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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
観測の暴走

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観測された罪


 空洞の奥。


 暗闇が、ゆっくりと形を作っていた。


 人影。


 背丈は普通の男。


 だが、体はぼやけている。


 輪郭が崩れ、黒い霧のように揺れている。


 そして。


 着ている服だけが、はっきりしていた。


 黒いパーカー。


 膝の破れたジーンズ。


 三年前。


 あの夜、崖の前に立っていた男と同じ服。


 チャットが止まっている。


 二十万人以上が見ているのに、コメントが流れない。


 誰も言葉を出せない。


 人影が、一歩前に出た。


 足音はしない。


 だが、空気が冷たくなる。


 影の顔が、少しずつ形を持つ。


 目。


 口。


 だが、完全には見えない。


 ノイズのように揺れている。


 そして。


 声。


「なんで」


 低い声。


 擦れた声。


「止めなかった」


 空洞に響く。


 チャットが震える。


〈……〉

〈マジで本人?〉

〈これダンジョンが再現してるの?〉


 俺は、その影を見た。


 三年前の記憶が、胸の奥を引き裂く。


 崖。


 ジャンプ。


 落下。


 そして。


 あの音。


 遠くで聞こえた、体が岩にぶつかる音。


 俺は言った。


「……お前」


 影が顔を上げる。


「覚えてるか」


 その言葉。


 チャットが止まる。


 影が近づく。


 一歩。


 また一歩。


 距離が縮む。


 俺は動かない。


 影が言う。


「覚えてる」


「全部」


 声が震えている。


「コメントも」


 チャットが凍る。


「“飛べ”って言ったやつ」


「“いける”って言ったやつ」


「“二人ジャンプ”って言ったやつ」


 空洞の空気が重くなる。


 チャットがゆっくり流れる。


〈……〉

〈やめろ〉

〈それは違う〉


 影が言った。


「見てた」


「みんな」


「笑ってた」


 その瞬間。


 影の体が膨れ上がった。


 黒い霧が広がる。


 腕が伸びる。


 体が巨大になる。


 三メートル。


 四メートル。


 五メートル。


 ギィィィィィ!!


 異形の怪物になった。


 人の形を崩した影。


 無数の手が伸びている。


 チャットが爆発する。


〈ボス戦〉

〈やばい〉

〈恨みの集合体?〉


 怪物が吠える。


「見てただろ」


「お前も」


 俺を指差す。


「こいつらも」


 その瞬間。


 チャットが止まった。


 俺はゆっくり息を吐いた。


「……そうだな」


 ナイフを抜く。


「見てた」


 怪物が突進した。


 ドォン!!


 地面が砕ける。


 俺は横に跳んだ。


 怪物の腕が岩を粉砕する。


 俺は言った。


「でもな」


 カメラを見る。


「お前も見てただろ」


 怪物が止まる。


「コメント」


 チャットが動く。


〈え〉

〈なに〉


 俺は叫んだ。


「誰が言ったか書け」


 一瞬。


 チャットが止まる。


 そして。


 流れ出す。


〈俺だ〉

〈俺も言った〉

〈ごめん〉

〈止めなかった〉


 コメントが増える。


 謝罪。


 告白。


 後悔。


 画面が文字で埋まる。


 その瞬間。


 怪物の体が揺れた。


 ギッ……!


 黒い霧が崩れる。


 チャットがざわつく。


〈弱ってる〉

〈なんで?〉


 俺は言った。


「観測だ」


「罪も、観測される」


 怪物が叫ぶ。


「違う!!」


 腕を振り上げる。


 巨大な影の拳。


 俺に落ちる。


 ドォォン!!


 地面が爆発する。


 煙。


 岩の破片。


 その中で。


 俺は立っていた。


「コメント」


 静かに言う。


「終わらせろ」


 チャットが爆発した。


〈終われ〉

〈終われ〉

〈終われ〉


 ナイフが光る。


 白い光。


 観測の光。


 俺は走った。


 怪物に向かって。


 影が腕を振る。


 俺は潜る。


 跳ぶ。


 怪物の胸。


 黒い核。


 ナイフを突き立てる。


 ズン。


 一瞬。


 怪物の体が止まる。


 そして。


 崩れた。


 黒い霧が消える。


 静寂。


 床に残ったのは。


 ただの影。


 そして。


 空中の文字。


【観測試験クリア】


【適合率】


 63%


 視聴者数。


 301,000


 チャットが爆発した。


〈30万〉

〈伝説〉

〈歴史配信〉


 俺は息を吐く。


 そして。


 椅子を見る。


 石の椅子。


 静かにそこにある。


 その時。


 空中の文字が変わった。


【最終試験】


【観測対象】


 ゆっくり表示される。


「配信者」


 俺は眉をひそめた。


 次の瞬間。


 床に影が落ちた。


 俺の影。


 だが。


 動きが違う。


 影が、立ち上がった。


 そして。


 もう一人の俺が、そこに立っていた。


「……やっとだ」


 影の俺が笑う。


「ここまで来たか」


 空洞の空気が凍る。


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