つのが当たり前な敵、転生者たる俺が、こんな中ボス相手に、バッドエンドを迎えてたまるかよ……!)
こうなったらやるしかない。俺はあの本の覚えている限りの知識をフル回転させ、即座に『魔法の設計図』を組み立てた。
単発の初級魔法では、あの装甲はブチ抜けない。火を放っても表面が熱くなるだけだし、土の弾丸では逆に砕かれる。
だったら…
初級の出力不足を補うしかない、──2属性じゃ足りないなら、3属性の魔法を同時に発動させる。
『火』『水』『土』の3属性を同時にぶち当てて、威力を何倍にも跳ね上げる!
俺は両手を前方へ突き出し、一気に3つの初級魔法を無詠唱で融合させる。
(まずは土属性の『アースバレット』で硬い弾丸を作り、そこに水属性の『アクア』の流れで弾丸を加速させる! 最後に火属性の『ファイア』を限界まで圧縮して、着弾と同時に大爆発を起こす。)
3つの魔力が複雑に絡み合い、俺の手のひらの前で猛烈なエネルギーへと膨れ上がる。
喰らえ「マグマ・バレット」
そして、アイアン・ブルートの胸元の一点に向けて、一直線に解き放たれた。
俺の魔法は、坑道全体が震えるほどの爆音と共に、3つの属性が混ざり合った特大の爆発が起こし。アイアン・ブルートの胸部を正面から直撃した。
いくら表面が頑丈な鉱石だろうと、3属性分の威力を掛け算で叩き込まれては耐えきれない。
アイアン・ブルートの巨体がメリメリと音を立てて砕け散り、一瞬で木っ端微塵に弾け飛んだ。
飛び散る石ころと激しい爆風。
その向こうで、剣を構えたままのエレノアが、本日何度目か分からないほどの衝撃で呆然と立ち尽くしていた。
「あ……初級……え? 今のは、何だ……?」
「ん? 土の弾を水で加速させ、火でドカンとやっただけ。ただの3属性の同時発動って言ったとこかな。」
「はぁ?異なる属性の3つの魔法を、魔法陣も詠唱もなしに、完璧なタイミングで混ぜ合わせて発動させただと……!? お前、本当に何者なんだ……大賢者の生まれ変わりか何かか!?」
エレノアは、さっきまでビビっていた男が放った規格外の威力に、目を丸くして呆然としていた。
その取り乱しっぷりに、俺は内心で盛大にドヤ顔を決めてみせる。──が、実際のところ、俺の脳内は今、未だかつてないほどの悲鳴を上げていた。
(ぶっちゃけ、魔力自体はまだ余裕がある。だけど……異なる3つの属性の魔法を同時に、しかも無詠唱で完璧にコントロールして混ぜ合わせるとか、脳みその処理が追いつかん、まぁそれは段々と慣れていけばいいかぁ。)
一歩間違えれば手元で大爆発を起こしかねない超絶精密制御。
その緊張感と脳への負担で俺は立っているのがやっとなくらいに疲れ果てていた。
しかし、ここでヘタるわけにはいかない。俺は必死にポーカーフェイスを維持した。
「まあ、これくらいは奥にいる奴との『腕鳴らし程度』……だろ?」
俺が視線を向けたのは、坑道の突き当たりにある、異様な雰囲気を放つ頑丈な鉄の扉だった。
かつては「旧鉱山の会議室」として使われていたであろうその場所は、今や尋常じゃない魔力の供給源となり、完全に改造されているのが外からでも分かった。
「……ふん、大口を。さっきは腰が引けていたように見えたが、私の見間違いだったようだな」
エレノアは呼吸を整え、真っ赤になった顔を隠すように冷徹な表情を作り直すと、大剣を強く握り直した。俺の内心の「脳みそヘロヘロ状態」には、全く気づいていないようだ。
「この扉の向こうに、四天王の配下『ヒュール』がいる。いくぞ、ハヤテ」
「ああ。金貨をしっかり稼がせてもらうさ」
俺はズキズキ痛む頭を気合いで無視し、エレノアと共に、改造された会議室の重い鉄扉へと手をかけたのだった。
第11話いかがでしたでしょうか! 3属性同時発動という大技を決めたハヤテですが、やはりその代償は大きかったようで…
脳内ヘロヘロのまま、ついに辿り着いた『旧鉱山の会議室(ヒュールの部屋)』。次回第12話、ついに四天王バトラスの配下『ヒュール』との本格的なボス戦が幕を開けます!




