10話『一撃必殺のスキル』
第10話をお読みいただきありがとうございます! ついにダンジョンへと足を踏み入れたハヤテとエレノア。しかし、四天王の配下によって統率され、「共存」を始めた魔物たちの連携は想像以上の脅威でした。エレノアが放つ驚異の『スキル』とその代償とは……。二人の手に汗握る共闘と、息つく暇もない展開をお楽しみください!
入ったダンジョンの内部は、文字通りの地獄だった。
「グルルルル……!」
「シャアアアッ!」
暗闇の奥から現れたのは、ボーンウルフ3頭、そして天井を這う巨大な蜘蛛・タランチュラに似た魔物が2匹。
本来なら互いに縄張りを争うはずの魔物たちが、まるで統率された軍隊のように完璧な陣形を組んで俺たちに襲いかかってきた。
(チッ、数が多すぎる……! だけど、火属性の『ファイアボール』と風属性の『ウィンド』を組み合わせて、酸素を一気に供給すれば――!)
「フレイム・ブリーズ」
俺は脳内で高速で『魔法の設計図』を組み立て、右手を突き出す。
無詠唱で放たれた熱風の塊がボーンウルフの一頭に直撃し、その身体を激しく炎上させた。
よし、手応えあり! と思ったのも束の間。
「なっ……!? 嘘だろ!?」
炎上したボーンウルフを盾にするようにして、残りの2頭が左右から回り込んできた。さらに天井のタランチュラが、俺の死角を突いて粘着の糸を吐き出してくる。
一匹一匹の動きは大したことはない。だが、完璧に弱点を補い合う「連携」の前に、俺の初級魔法は次々と防がれてしまう。
(クソッ、やっぱり『初級』魔法だ……! 組み立てが完璧でも、元の出力が低すぎて一撃で複数を肉片に変えるほどの決定力がない……!)
迫り来る鋭い爪と牙。
背中に冷たい汗が伝わる。現代の知識があろうと、身体はただの新人冒険者だ。数の暴力と圧倒的な連携を前に、俺は完全に追い込まれ、防戦一方で息を切らせていた。
「おい、下がっていろ魔法使い!」
その時、鋭い声とともに、白銀の閃光が俺の目の前を通り抜けた。
前衛のエレノアだ。彼女は容赦なく迫るボーンウルフの爪を紙一重でかわすと、大剣を構えて深く腰を落とした。
その瞬間、彼女の身体から、目に見えるほどの濃密な「魔力」が立ち上り、白銀の大剣へと吸い込まれるように集束していく。
「『閃光斬』!!」
エレノアが剣を振るった瞬間キィィィンッ! と空気がどよめいた。
その刃から光の斬撃が放たれ、眼前にいた魔物たちを一文字に両断したのだ。凄まじい衝撃波が坑道を駆け抜け、残っていた魔物も一瞬で消し飛ぶ。
「はぁ、はぁ……。片付いたな」
エレノアは剣を引き抜き、荒い息をつきながらそう言った。
俺は唖然として、その光景を見つめるしかなかった。
「……いまの、魔法か? だけど、お前は剣士だろ?」
「お前マジで何も知らないんだな、これは魔法ではない。剣の技――『スキル』だ」
エレノアは額の汗を拭いながら、不愛想に説明を始めた。
「スキルとは、身体能力を高め、自らの魔力を直接消費して放つ強力な技のことだ。魔法のように長い詠唱を必要とせず、一瞬で絶大な破壊力を生み出すことができる。戦士や騎士が魔物と渡り合うための絶対的の切り札だな」
「なるほど、魔力消費の必殺技か。めちゃくちゃ便利じゃないか」
「……おめでたい頭だな。そんな都合の良い技があるわけがないだろう」
エレノアはキッと俺を睨みつけると、少し苦しそうに己の胸元を押さえた。
「スキルは体内の魔力を一気に爆発させる。そのため、一度使うと、乱れた魔力を整えるため、魔力を補充するための『大きな溜め』が必要になるんだ。いまの私を見れば分かるだろう? 再びスキルを使えるようになるまでには時間がかかる。連発などすれば、身体の回路が焼き切れる諸刃の剣だ」
(なるほど。格闘ゲームのゲージ消費技か、あるいは強力なクールタイムが存在するスキルってわけか。強力な技だけど
連発できないのはキツいな……)
「つまり、今のエレノアは普通の剣技しか使えないってことか」
「そうだ。だから……ここからはお前の、その妙な魔法のサポートが必要になる。いくぞ!」
エレノアの言葉通り、ダンジョンは容赦なく次の魔物を送り込んでくる。
スキルの使えない「溜め」の時間。エレノアは天才的な剣技で奮闘するが、やはり多勢に無勢、徐々に疲労が見え始める。
(だったら、俺の魔法でその『溜め』の時間を埋めてやるよ……!)
俺は必死に頭を回転させた。威力で劣るなら、環境を利用する。
土属性の「アース・クラック」で足元を崩して魔物の姿勢を崩し、そこへエレノアの剣が滑り
込む。風属性の『ウィンド』でエレノアの背後から迫る蜘蛛の糸を吹き飛ばし、死角を完全にカバーする。
「そこだ、エレノア!」
「助かる!」
初級魔法しか使えない俺の、必死の泥臭いサポート。そしてエレノアの苛烈な剣技。
即席のコンビとは思えないほど、俺たちの『魔法』と『剣』は噛み合っていった。
激戦を繰り広げること、さらに数十分。
ようやく魔物の気配が途切れ、俺たちは少し開けた、古い採掘道具が転がる広場へと滑り込んだ。
「ふぅ……っ! ここら辺は、少し魔物の気配が薄いな。一旦足を止めるぞ、魔法使い」
エレノアががくりと膝をつくようにして、壁に背を預けた。
彼女の白い肌は激しい運動とスキルの反動で上気し、大きく胸を上下させている。そのどこか色っぽい
姿にドギマギしつつも、俺もその場にへたり込んだ。
「ここが、この旧鉱山跡のちょうど**『中間地点』**ってところか……。死ぬかと思ったわ……」
「……認めざるを得ないな。お前のその泥臭い立ち回り、確かに私の『溜め』の時間を完璧に補ってくれた。お前がいなければ、今頃私は蜘蛛の餌だっただろう」
エレノアはツンとしたトーンのまま、しかし確かな敬意と恥ずかしさを隠すように、ぷいっと顔を背けた。その真っ赤になった耳が、薄暗い坑道の中でやけに目立っている。
(ツンツン女騎士が、少しずつ俺を認め始めてるな。この調子でデレさせていくのも悪くない…… )
そんな下心を抱きつつも、俺たちの視線は、さらに深く続く薄暗い道へと向けられた。
そこからは、これまでの魔物とは一線を画す、圧倒的に邪悪で巨大な魔素がゆらゆらと這い上がってきている。
一時の休息。だが、四天王の配下『ヒュール』が待つダンジョンの後半戦は、もうすぐ目の前まで迫っている。気を引き締めよう。
第10話いかがでしたでしょうか! 今回は、剣士たちが使う『スキル』の解説と、その代償である『大きな溜め』
について描きました!
初級魔法の限界に直面して冷や汗を流しながら苦戦するハヤテですが…これからもご愛読お願いします。




