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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
観測の暴走

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もう一人の配信者


 影が、ゆっくりと立ち上がった。


 床に落ちていたはずの俺の影。


 それが立体になり、黒い人の形を作っている。


 輪郭は完全だ。

 顔も。

 目も。

 口も。


 だが色だけが違う。


 全てが黒い。

 光を吸い込むような黒。


 そして。


 その顔は。


 完全に、俺だった。


 チャットが凍る。


〈は?〉

〈ドッペルゲンガー?〉

〈コピー?〉


 影の俺が、首を回した。

 骨が鳴るような音がする。


「……ああ」


 低い声。


「やっと会えたな」


 俺はナイフを握ったまま動かない。


 距離は十メートルほど。


 影の俺は、ゆっくりと歩き出す。


 足音が響く。


 コツ。

 コツ。


 石の空間に、乾いた音が広がる。


 視聴者数。


 318,000


 まだ増えている。


 影の俺が言った。


「お前」


「面白い配信するな」


 チャットがざわつく。


〈なにこいつ〉

〈AI?〉

〈ダンジョンのボス?〉


 俺は言う。


「お前、誰だ」


 影の俺は笑った。


「俺だろ」


 沈黙。


 影の俺が指をさす。


 俺に。


「配信者」


「観測者」


「罪人」


「全部」


「お前と同じだ」


 チャットが流れる。


〈どういう意味〉

〈コピー?〉


 影の俺は空中の文字を見る。


【最終試験】


 そして言った。


「試験ってのはな」


「比較なんだ」


 俺は眉をひそめる。


「何を」


 影の俺は即答した。


「どっちが面白いか」


 チャットが爆発する。


〈配信対決?〉

〈草〉

〈ラスボス配信者?〉


 影の俺が肩をすくめる。


「配信だろ」


「これは」


「ダンジョンじゃない」


「番組だ」


 空洞の奥が暗く揺れた。


 まるで巨大な観客席のように。


 影の俺が続ける。


「ここは」


「観測装置」


「視聴率装置」


「リアル配信の最終形」


 俺は椅子を見る。


 石の椅子。


 静かにそこにある。


 影の俺が言う。


「座ったやつは」


「配信になる」


「全部」


「人生ごと」


 チャットがざわつく。


〈やばい設定〉

〈怖すぎる〉


 影の俺が笑った。


「視聴者がいる限り」


「世界は続く」


「観測される限り」


「現実になる」


 俺は言った。


「じゃあ」


「お前は何だ」


 影の俺は答えた。


「前の配信者」


 沈黙。


 チャットが止まる。


〈え?〉

〈前?〉


 影の俺は指を立てる。


「正確には」


「途中で折れた配信者」


「ここまで来て」


「座れなかった」


 空気が冷える。


 影の俺の目が光る。


「怖くなった」


「視聴者が」


「世界が」


「全部」


 俺は言った。


「だから俺を止める?」


 影の俺は首を振る。


「違う」


 そして。


 ゆっくり笑う。


「面白い方が座る」


 チャットが震える。


〈ガチ配信対決〉

〈ラスボス配信者〉


 影の俺が手を広げる。


 その瞬間。


 空中に画面が浮かんだ。


 二つ。


 左。

 俺の配信。


 右。

 影の配信。


 そして。


 視聴者数が分かれた。


 318,000


 数字が割れる。


 俺:159,412

 影:158,588


 チャットが狂った。


〈投票?〉

〈どっち見る?〉


 影の俺が言った。


「配信者の価値は」


「数字だ」


「昔からな」


 俺はナイフを回す。


「それで?」


 影の俺が笑う。


「簡単だ」


 指を鳴らす。


 ゴォォォォォン


 空洞が震える。


 地面が割れる。


 そして。


 下から何かが這い上がる。


 巨大な影。


 竜のような怪物。


 長さ二十メートル。


 赤い目が光る。


 チャットが絶叫する。


〈ドラゴン〉

〈やばすぎ〉


 影の俺が言った。


「どっちが」


「面白く倒すか」


「それだけだ」


 竜が吠える。


 空洞が震えた。


 影の俺がナイフを構える。


 俺を見る。


 そして。


 笑った。


「さあ」


「配信しようぜ」


 竜が突進する。


 岩が砕ける。


 戦いが始まる。


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