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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
観測の暴走

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誰も見ていない世界

 配信は終わった。


 画面は暗い。


 コメントは流れない。


 数字もない。


 静かだ。


 ダンジョンの空洞には、水滴の音だけが残っている。


 ポタ……


 ポタ……


 俺はカメラを床に置いた。


 いつもの配信機材。


 いつものライト。


 いつものレンズ。


 ただ、もう誰も見ていない。


 配信は切れている。


 影の俺が腕を組んだまま言った。


「これで終わりだ」


 俺は頷いた。


「そうだな」


「観測は?」


「止まる」


「世界は?」


「普通に戻る」


 影の俺は小さく笑う。


「普通、ね」


 その言葉の意味を考える前に――


 空洞が静かに揺れた。


 ゴゴ……


 小さな振動。


 地震というほどではない。


 ただ、地面の奥で何かが動いたような揺れ。


 俺は周囲を見回した。


「今のは?」


 影の俺が天井を見上げる。


「観測が切れた」


「だから?」


 影の俺は言った。


「世界はずっと」


「誰かに見られていた」


「お前に」


「その前の配信者に」


「そのまた前の観測者に」


 俺は眉をひそめる。


「つまり?」


 影の俺はゆっくり言った。


「誰も見ていない世界は」


「久しぶりなんだ」


 その頃。


 世界中で、

 小さな違和感が生まれていた。


 アメリカ。

 ネバダ州の砂漠。


 軍の観測衛星が、ほんの一瞬だけ信号を失った。


 0.3秒。


 技術者は眉をひそめる。


「ノイズか?」


 記録は残らない。


 ただ、データが一瞬空白になる。


 フランス。

 パリの研究所。


 量子実験のモニターが揺れた。


 粒子の軌道が、ほんの少しずれる。


 研究員が言う。


「観測エラー?」


 もう一度測る。


 今度は正常だ。


 日本。

 東京。


 地下鉄のホーム。


 電車がホームに入る瞬間。


 一人のサラリーマンが時計を見る。


 18時14分。


 次の瞬間。


 18時14分のまま。


 一瞬だけ。


 世界が止まる。


 誰も気付かない。


 ただ、時間がほんのわずか空白になる。


 空洞の中。


 影の俺が静かに言った。


「観測が消えると」


「世界は不安定になる」


 俺は腕を組んだ。


「大げさだろ」


 影の俺は首を振る。


「大げさじゃない」


「量子って知ってるか」


「なんとなく」


「観測しないと」


「粒子は決まらない」


 俺は思い出す。


 昔、配信で見た科学動画。


 シュレディンガーの猫。


 箱の中の猫は、


 生きているか死んでいるか


 観測するまで決まらない。


 影の俺が言った。


「世界も同じだ」


「誰かが観ているから」


「形が決まる」


「観測が消えると」


「世界は揺れる」


 空洞がもう一度揺れた。


 ゴゴ……


 今度はさっきより強い。


 天井の岩が小さく崩れる。


 俺は眉をしかめた。


「これ」


「まずくないか」


 影の俺は答えない。


 ただ、遠くを見る。


 その頃。


 世界のネットワークでも異変が起きていた。


 SNS。


 動画サイト。


 配信プラットフォーム。


 一斉に同じ現象が発生する。


「トレンド消失」


 ランキングが一瞬消える。


 再読み込み。


 復活。


 しかし、技術者たちは首をかしげる。


 理由が分からない。


 トラフィックは正常。


 サーバーも正常。


 ただ。


「誰も見ていない瞬間」が


 一瞬だけ生まれる。


 空洞。


 俺は言った。


「じゃあ」


「誰かが観ないとダメってことか」


 影の俺は静かに答える。


「そうだ」


「誰かが」


「世界を見続けないと」


「世界は揺れる」


 俺は笑った。


「だから椅子に座れって?」


 影の俺は何も言わない。


 ただ、椅子を見る。


 石の椅子。


 静かにそこにある。


 空席。


 そのときだった。


 俺の足元。


 床に置いたカメラ。


 黒い画面。


 電源は切れているはずだった。


 なのに。


 画面が光る。


 小さく。


 そして。


 数字が浮かぶ。


 視聴者数 1


 俺は目を細めた。


「……誰だ」


 影の俺も画面を見る。


 そして小さく呟く。


「始まったな」


 チャットが表示される。


 たった一行。


〈見てるよ〉


 俺の背中に、冷たいものが走る。


 配信は終わったはずだった。


 観測は終わったはずだった。


 なのに。


 誰かが。


 見ている。


 そして。


 視聴者数が。


 ゆっくり増える。


 2


 3


 5


 9


 影の俺が笑った。


「言っただろ」


 俺はカメラを見つめる。


 数字が増えていく。


 21


 47


 108


 影の俺が言う。


「観測は」


「終わらない」


 俺は静かに呟いた。


「……誰が」


「配信してる?」


 その瞬間。


 画面に文字が浮かぶ。


【新しい配信者が接続しました】


 そして。


 世界のどこかで。


 新しいカメラが。


 静かに。


 起動した。


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